ゴブリン・アタック 中編
* * *
ギルド会館の階段を駆け下りる人影が二つ…コウヤとリネンである。
「ヴァリアントが無いと俺は何も出来ないからなっ」
話を聞き終えるよりも早く、コウヤは行動に移していたのだ。
「駐機場までは結構距離があるよ! リネンちゃんの手助けが必要な時じゃない?」
階段を降りきる間際、そう切り出したリネン。
「頼むぞっ」
「頼まれました!」
そういうとリネンは腰の双剣を抜き出した。
そして建物を走っていき、出口であるホールの中、目前に棍棒を振り回して立ちふさがるゴブリンが一体。
「リネン!」
「立ち止まらないで、このまま行くよ!」
目を鋭くしてリネンは言った。
振りかぶられたゴブリンの一撃をかわして、そしてすれ違いざま、一閃。
…血を撒き上げてゴブリンは弾かれるように転がった。
「す、すげえ」
「結構やるでしょあたし!」
浴びた返り血を振り払いながらリネンはそう言った。
そして玄関から出て、建物の外。そこでは展開した冒険者達が、攻めてきたゴブリンの軍勢と戦闘を繰り広げていた。
「これはっ」
「始まっちゃってるみたいだね…!」
ーー繰り広げられる混戦の中、そして目を引いたのは、ゴブリンに囲まれながら大剣を肩口に抱えて泰然と立った長身の女。
「…はあっ!!!」
吼えた女、するとその長身の背丈以上はある大剣を振り回して、手近なゴブリンを真っ二つにしていったのだ。
「サイモン!?」
「サイモンちゃんは強いよ〜!」
尚も振り回していき、バッタバッタと切り倒していくサイモン。
「ふん!!」
その姿を見て、恐怖に駆られたゴブリンは逃げ出す始末であった。
「これでバーガーのオッサンもいれば心強い事この上なかったんだがな」
「しょうがないねっ」
言い合うコウヤとリネンを余所に戦いは続いている。
戦況は布陣した冒険者達が、数に劣るものの防御線を維持できていたが、そうしている内にもゴブリンの数はどんどんと増えつつあった。
…抜本的な対策が必要である。
ーーヴァリアントがあれば、
コウヤはそう思った。
「…この分だと駐機場は」
「ふふーん、あたしに考えがある!」
そういってリネンは腰に両手を当てると、
「サイモンちゃーん!!」
そのリネンの言葉に振り向いたサイモン。
「助けてくれるとコウヤ君があとで奢ってくれるって!」
「んなっ」
そう言われたサイモンは喜色満面、駐機場までの道を開削していった。
「おまえーっ!」
「今はこの場を切り抜けるのが重要でしょ?」
そういうリネンの表情はなんだか悪戯気である。
…給与一月分で済めばいいがと陰鬱になるコウヤ。
そしてリネンにガードされながらサイモンの後をついて行くこと数分。
「着いた!」
駐機場にたどり着くことが出来、一路〈シロガネ〉を目指すコウヤ。
「いよおっし!」
まだゴブリンがいない駐機場。見つけた〈シロガネ〉に駆け寄ると、そこに迫った一つの影。
「何っ」
コウヤと〈シロガネ〉の間を分かつ様に立ちはだかった、黒い衣装に一振りの曲刀を構えたその姿。…ゴブリン・ロードの勅命を受けて放たれた暗殺者ゴブリンだ。
「ギャギャッ」
耳障りな声を上げ、そしてコウヤに飛びかからんとした…その瞬間、
「はあっ!」
剣を構えたリネンが突進してはね飛ばした。
「リネン!」
「あたしは大丈夫。ぶっかましちゃいなさい!!」
振り返り、剣を握った拳を突き出してリネンは言った。
「…ああっ!」
そう返したコウヤ。
「さあ、ぶつ切りにしてあげる…!」
「ギャギャッ!」
…リネンと暗殺者ゴブリンの立ち合いが始まった。
「っ!」
その隙に〈シロガネ〉に乗り込んだコウヤである。
…シートの上に置いておいたヘッドギアを被り、ハッチを閉じて準備は完了。
「行くぞ…」
念じてアーマースティグマを発生させながらコウヤは呟いた。
そして遂に駐機場まで本格的にゴブリンが突入した瞬間、
「…おおおっ!!!」
ーー〈ヴァリアント〉が起動した。
『!』
…その姿を認めたゴブリン達が一斉にたじろぐ。
「コウヤくーん!」
暗殺者ゴブリンを倒したリネンは飛び跳ねて喜んでいた。
そして立ち上がり、眼下のゴブリン達を睥睨するコウヤ。
「ここで会ったが百年目さ…っ!」
ーー先ずは獲物が必要だ。
道具置き場からヴァリアント用の幅広ツルハシを取り出すと、それを構えてコウヤは一歩前進。
「はあっ!!」
ーーゴブリンが円を描く様に取り囲む中、目前のゴブリンの集る砂利敷きの地面に、その一撃を見舞ったのだ!
ガッと一発、悲鳴を上げて吹き飛ばされるゴブリン達。
そして逃げていくゴブリンを余所に、ツルハシの先を刺さった地面から抜き、コウヤは深呼吸した。
「…ふう」
きっと正面を見据え、…コウヤは前進を始めた。
数が多すぎて逃げ切れないゴブリンである。
「うおおおっ!!!」
雄叫び一閃、そうしてツルハシを振り下ろしていき、コウヤはザックザックとゴブリンの集る地面を耕していった。
「ギャギィッ!?」
悲鳴を上げるゴブリン達。
「いっけーっ!やっちゃえーっ!!」
歓喜するリネン。
…なるべく当たらない様にしてはいるが、たまに感じる感触は考えないようにしつつ、ゴブリン達を追い払っていったのだ。
「うおーい!」
そうして駐機場からゴブリンを駆逐した後、冒険者達に護衛されながら、ギルド会館からトーマスと他のヴァリアント乗り達が駆けつけてきた。
「みんな!」
「コウヤ、良くやってくれた!」
叫ぶトーマス。
そしてトーマスの手によって有事用の兵装ロッカーが開けられ、ヴァリアントに乗り込んだ各員に武器が支給されていく。
「反撃開始だ!」
『おおっ!!!』
そのトーマスの声を合図に、展開したヴァリアント達は一斉に戦闘を開始した。
* * *
ゴブリン・ロードは部下から報告された現在の戦況に激昂していた。
…もともと増えすぎたゴブリンの口減らしという面も持っていた今回の作戦。
こちらの被害は想定範囲内であるが、最重要目標であるゴーレムの駐機場を制圧し損なった事で計画通りとはいかなくなったのだ。
…だがまだ想定の範囲内だ。
ゴブリン・ロードはそう気を取り直すと、参謀や伝令のゴブリンを前に、作戦の予備プランを発令した。
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