発表会の話
ある日の猫の足跡亭。
「…はぁ」
テーブル席で、肘を立てた腕を頭のつっかえにしながら悩ましげにため息を吐いたアリシア。
「どーしたアリシア」
「んとねー、そろそろ発表会の時期なんだけどね?」
「うんうん」
「なーんも決まってないのさ」
「うん」
クラスの出し物は劇をやろうという話にはなったものの、何をやるのか全く決まっていないのだ。
まとめ役を買って出たアリシアとしてはため息がでる事この上ない。
「発表会はもうすぐなのにね、劇をやる事は決まってるんだけど題材も脚本もなーーんも決まってないの! 全く爆発しちゃいそうだよもうっ」
「うーむ…」
両手を振り上げテーブルに突っ伏したアリシア。結構煮詰まってるらしいその様子に、コウヤも考えに唸るのである。
…しばらくそれは続いて、
「…物は相談なんだが、もし良かったらさ」
「うん?」
コウヤに考えが閃いたのだった。
* * *
ーー日は流れて発表会当日。
それまで発表会が催されていた体育館から、次の出し物を見るため校庭に出た生徒達。
次の発表をするのはアリシア達のクラスであり、そして一クラスだけ野外での発表となったアリシア達に、集まった他のクラスの生徒達はざわめいていたのだ。
…生徒達は校庭に整列した後その隅の、何やら幕が張られた場所の前に案内された。
そこには既にアリシア達のクラスの生徒が集まっていて、どうやらここが劇を発表する舞台らしかった。
「それでは、発表を始めまーす!!」
そう宣言された後、ドレス姿のノエルとローブ姿のリリスが幕の前に出て劇は始まったのである。
題して、“お姫様と賢者の石”。
「あ、ああ、困りました」
「…どうしましたか姫」
「隣国のアクダー総統から挑戦状が届いたのです。このお城の秘宝である賢者の石を盗むと」
「それはそれは…」
そう姫役のノエルと家臣役のリリスが言うと、クラスメイトが務める家臣役が台座に収まった赤いセル張りの紙で出来た宝石を運んできた。
「賢者の石、これがあればどんな願いも叶うといいます」
「…しかしその力には代償が伴う」
「その通り」
どこか棒読み気味の二人の演技は続く。
「なんとしてでも阻止しなければいけません。皆、良いですね?」
『はっ!!』
そして集まった家臣役に兵士役…これだけでクラスの殆どが演じていたのだった。
「はっはっはっはっ!!!」
…すると、右端から扮装をした一人の生徒が、高笑いを上げながら歩いてきた。
「あっ! 貴方は!!」
「ぶへぇくしっ! っと。…噂をしているから来てみたのだが、そうとも。私がアクダーだ!!」
「…警衛は何をしている」
「そんなもの、当の昔にバラ、バラ、バラ、だ」
「貴様…」
リリスの表情が険しくなる。
「ひっ…な、なんとでも言うが良いさ。これからキサマ達も同じ運命を辿るのだからな!」
そうしてアクダーは片手を大きく空に上げて、
「エターナルフォース・ブリザード!」
『ぐわーーっ!!!!!』
その言葉が唱えられると共に、家臣役や兵士役の生徒達は一斉に崩れ落ちたのだった。
「そうらもう一発」
「きゃあーっ!!」…きゃあーっ」
そう叫んで倒れ伏すノエルとリリス。
「ふふふ、これで邪魔者はいなくなった」
そして総統役の女子生徒が宝石に手を掛けた…その時。
「待って貰おうか!」
端から歩いてきたのは、背中に掛けた風呂敷を腕に掛けて顔を隠した、一人の少年。
「貴様、誰だ!」
総統が叫んだ。
「誰と聞かれば影であり、何と問われば光だろう」
そして風呂敷の掛かった腕が降ろされ、少年のその顔が露わとなった。
「あの姿は!」
「そうは問屋の下ろし金、情けは蕎麦屋のカレーうどん。今日も皆様に安心をお届けする…正義かあるいは、マスク・ザ・パラディン。参・上!」
「おおーっ!」
歓喜する前列のちびっ子組。
「どうだ!」
言いながらポーズを決めたパラディン仮面。
…その正体は、風呂敷を肩に巻いて、お祭りで売っていたパラディンのお面を被ったコウヤである。
「姫様の敵は取らせてもらうっ」
「ええいちょこざいな、野郎共、掛かってしまえ!!」
「「イーッ!!」」
現れたのは二体の、怪人役として扮装したアリシアのクラスメイトだ。
「ここは任せたぞパラディンレディ」
「任されましたぞ親方様!」
そこにコウヤと同じくパラディンのお面を被ったアリシアも現れた。
「クリーパー・ウィップ!」
「「ぐえーっ!!」」
そしてパラディンレディが鞭をくるくる回しながらぱしぱしと二回、地面に打ち付ける度に二体の怪人達は倒れていった。
「な、なんだと」
「「ふっふっふっふ」」
総統の慄きに怪しげに笑うコウヤとアリシア。
…最早どちらが怪人か分かった物ではない。
「来い! シロガネーっ!!」
そして最後。その言葉が出たと同時にステージの背後の幕が落ちて、予め準備しておいた、着座状態の〈シロガネ〉が出現したのだ。
「とーう!」
そしてパラディン仮面が背後のコクピットハッチに飛び移り、乗り込んだ事で〈シロガネ〉は起動した。
『おおおーっ!!!!』
立ち上がったヴァリアントの姿に驚く観客。
「この白亜の機体が目に入らぬか!」
「まっ、参りました〜」
平服する総統。
…流石にヴァリアントでバトルは出来ないため話はこうなったのだった。
「これにて一件落着。か〜っかっかっかっ!」
ーーなんだかよく分からない内に拍手に包まれながら劇は終わった。
* * *
『お疲れさまーっ!!!』
劇が終わり、アリシア達は後かたづけの作業に入っていた。
幕が畳まれ集められた衣装が纏められる中、傍のレンガ組みの花壇に腰を掛けて、今回ピンチヒッターとして活躍したコウヤは休んでいたのだ。
「大成功…なのかな?」
「急造品の脚本でしかも練習一回のみなら十分だよ…ふう」
そして一息吐くと共にお面を取ったコウヤの顔にはクマが浮き出ていた。
寝食を削り、脚本を突貫工事で仕上げた為である。
…今回の劇、脚本・監修はコウヤだった。
毎晩、仕事で疲れた頭で書いた為何がなんだかな内容なのだが、そこはノリと勢いという奴であった。
「本来の構想なら本格SFハードボイルドアクションになる予定だったんだが…ううむ」
「何言ってるんだかさっぱりだよ」
頭を抱えるコウヤにつれなく返したアリシア。
そして今回の劇を見ていたある生徒の親にラジオ局の作家がおり、子供から聞いた話を元に連続ラジオドラマ“仮面騎兵”が制作されその後大人気を博す事になることはまだ、誰も知らない…




