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発端





今日も今日とて猫の足跡亭…


「えーっ! コウヤもついて行っちゃうの?!」


だが少し様子が違うようだ。


「そうそう。何でも遺跡が見つかったらしくてさ、ちょっと手がかりをと思ってな」


「えー」


トリエステの隣国であるセレスティア王国。そことさらにその隣国であるランティファール帝国との中間にあるアルグランデ地域の鉱山に、このベルデから選りすぐりを集めて技術指導の一団が向かうことになったのはアリシアも知っていた。

それにコウヤもヴァリアント乗りとしてついて行くことにしたのだ。


「長くても一月で帰ってくるから、そんな心配しなくて良い」


団長を務めるトーマスが言う。


「はーい」


トーマスが同行を認めたのも、有望なヴァリアント乗りであるコウヤのキャリアアップをという考えが密かにあったからである。


「そういえば紛争地帯なんでしょ? アルグランデって」


「セレスティアと隣国のランティファールの二カ国の係争地域なんだが、ここ十年ぐらいは石の投げ合いも起きてないさ」


「ふうん」


「き、気をつけてねっ」


「ありがとな。まあ、みんな土産期待してろよ」


そう言いながらノエルと握手するコウヤ。


…コウヤが出かけている間はレイチェルがノエルの食事を作る事になっている。


出発は二日後の週末である。




ーーそして、コウヤにとっての波乱の一月が始まろうとしていたのだ。



     * * *






ヴァリアントは背中に当たる部分にコクピットを納めたモジュールがあるため、人間のように背中に荷物を背負うことが出来ない。


ではどこで荷物を持つかというと、肩である。


肩部アーマーの表面に当てた固定架に頑丈なワイヤーを通し、それをアーマーの裏にあるフックで固定。


荷物を入れたバスケットなどを固定架に掛け、最後に改めてワイヤーで固定する。



当然コウヤが一人で出来る作業ではなく、店の人にも手伝ってもらったわけだが、それでもこんな遅くまで時間がかかってしまった。

…何しろ買った量が尋常ではなかったのだ。


鉱山を出たのが夕暮れ時だったが…、


手元の時計では夜の七時。


両の肩に縛り付けた荷物を揺らしながら、少し機体を走らせての帰路である。


「あー、己のじゃんけん運の無さが恨めしい」


港で皆に見送られながら、チャーターした飛空船で二時間。ヴァリアントとともに一団はその日の内に到着したのだが、コウヤは一度鉱山に到着してすぐ、そのような事情から麓の町まで食料や嗜好品等の買い出しに行かされたのである。


バスケットは店からの借り物であるため、翌日返しに行くことになっていた。



ヴァリアントで片道一時間である、目的地であるアルグランデ鉱山までは一本道のため迷うことはないが、似たような景色ばかりで距離感を失う。


それでも行く際に途中の木々の特徴などを覚えていたため、ここが丁度鉱山までの中程だと言うことはわかった。


月明かりの眩しい中、見上げると、それは見事な満月が昇っていたのだが…流れてきた雲に隠れてしまって、周囲は深い闇に覆われた。


機体を走らせながら、大狼でも出てきそうだ、とコウヤは思った。


何やら不穏な気配を感じていたのである。


…そして、


「ーーんっ?」


視界の端に閃いたそれを認めるよりも先に…ーー


突然、場違いな矢が飛来してきたのがその時だった!


「何だ!」


(山賊か何かか?)


ガッ、と土とつぶてが弾ける音と共に〈シロガネ〉の足下に突き立った矢を見て、未だにこの辺りにはそう言うのがいるらしいと事前にトーマスから聞いていた事を思い出した。


気になって望遠で道の先を見てみると、そこで繰り広げられていたのは、闇の中、街道上で剣戟を打ち合うヴァリアント達。


ずんぐりしたのと、所々〈シロガネ〉にも似た意匠のある細身なのが二手に分かれて戦っているようだ。


記憶が正しければ、アリシアに以前見せてもらった『図解・よいこのはたらくヴァリアントずかん』によると、それぞれレンヌヴィル製のディルバレンとクリスタニア製のベルトールという奴である。そしてその運用国はこの辺りならランティファールとセレスティア。


ーーこちらにきたのは、狙いの外れた矢が飛んできただけだと思いたい。


どういう事情かは存じないが、とにかくこのまま逃げるに限る。と言うことでコウヤは機体を反転させ、この場から離脱しようとしたのだが…


《止まれ!》


男のがなり声で呼び止められ、機体を止めたコウヤ


振り向くと、展開した三機の〈ディルバレン〉がクロスボウを構えて威嚇していた。

…先ほどの矢はどうやら彼らが放った物らしい。


《この場では我々ランティファール軍が極秘の作戦を遂行中である。貴様を拘束させてもらう!》


「自分で言うか自分でっ」


《動くんじゃない!》


さらに凄む〈ディルバレン〉の部隊。


しかしその時、



ーー…………!ーー


《な、がぁっ!》


剣の滑る音が響きわたり、構えていた〈ディルバレン〉の一機が崩れ落ちる!


そしてその背後に出現していたのは、一機の〈ベルトール〉。



…目にも留まらぬ剣捌きで斬ったのだ。


《くっ》


《セレスティア!》


最後に見せつける様に目前の〈ベルトール〉は構えの姿勢を取って、その気迫に残った二機がたじろいだ。


《民間人の通行の自由は協定によって保証されている!》


通信で聞こえた、凛とした女性の声。


《セレスティア軍のエリーゼ・バロムシュタットだ。今の内に逃げろ!》


名乗り、残った二機に向かい見得を切る。


《させるかよ!》


エリーゼと名乗った〈ベルトール〉と〈シロガネ〉の間に矢が着弾した。


《ーーそこのパラディン、逃げるんじゃねえぞ!》


そう言われ、立ちすくむしかなくなったコウヤ。


どのみちヴァリアントの総重量の三分の一を越えようかという大荷物を抱えている身である。腕の動作角も制限され、満足な戦闘機動が取れない以上、戦うことも逃げ出すことも出来ないだろう。


とはいえこの混戦の状況で今すぐの投降が出来よう筈が無く、投降したその先に何が待ち受けているかも分からなかった。






《ぐわっああっ!》


戦闘が再開したわけだが、そこに響く絶叫。


再び切り込むべく接近する前に、エリーゼは距離を取られてしまい、矢を撃たれるばかりとなっていた。


先ほど見せた切れのある剣捌きとは違い、矢を受けながらのその動きはおぼつかない。


(太刀筋はいいんだろうがそれまでだ。回避機動がなっちゃいない!)


相手の側もそれに気付いたのか、近づくことはせず射撃のみで撃破を図るようだった。


さらに二機からの一斉射が〈ベルトール〉を襲う。


《あああっ!》


「…っ!」


見ていられない。




…コウヤは覚悟を決めた。


「ーーエリーゼさんよ、俺が敵を引きつけてみるから、その隙に得意の接近戦に持ち込んでくれ!」



《あ、ああ。分かった!》


そう言うや否やコウヤは機体を踏み込み、倒れているランティファール機から拝借した長剣を構え、ランティファール側に向かって振りかぶって相手にアピールを仕掛ける。


ーーパニックになった民間機が攻撃をしかけてきた。


このエサに食いついてくれればいいのだが。


《そこの民間機、剣を捨てろぉっ!》


…相手からの通信。うまくいったらしい。


ニヤリとするコウヤ。


構えたクロスボウをすぐには撃たなかった辺り、良心的なヴァリアント乗りと言えた。だが、


…混乱の中、そうして生まれた一瞬の隙。


《せやぁっ!》


立ち直ったエリーゼが斬るには十分な時間だった!


《ぐわあぁっ!!》


切りつけられたディルバレンが崩れ落ちる。


「悪く思うなよ、先に仕掛けてきたのはあんた達だろうぜっ」


《なあ、お前はどうしてそんなに戦い慣れしてるんだっ》


「色々あったのさ!」


そして共同で、


《「てえぃ!!!」》


《がああっ!?》


最後の一機を撃破。




他のランティファール機も制圧されたらしく、チャンバラの音も止み、

雲から出た満月によって、コウヤ達は月明かりに照らし出された。


     * * *


「成る程ね、中隊規模で訓練に向かう途中に鉱山付近で突然始まった戦闘。戦力にならない訓練生を連れて戦域を離脱中に敵の斥候と遭遇して交戦し、そうこうしている内に通りがかりの俺が巻き込まれたと」


《そうだ》


そこまで状況を把握して、鉱山には戻れなさそうだと判断したコウヤ。


場所を移して、セレスティア隊の隊長だという男との会話である。


「訓練に向かう、ねえ」


《ああ》


「嘘だろ」


コウヤは切り込んだ。


この辺り一帯に目立った演習場はないし、何より行軍演習にしては二枚重ねの盾や予備の矢立てを多く携行するなど、装備が物々しすぎた。


訓練生の装備は軽装であることから、何も教えていないのは確かなのだろう。


「…目的地は鉱山か」


男は何もいわない。


「そもそもそんな当人達にも教えてない訓練生の実地演習なんて手の込んだ偽装が必要な、あんた達の作戦てのは何なんだ?」


…沈黙が流れる。


そんな中突如赤色の光に照らし出され、光の元を探して振り向いたコウヤ。


空高く夜空に打ち上げられた、白っぽい赤色を放つそれは、


「信号弾…?」


《ーーあれは我が軍の撤退信号だ》


「! ちょっと待てよ、それじゃあ!」


《…ああ、作戦は我が方の失敗だろう》


嫌な沈黙。


《ここからはヴァリアントを降りて話をしようか》


「…いーぜ」


そうしてコウヤも降り、現れたのは髭の整えた壮年の男である。


「話の続きだが、それじゃああんた達の現状は群からはぐれたひよっこ部隊と」


「まあ、そう言うことになる」


「……」


男は態度を直し、


「ヴァリアント一機がいるのといないとでは大違いだ。ーーこの場を我々が切り抜けるためには君の協力が不可欠だと考える。…どうか、我が隊に協力していただきたい」


「え、いや、えーっと、あのーその」


大の大人に頭を下げられては、コウヤも何も言えなかった。


沈黙が落ちて、一瞬の熟考。


そしてコウヤははあとため息をつき、


「…はぐれたのは俺も同じだよ。いいさ。但しなんとかして、鉱山にいた親方達の無事を確認する手伝いはしてくれよ」


「了承した。…コホン、改めて、私はセレスティア第十二装甲連隊付教育隊隊長、リカルド・クーゲルだ。よろしく頼む」


「俺はコウヤ、ベルデの街の小田桐コウヤだ」


「よろしく、コウヤ君。…そうと決まれば長居はしていられない。早く移動しよう」


「りょーかい、隊長さん」


月の見る中の握手であった。



     * * *


メカ戦分増量キャンペーン開始。




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