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ウォールポリス・クライシス 後編

     * * *




「似合わねえな」


「だな」


「ひでぇっ!?」


眼鏡をかけたダニエラへの言葉である。


「ちくしょー、アタシの家に代々伝わる貴重なマジックアイテムなんだぞ」


その効果は例えば矢などの攻撃の、命中率の向上など。


この事態を受けて、駐留しているセレスティアの守備隊とは別に、街の有志を集めて防衛隊が結成されることとなったのだが、それにエリーゼ達も志願したのだった。


それを聞いたトーマスたちも参加するらしい。


そして、適正のあるダニエラとアミナはヴァリアントの長弓手をつとめることとなった。


「二重三重のセレスティアの警戒線を越えて、どんな手品を使うんだか知らないがこの街を攻めるってんだ。アタシ等も黙ってられないだろ」


「まあ、そりゃあな。けどヴァリアントはどうすんだよ」


「事情を話したら守備隊の予備機を貸してもらえることになった。まあそこそこは役に立てるだろう」


そうしてかき集められたのが二十機の守備隊機に六機の警察隊。そして二十六機の防衛隊機とコウヤ達が四機。計五十六機である。


街の北西二キロの地点に通告通り敵の部隊が出現したのが十分前。


それまではいかなる監視にも引っかからず、まさに幻影のように現れたのだ。


「規模は十八機と中隊規模。機種は全数が重ヴァリアント〈グスタフ〉ですか」


アミナが先に聞かされた敵についての情報を復唱する。


数でならば一見こちらの方が圧倒しているように見えるが、相手は通常のヴァリアントの三倍近い性能を持つ〈グスタフ〉だ。

…とてもではないが足りないくらいだった。


「相手にとって不足なしだ。だろ?」


「お前とはちげーよ。不安な物は不安さ」


その言葉に、意外な目でコウヤを見るアミナ。


「あっ、時間です!」


…そうこうしている内に出撃の時間になってしまった。


「ようし、行くか!」


そういって、更衣室の出口へとコウヤ達は出た。


  * * *


壁にある街の入り口である門がふさがれ、そこに掛けられたスロープに正面に出る機体が集まった。


《集まったな、全隊配置に付け!》


その言葉に、皆は簡易に築かれた陣地へと向かう。


そして暫く後、最大望遠で確認できる距離に現れた、ランティファールの一隊。


《撃ち方始め!》


壁の上と即席の壕に伏せた守備隊のヴァリアントから、矢の斉射が放たれる。…が、熟練らしいランティファール機にそのことごとくを避けられていく。


《第二射、用意!》


装填がされ、再び射かけられる。だが結果は同じで、ここまでの命中弾ゼロ。


そうして距離は縮められていき、互いに目視できる距離となった。


その時、ランティファールの全機が一斉に剣を抜きはなち、そのあまりもの迫力に守備隊が混乱を来す。


《き、騎兵突撃だ?!》


《だ、第三射の用意をっ》


《…もう遅い、白兵戦の準備をしろ!》


そして先頭に立つ、ライトブラウンの〈グスタフ〉。


《ーーご、強盗騎士団っ!?》


広げられた翼に立てられた剣。


〈グスタフ〉の肩に描かれたそのエンブレムを見た守備隊の隊員から、慄きの声があがる。


《誰が強盗か!》


聞き覚えのある声。


(まさか…)


「もしかして、お前は!」


《その声、お前はセレスティアの奴だったのか!》


「お前こそ危ないじゃないか! 子供がこんな事をして」


《っ!》


踏み抜いた地雷がまず一つ。


《男の子ならヴァリアントにあこがれるかもしれないけど、今すぐ降りなさい!》


そして二つ。


《ああっ、お嬢の気にしていることをあんなにっ!》


「ん、お嬢?」


《…い、言わせておけばぁっ!?》


「どわあぁっ?!」


一軍が陣にぶつかる、その瞬間。

突っ込んできたライトブラウンの〈グスタフ〉が〈シロガネ〉に迫り、怒りに任せた剣が闇雲に振りかざされる。


蹂躙されていく陣の中、〈グスタフ〉が〈シロガネ〉に剣を突きつけた。


《オレは子供でもなければ男でもねえっ!》


「だったらなんだってんだ!」


少女はフフンと笑い、


《ランティファール有翼騎士団〈フリューゲルリッター〉次代筆頭、レオナ・シュバルタークとはこのオレの事よ!》


名乗りを上げた。


     * * *


《どうするんですかっ、コウヤさんのパラディンが囲まれちゃってますよ!》


《いわれんでも分かってる!》


焦るアミナにダニエラが怒鳴り返す。


《エリーゼはっ》


《敵を相手していますが中々手強いようで、打ち合いを続けています!》


《エリーゼ相手にそんな粘れるのかよっ!?》


《押されてるぐらいです! 援護しましょう!》


《ちょっと待て、まだかかる!》


ダニエラとアミナは長弓の準備が長引いていた。


かさばる事と何かと手間がかかることから、ヴァリアント同士の機動戦には適さないが、後方からの支援射撃に威力を発揮する長弓。


ひとたび放てば絶大な威力を発揮するのであるのだが。


《よーし、出来た!》


《こっちもです!》


最後の準備として、眼鏡を整えるダニエラ。


《待ってろよコウヤ、エリーゼ!》


《撃ちます!》


言って、弓ががっと引き絞られ、そして矢が放たれた。



     * * *


破滅的な威力の長弓による、大地を大きく抉る射撃が着弾する中、レオナとコウヤは向かい合っていた。


《邪魔立て無用だ、オレはコイツと戦いたい》


《…御意》


そのレオナの言葉に他の〈グスタフ〉が引き下がる。


《これで一対一だな》


「…何を考えてんだよお前は」


《何も。ただお前と存分にやり合いたい。そう思っただけだ》


ああも言われたんじゃ只では置けないからなとレオナ。


「…本当にやるのかよ」


《お前にはその覚悟がないと?》


「いや、そう言う理屈じゃねーだろ?!」


《ゴタゴタ言うな!》


「うわぁっ!」


突き出されたレオナの一振り。借り物の長剣を打ち付けつつ、コウヤは悲鳴を上げる。


《戦いは既に始まっている!》


「勝手な理屈だっ」


《勝手で結構!》


一歩ずつ寄っては離れ、剣の打ち合いは続き、そして…


《せやぁ!》


「うわぁっと!」


刃で抱くように放たれた一撃を、咄嗟に身を捩るようにしてかわすコウヤ。


(こいつ、ヴァリアントの機動限界以上のことをっ?)


《ーー面白いじゃないか!》


獰猛な笑みを浮かべるレオナ。


《どうした、掛かってこないのか?》


「こ、今度はこっちからだ!」


コウヤからの攻撃。だが振りかぶられた剣戟も、数度剣を当てられるだけで打ち消された。


《まあ、こんな物か》


「ぐぅっ」


《ーーまあ、潮時だと思っていたところだ》


その言葉に顔を上げるコウヤ


見ると、西北の方から、ヴォクス基地より出撃した救援が戦域に達しようとしていた。


《…お前と遊べて楽しかった》


「なっ、お前はっ」


《ーー我々の目的は既に達成されている。野郎共、引き上げるぞ!》


《はっ》


「おい!」


《…縁があれば、また会おう》


そう言い残し、レオナは去っていった。


     * * *


その日の夕方。

基地に戻る直前、街の国際電話で〈猫の足跡亭〉のアリシアたちに自身の無事を伝えつつ、コウヤは今までの事を考えていた


ーーレオナと名乗ったあの少女。


強盗騎士団、もといフリューゲルリッター。ランティファール一の武功をあげてきた最精鋭の騎士団。


(…色々ありすぎて訳分かんねえよ)


受話器を片手に、戦いを思い出すように手をグッパーと握っては開いて、


…そうしてコウヤは一人ごちた。


夜の帳が降りようとしていた。


     * * *


城壁都市アルリアへの攻撃。


この事態を受けて、セレスティアは予てより検討されていたアルグランデへの主力部隊の派兵を即座に決定。これまで限定的だった戦闘は一気に全面衝突の様相を呈する事となった。


しかし派遣軍の規模がそれほど大きくなく、セレスティアが思ったよりの強攻策に出れなかったのは、アルリアの一件でその気になればセレスティア本土も攻撃できると示威されたことで、奇襲に備え本土の守りを動かすことが出来なくなった事による。


ただ、やられて黙っているセレスティアではなく、デストロイヤー級ヴァリアントによる重騎兵部隊の投入も噂される中、ルクドニアの国家間連合組織である大協約連合や宣誓同盟もこの事態への介入の検討を示唆。


短期間で終わると思われていた戦いは思わぬ局面を迎えつつあった。


     * * *


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