ゴブリン・アタック 後編
* * *
駐機場を起点に逆襲を開始したコウヤ達ヴァリアント軍団は、そのまま鉱山全体からゴブリンを駆逐。体勢を立て直し合流した冒険者達や武装した鉱夫と共に、この状況の根元であるゴブリンの巣を叩くべく進撃を開始した。
対するゴブリン側は鉱山内部に戦力を結集、立てこもると同時に節々で散発的に迎撃を図ったものの、ベルデ鉱山の総戦力を前に打ち破られていったのだ。
そして状況は進み、午後は三時を回る頃。ベルデ鉱山内大洞窟、〈クリスタル・パレス〉での決戦である。
* * *
洞窟の中、ゴブリンの妨害を跳ね除けながら進撃するベルデ軍団先鋒。
魔導士の光魔法に行く先が照らされて、その行軍する軍団の中にコウヤとリネンも居た。
「なーんかハイキングみたいだねっ」
立ち並ぶマギダイトの結晶が光を受けてキラキラと輝く中、剣を納め、手を前後に大きく振りながら歩くリネンが言う。
「…冗談でも勘弁だぜ」
「えっへへ」
結構精神的に参っているコウヤとは対称に、リネンは余裕そうであった。
「…お前さ、いっつもこんな荒事こなしてるのか」
「冒険者も楽じゃないからねー。でも頑張れてるのはね、きっとコウヤ君のお陰!」
「…そうかい?」
「うんうん。いつも作ってくれる食事は美味しいし!」
「…そっか」
「感謝感激、ありがとねっ!
「…ああ!」
言いながら、入り組んだ岩道を歩いていくコウヤとリネン。
「…コウヤ君、そろそろ珍しい物が見れるよっ」
「ん?」
リネンの言葉に顔を上げるコウヤ。
ーーそして洞窟が大きく開けて、
「おおっ」
コウヤは感嘆の声を上げた。
ーーそこは一面の光り輝く世界。
巨大な青紫のマギダイトの結晶が、これまた巨大な洞窟の壁や天井を作っていたのである。
「こんな場所が鉱山にあったなんて…」
「綺麗でしょ!」
「ああ…」
こんな状況であるが、すっかりコウヤは感動していた。
…そんな時である。
「ゴブリンだ!」
気づいた誰かが叫ぶと共に光魔法で照らされた先にいたのは、洞窟の入り口、天井付近に潜んでいた何匹かのゴブリン。
「ギュ〜ッ!!!」
そう唸り声を上げた後ーーゴブリン達は自爆。
「…なっ!」
猛烈な爆発…それにより洞窟の入り口は崩落した。
巻き込まれた者は居なかったものの、そうして軍団の中核である、冒険者四十名ばかりとヴァリアント十二機が洞窟内に分断されたのだ。
ーーそして現れた大量のゴブリン。
「ごっゴブリンがっ…」
「怯むな、戦え!」
怒号が飛び交う中、始まった戦い。
《おおっとっ》
「うわあ!」
戦っている最中の冒険者の直前にヴァリアントの足が振り下ろされた。
《踏みつぶされたいのかっ!》
「そっちこそドタバタと!!」
ヴァリアントと冒険者の混戦である。戦いの前面に出ようとするヴァリアントだが、既に戦闘を始めている冒険者達が邪魔になって動けない。
「ん!?」
…そして通信から流れる悲鳴。
こちらが閉じこめられている間に、外ではゴブリンが攻勢を再度開始したらしい。
「早く何とかしないと…!」
《後回しだ!》
焦るコウヤは僚機にそう怒鳴られた。
ーー混乱が頂点に達しようとしていた、その時。
「嘘…」
その光景を見たリネンは呆然と呟いた。
…予め土が盛られていた地面から、浮かび上がるように大量の大きなゴーレムが出現。
《ゴーレムだと!?》
現れたゴーレムは、ゴブリンの顔を真似た凶悪な面構えをしていた。
…ゴブリン・ウィザードの渾身の魔法である。
「うわああっ!!」
そして悲鳴を上げる冒険者。
なんと倒した筈のゴブリンがゾンビとなって襲いかかってきたのだ。
「シャーマンも居やがるぞ!!」
誰かが叫んだ。
それを見て、パチリと全てのピースが当てはまったコウヤ。
「…全部計算ずくでっ」
ーー全てはこの場に主力を閉じこめるために。
「予め準備してやがったのか!」
そして合図と共に前進を始めたゴーレム隊。
「ヴァリアントが相手しろ!」
《動けないんだよ!》
言い合いになる冒険者とヴァリアント乗り。
「わあああああああっ!!?」
そしてゴーレムの巨体が冒険者の一人に襲いかからんとした…その瞬間。
「せええいっ!!」
クリーパーショットを使って跳躍、肉薄したコウヤの〈シロガネ〉が着地際にツルハシの一撃を与え、大きくダメージを与えると共にゴーレムを弾き飛ばした。
「坊主!」
「礼なら後だ!」
そう返すコウヤ。
しかし崩れた土が元に戻り、ゴーレムは急速に再生した。
「ウ○コみたいな色しやがって!」
立ちはだかるゴーレムに毒づくコウヤ。
実際、ゴブリン・ゴーレムには土の他に魔力伝達を良くするために、媒介としてゴブリンの糞が混ぜてあった。
「打つ手無しだよーっ!」
ゴブリンゾンビを相手しながらそう悲鳴を上げるリネン。
…しかしその時、
「ん?」
洞窟の最奥、ゴブリンの本陣に変化があったのをコウヤは見逃さなかった。
「あいつが親玉かっ!」
優勢と見たゴブリン・ロード自らが、陣頭指揮を取る為に出陣したのだ。
総大将が現れた事で士気が上がりさらに攻勢を強めるゴブリン達。だが、これは戦いを終わらせる最大のチャンスでもあった。
「俺のシロガネでならっ…」
本陣との距離を見計らう…行ける。
そう判断して、コウヤは機体を走らせながら肩部に装備されたクリーパー・ショットを上方と本陣への前方の二方向に射出。
「うおおおおおっ!!」
高速で飛んでいき、着弾した二本の蔓。そして浮かび上がったその軌跡を辿るかの如く、機体を大きくズームするように跳躍させたコウヤは、ゴブリン・ロードの居る本陣へと直接切り込みを掛けたのだ!
「どえりゃあっ!」
着地した〈シロガネ〉。守るように急造のゴーレムが出現したが、繰り出したアーマーブレイザーの一撃が粉砕した。
そして混乱する本陣…熟練の冒険者がその隙を見逃すはずがない。
「突っ込めえっ」
「おおっ!!」
突撃する冒険者達。そして近衛ゴブリンの防戦虚しく、最後の陣は食い破られたのだ。
「ギャギャア!?」
悲鳴を上げながら勝ち目無しと見て散り散りに逃げていくゴブリン達。最後に只一匹残されたゴブリン・ロードの前に、自らも参戦していた冒険者方の頭領が現れた。
「その首頂くぞ!」
言い切るよりも先に横殴りに斧が飛び、ゴブリン・ロードの首と胴は泣き別れとなった。
ーーそして掲げられるゴブリン・ロードの首。
『うおおっ!!!!』
その光景に軍団は勝ち鬨を上げた。
…鎮圧は完了したのだ。
* * *
夕焼けの中、ベルデ鉱山は後片づけの真っ最中であった。
人やヴァリアントが慌ただしく動く中、コウヤも〈シロガネ〉でその手伝いをしていた。
「オーライ、オーライ!」
「いよっ…と」
店の主人に誘導されて、持ち上げた小振りのプレハブを建て直したコウヤ。
今やっているのは、いつもコウヤもお世話になっているホットドッグ・スタンドの復旧である。
「んでもってこうと」
…最後に看板を整えて作業は終了。
「ありがとな坊主!」
「どうもいたしましてだよ」
店の主人からの言葉にコウヤはヴァリアントの手を振った。
ゴブリン・ロードが倒された事で統率者を失ったゴブリン達は混乱しながら逃げていき、今はこうして平和が訪れていた。
「コウヤくーん!」
「おっ?」
そしてなにやらバスケットを抱えて、手を振りながら歩いてくるリネン。
「差し入れだよーっ!」
「今行くーっ!」
ハッチを開けてそう叫んだコウヤ。
…少し楽しみである。
そして機体を着座させながら、コウヤはあることを思案していた。
「…」
…あの後。ゴブリンの巣まで侵攻したが、中は虫一匹もいないもぬけの殻であったのだ。
散り散りに逃げていったはずのゴブリンも、念入りな冒険者達の捜索でも一つとして見つける事は出来無かった。
…まるで、それは最初から謀っていた様に。
「……」
ーー新たな戦いの予感がする。
しかしそれはずっと後の話だろうし、たとえその時が訪れたとしても、自分は必ず打ち勝ってみせるとコウヤは思ったのだった。




