かーらーのーエスケープ
* * *
一日もあれば本隊の集結地点まで到達できると言うことで夜通し歩き続けた一行。
朝日が出てきた頃一時休憩となり、ヴァリアントから降りたコウヤは隊員たちと面会わせをしていた。
エリーゼ・バロムシュタット
ダニエラ・ロプソン
アミナ・リーネル
ガナン・バークレー
ボナール・バレンティン
以上の五名がこの教育隊の隊員である。
それとは別にコウヤを悩ませていたのはシロガネに装備したままの大量の荷物。
悩んだ末、痛んでしまう前に使ってしまおうと早めの朝食として料理を振る舞うことにしたのである。
兵装トランクから取り出した大鍋で、〈シロガネ〉のバスケットから材料を出して作っているのは、カルボナーラとベルデ・スープ。
塩胡椒とインスタントの固形ブイヨンで、荒くほぐしたランチョンミートとソーセージ、ジャガイモやキャベツ等の野菜を煮込んだ簡易ポトフである。
そして出来上がったあつあつのスープに、粗挽きコショウと粉チーズをたっぷりとかけて食べるのがベルデ流だった。
…本来ならば鉱山で、ベルデの鉱夫達に作っているはずの物であった。
器に盛りつけ皆に渡す。軍人なのでか喰いっぷりが良い。
「「「「「おかわり」」」」」
「喰うの早すぎだろ!?」
「けふっ、いやあ絶品でな。流石はトリエステの奴だけはある」
口の端にカルボナーラのソースを付けて喋るエリーゼ。
ヴァリアントを降りて会ったエリーゼは、目鼻の整ったすっきりとした美人だった。
「…はぁ」
ため息を吐きつつ、こうなることを見越して多めに作っておいた料理を再び盛りつける。
そうして食事の時間は過ぎていった。
* * *
片付けもすませ、そして行軍は再開されたのである。が、
「なんでこんな所まで敵がうろうろしてんだよ」
「鉱山の戦闘で負けた我が方の残党狩りと言うことだろう…しかし厄介だな」
先行して進んでいたコウヤとエリーゼが、敵のヴァリアントの一機と遭遇してしまったのである。
…幸いにも気付かれてはいない。
先手を打って攻撃を仕掛けるのには絶好といえた。
《こういうときは相手に感知されてしまう射撃管制装置は使わず、目視で狙いを付けるのだったな》
言いつつ、じっくりと冷静に照準し、その瞬間、トリガーを引き絞ったエリーゼ。
…が、
《えっ》
「あっ」
エリーゼが放った矢は見当外れの方角へ飛んで行ってしまった!
「おばかー!」
《す、すまない。射撃は不得手なのだ》
気付かれ、クロスボウをこちらに向ける〈ディルバレン〉。
《拙いっ!》
撃たれた瞬間、機体を機動させるコウヤとエリーゼ。
だが、避けきれなかった一発が〈シロガネ〉に命中する。
「ぐわぁーっ!」
直後、自動車にはねられたような衝撃がコウヤの体を襲う。
《大丈夫か!?》
「こ、これは結構効くぜ…」
…黒マギダイトで機体が作られているヴァリアントはこうした攻撃などを搭乗者まで物理的に通す事はないが、衝撃までは防ぐことが出来ない。
意識が刈り飛ばされそうになるも、すんでの所で踏みとどまった。
《敵の一機と遭遇しました。こちらから仕掛けましたが当たらず、現在交戦中です!》
《独断専行は慎め! ともかくこちらも本隊と思われる部隊と接敵した、今すぐにはそちらには向かえんっ》
《了解っ》
「了解じゃねーよどうすんだよ!」
テンパったコウヤが悲鳴のような叫びをあげる。
《昨日と同じくお前と私とで撃破する、簡単だろ?》
クロスボウを携行ホルダーに戻し、剣の柄に手を掛けたエリーゼが言った。
「俺はどうするんだよ!」
そう言われても武器がないのだ。
《何とかして誘い出してくれ!》
「鬼ぃ!」
怒鳴りつつコウヤは機体を動かした。
相手の〈ディルバレン〉は、装填したクロスボウを片手に剣をもう一方の手に持ち、コウヤ達に構えていた。
エリーゼが接近するが、仕掛ける隙がない。互いににじり寄ってはにらみ合いを続けるばかりである
ーー降りる沈黙。
手持ちぶさたのコウヤが挟むように背後へ機体を向かわせた、…その時。
意を決したように、矢を〈シロガネ〉に放った後クロスボウを放り投げ、両手で持った剣でエリーゼに接近戦を仕掛けた〈ディルバレン〉。
「二度も当たるかい!」
コウヤが放たれた矢をかわすのと、エリーゼが〈ディルバレン〉の剣をはね飛ばし、その胴に一撃を見舞ったのは同時だった。
「ふ、ふう」
崩れ落ちる〈ディルバレン〉を見て、安堵の息を漏らしたコウヤ。
隊長達も本隊を撃退し、その日の十一時、無事に小隊は集結地点に到達することが出来た。




