ウォールポリス・クライシス 前編
* * *
二日後の週末、激務続きだったコウヤ達に一日の休暇が与えられる事になった。
所用の出来たコウヤは基地の外にお出かけである。
…なのだが、
「で、何でお前等もついてくるんだよ」
「なんでって、なあ」
「うん」
「私は止めたんですけど…」
トーマスの名前で、今朝の新聞に載っていた自分の事が書いてある人探しの広告を見て、そこに書かれた城壁都市、アルリアへとコウヤは早速向かっていた。
…親方たちは必ずそこで待っているはずであった。
予定外なのはエリーゼ、ダニエラ、アミナの女三人が付いてきた事である。
「たまたま目的地が同じなだけさ」
「本当か〜?」
「そうとも」
言いながら、三人はハッチを開けて面積をとったコクピットに乗り込んでいた。
「窮屈なんすけど」
「我慢だ我慢」
ゲンナリとしながらも、コウヤは気持ち気を使いつつ〈シロガネ〉を歩かせる。
この地域の地理的特徴である、マギダイトの巨大な鉱床であるテーブルマウンテンの上に築かれた自治城壁都市は併せて八つ。
長らく自治を行っていたアルグランデ地域の人的、経済的基盤であり、現在セレスティアとランティファールの戦闘はこうした独立都市の争奪戦に入っているという。
その中でもアルリアはセレスティアの国境にもっとも近い街であり、そんな心配もないと言えばそうなのだが。
「見えたぞ」
ヴォクス基地から片道一時間半を掛けて到着した街は、青空の下、白く巨大な壁が映えていた。
* * *
「トーマスさんっ」
「コウヤ! 怪我はなかったか、酷いことはされてないな?」
「そっちこそ、こっちはなんともだよ」
真っ先に向かった、広告に書いてあったホテルのロビーで、コウヤはトーマスたちと再会していた。
「私達はしばらくランティファール軍に拘束されていたが、簡単な聴取を受けたらすぐに解放されたよ。行く宛もないからこの街に来たんだが、いったいなんだったんだか…」
「そっか。俺は事情があってセレスティアの軍隊に雇われてる。戦争が終わったら帰れそうだよ」
「戦闘に参加するんだろ、大丈夫なのか?」
「まあな」
「私達はまだしばらくここに留まっているつもりだ。…連絡先を渡しておくから、何かある前に必ず言いなさい。いいね?」
「おう!」
それから情報を交換した後、ホテルから出たコウヤは市内見物として街をぶらついていた。
戦闘は局所的なため、セレスティアとの国境が近いこともあって、活気のある街は戦争中だと言うことを微塵も感じさせない。
昼過ぎを回り、腹を膨らませるためにホットドッグ・スタンドでレギュラーのを頼もうとした時、
…ガムを膨らませながらこちらを睨む不良風なお子さまが一人。
・
見た目は今のコウヤと同じくらいである。
「それ、少しくれよ」
指さす先にはコウヤの手の中のホットドッグ。
「何だよ、たかりか?」
「味見したいだけだよ。美味かったら買う」
「おまえなぁ」
雑踏の中、奇妙な沈黙が落ちる。
「くれなかったら泣くぞ」
「…ちょっとだけだぞ」
「やーり!」
そう言うや否や、子供が詰め寄ると半分ほど持って行かれてしまった。
「あーっ!」
「おお、これはなかなか」
もぐもぐと食べていき、三口目には口の中へ収まってしまった。
「はあ、美味かった」
「お前なぁ…」
そういってケチャップの付いた口を拭う。
「…なあ、ここは平和な街だな」
「あ? ああ、そうだな」
「長いのか?」
「俺か? 用事があってきただけだよ」
「そっか」
再び流れる沈黙。
「おやびーん!」
それを破ったのは、サングラスを掛けた見るからに怪しい男が二人。
「なんだなんだ、不審者か?」
警戒するコウヤ。
「おやび…」「そらぁ!」
その時、お子さまが見事な跳び蹴りを放ち、悲鳴を上げて吹き飛ばされる男たち。
着地し、コウヤの方へ振り向くと、
「あんがとな!」
とだけ言い残して、男たちをつれて去っていった。
「な、何だったんだ…」
後に残されたのは呆然とするコウヤだけ。
そして街の時計台を見て焦るコウヤ。
「やべっ」
エリーゼ達との待ち合わせ場所である噴水広場に向かった。
走ること三分ほど、雑踏を背景に待ち合わせ場所にすでにいたエリーゼ達。
その手には、ジェラートやクレープなどを持っている。
帰りもコウヤの〈シロガネ〉に便乗する予定であるため、こうしてコウヤを待っていたのである。
「待ったぞ」
「わりいわりい」
「すいません、帰りもお世話になります」
買い物袋などを持っている辺り、皆思い思いに羽を伸ばしてきた様だった。
帰ろうかとヴァリアントを預けてある駐機場に向かおうとした…その時、人々のざわめきが大きくなって、見上げると、空に閃く翼竜の影。
「ワイバーンだ!」
誰かがいった。
そして何かがパラパラと降ってきた。
「ビラ…?」
ひらひらと目の前に舞い落ちた一枚を拾い、裏表を確認するコウヤ
「あんま字ぃ読めねえんだよ。読んでくれるかエリーゼ」
「どれどれ…舐められた物だな」
「なんだなんだ」
エリーゼの表情が剣呑な物となる。
「この街を攻める、だそうだ」
「ランティファールか?」
「ああ」
「何でまた…」
「わからんな」
昼下がり、街のざわめきが徐々に激しくなっていった。
* * *
街から離れた森の中。
そこに、ヴァリアント〈グスタフ〉で構成されたランティファールの一個中隊が潜んでいた。
「団長、アルリアへの警告作業完了しました」
「おう、手筈通り部隊を展開させろ。…何もかもあの女のお膳立てなのは気に入らねえ。オレ達にはオレ達なりの戦い方があるってのを示してやる」
「はっ…」
「この作戦の実施自体が我々にとっての手柄だ。守備隊を撃破し市内に入ることがあっても、恥となるような滅多なことはするなと全員に伝えておけ」
「はっ」
側近らしき男が離れ、後には小柄な影が残る。
「さあ、今日は吉日かな?」
口の端には僅かにケチャップの跡が付いていた。
* * *




