真昼の迎撃戦
* * *
集結地点で無事中隊と合流し、その後セレスティア側の国境沿いにあるヴォクス基地にまで案内されて、ようやく屋根のあるところで休むことの出来たコウヤ達。
ぐっすり寝ることが出来、起こされたのが翌日の九時。
この際だからと嗜好品は基地の兵たちにあげてしまい、食材は料理にして振る舞った。
今はその後かたづけの最中である。
場所として使わせてもらったハンガーははっきり言って急造で、まだまだ仮設と言った方がしっくりくる様子だった。
「協定のため、セレスティア、ランティファールのどちらともアルグランデ一帯には基地を作らなかったからな。一月前に開設されたここが我が軍の本格的な作戦拠点となる」
偉い人との話から戻ったリカルドがそう説明してみせる。
「最初から準備万端だった訳だ」
「今思うとそうなのかもしれないな。さて、ここで良いニュースと悪いニュースの二つがあるんだが、どちらから聞きたい?」
コウヤはもちろん良いニュースからである。
「制圧されている鉱山の鉱夫達が一部解放されたらしい。その中に君の仲間がいるのかまでは残念ながら分からなかった」
「ほうほう」
「そして悪いニュースの方だが、君には我が軍と契約をしてもらいたい」
「契約?」
「そうだ。具体的には現地徴用のポーターとして、我が隊の行動の手助けをしてもらいたいのだ。機密保持のためにね」
「頷かない場合は?」
「その場合はセレスティア本国に送られた後、戦争が続いている間は軍の管理下で拘束されるとのことだ」
「ーー分かった、契約だ」
「…感謝する」
「しょーがねえよなー、よく分かんねえけど戦争なんだもんな」
「我が方の作戦本部の見立てでは、長期化したとしても、どう長引いても冬の感謝祭までにはケリが付くとのことだ。何、そのころまでには帰れるさ」
(…どっかで聞いたことのあるフレーズなんだが、これは)
おそらくそれは学校の教科書だろう。
* * *
そしてその日の午後、今後についての話があると言うことでハンガーに集められた、小隊員五名とコウヤ。
周りを見ると、他の小隊も同様に集まっているようだった
黒い黒板の掛けられたそこに隊長であるリカルドが立つ。
「こほん、諸君等に集まってもらったのは他ではない。司令部からの辞令により、我々は中隊付第四小隊として、とりあえずだが正式に作戦部隊となった。君たち訓練生も、隊員として任務に従事してくれ」
「は、はい!」
ここまではコウヤも聞いていた。
「そして今から早速、基地付近まで接近しているランティファール部隊の撃退に我々も参加することになった」
これはコウヤは聞いていなかった。
「報告によると機種はディルバレンタイプで数は九機、敵の威力偵察部隊と推測される。攻撃には我が小隊と第二小隊が参加し、残りの部隊は当基地の防衛に当たる。何か質問は?」
一拍の間、アミナが挙手をした。
「中隊の全部隊とは行かなくても、万全を期すべく後一小隊ほど攻撃隊を増やすことは出来ないのでしょうか」
「それは難しい。敵に戦力の全てを晒すわけにはいかないし、囮の可能性もある。基地防衛の分も必要だからだ。他には?」
挙手はあがらなかった。
「それでは今から五分後には出撃する。準備に掛かれ!」
《ヴァリアント騎兵搭乗員は搭乗急げ、守備隊各員は速やかに配置につけっ。繰り返す!》
サイレンが鳴る中、慌ただしく人が動いていく。
(せ、戦争することになっちまった)
ここに来て臆病風が吹くコウヤである。
「おーいボウズ! さっきの飯は旨かったぞ。それとお前の機体は戦闘が可能なように整備しておいた。気を付けていって来いよ!」
整備員の一人が叫ぶ。
「あ、ああ。あんがとさんよ!」
(…行くっきゃないか!)
覚悟を決めたコウヤである。
* * *
護身用に整備員達に持たされた剣を抱え、コウヤは迎撃地点の森の中で潜んでいた。
〈シロガネ〉は、肩に付けたラックに予備の剣や矢立てなどを取り付けた姿である。
《ーー敵部隊補足。ブラウン隊、交戦に入る!》
第二小隊からの報告の通信が入り…交戦開始。
途端ににぎやかくなった通信と遠くに剣戟の音を聞きつつ、特に指示の出てないコウヤは機体を動かさずにいた。
ぽっかりと空いたような、奇妙な沈黙が流れる。
やることもなく暇であった。なんなら通信で応援を求めている第二小隊の加勢にでも行こうかと思いかけて、機体を立ち上がらせたーーその瞬間。
「わっ!」
まさに今胴があったところにぴしぴしと着弾した矢が二本。
飛んできた先を見ると、クロスボウを構え、林から分け出てきた〈ディルバレン〉が三機。
「げっ、いつの間に!?」
コウヤは剣を抜くと、一太刀浴びせるべく接近を図った。が、
先頭の〈ディルバレン〉のクロスボウが〈シロガネ〉に向けられた瞬間、警報がコクピットに響く。
整備の結果、〈シロガネ〉は攻撃検知機能が追加され、ロックオンされた際に警報が鳴るようになっていたのだ。
瞬間、発射。機体を疾らせ放たれた矢を後ろに回避しながら、間合いを取りつつ接近の機会をコウヤは再び伺う。
「こちらスカーレット七番、敵の別働隊を発見した! こちらスカーレット七番!!」
与えられた自身のコールナンバーで通信に叫びつつ、敵との距離を見計らう……近づける。こちらを与し易しとみてか、停止した敵からの一斉に放たれた第二射をかわしつつ、一気に機体を踏み込み掛けた、その時。
《のめり込みすぎだ!》
怒鳴りながら援護に来たエリーゼの〈ベルトール〉が跳躍。
林から今まさに出た相手の一機を切りつけて突っ込んだ。
「どうすりゃ良かったんだよ!」
《そう言うときは助けを求めるんだ!》
怒鳴り返すもまた怒鳴られる。
《助けに来たぜ!》
《援護します!》
ダニエラとアミナの〈ベルトール〉も現れ、こうしてこちらは四機。
それを劣勢と見てか、相手は踵を返して森の中へ消えていった。
《…撤退していく》
「何とかなったのか…」
他の敵部隊も引き上げたようで、隊長を始めとした他の第四小隊機が合流に現れた。
この日の戦闘は終結した。
* * *
夕焼けの中、ハンガーで整備員達に整備を受ける〈シロガネ〉。
それを観ながらコウヤはぼんやりとしていた。
「よっ」
「…エリーゼ」
「何だ、さっきのことを気にしてるのか」
次回からは気を付けろよと手すりに身体を任せながらエリーゼは言った。
「それもあるんだけどさ、まあ、なんつうか。今までも色々あったけど、戦争やったんだなーって思ってさ」
「そうか」
そう言ってコウヤの後ろに立ち、胸で頭を抱き留めるように身体を重ねたエリーゼ。
「なにしてるんすか」
「別に、ただこうしたいからしてるだけだ」
そうですかーと返しつつ、なにやら感じる汗の匂いに気付いたコウヤ。
「…なんか汗くさいんですけど」
「ああ、戦闘の後入ろうと思ってたんだが風呂釜が壊れたらしくてな、結局四日程風呂に入れずじまいだ!」
「汚っ!?」
「こうしてやるー!」
「やーめーろー!」
身体を押しつけるエリーゼに抵抗するコウヤ。
それを夕日に照らされた〈シロガネ〉の顔が、優しげに見守っていた。




