縁日と花火大会の話
「花火大会?」
「そうだよ」
夏休みも半ばに差し掛かろうというその日、アリシアからそう言われたのがきっかけである。
「精霊様に感謝する縁日もあるの。とっても楽しいんだ!」
「へーえ」
喜色満面といったアリシアに対して、コウヤはどうもつれない様子であった。
「むー、なんだか乗り気でない」
「なんか遊び疲れちゃってさあ。当日になれば違うんだろうけど」
「スタミナ不足だね!」
「言われりゃそうなのかもな。鉱山の仕事もなんだかんだでやってたし…ううむ」
そう言ってテーブルにぐてーっとなるコウヤ。
「リリスちゃんとノエルちゃんは?」
そうアリシアに話を振られ、
「ボクはコウヤと一緒に行きたい!」
「…ん」
即答であった。
「コウヤ君モテモテですなー」
「嬉しいですよ?」
「むむ!!」
茶化すつもりが逆にどつぼを突かれたアリシアである。
「むー!!!」
「なんで怒るんだよーっ!?」
ぽかぽかと叩き始めたアリシアに身を丸めてガードするコウヤ。
「…どうしたんだろ」
「…さあ」
ぽかんとするノエルにリリスが含むところのある表情を作り、じゃれ合いを続けるコウヤとアリシアを見守っていた。
* * *
日は明けて当日。
待ち合わせ場所に早く着いていたコウヤとアリシアは、大昔の偉人だとかの銅像の前でひたすらあっち向いてほいをしたりしている。
…軽く汗ばむほどの程良い夏の熱気に包まれる中、夕暮れ時のベルデの町は人で溢れかえっており、それは何時にない雰囲気であった。
「…あっ」
先に気づいたのはアリシアだった。
「コウヤ!」
「ん」
「二人とも!」
ノエルとリリスが到着。そして…
「おおー、集まりましたね!」
「集まりましたなーっ」
「今日はお世話になります」
ターシャもリネンも、ルクレシアも、皆勢ぞろいである。
「ルクレシアさんもありがとうございます」
「いえいえ。リリスちゃんも楽しみにしていたし、今日は皆で楽しみましょう!」
「はい!」
そう挨拶したコウヤとルクレシア。
「むふふ…」
リネンはコウヤの姿を見るなり近寄って、
「コウヤくん、ハーレムだねっ」
「茶化すな茶化すな」
「にししー」
あくどく笑うリネン。
「ノエル様、今日は遊びましょうね!」
「うん!」
頷き合うターシャとノエル。
「さあて、行くか!」
そして一行は出発した訳だが、
「おっ?」
しばらく歩いた所で目に留まったのは、コウヤもよくラーメンやチャーハンなどを食べに通っている蓬莱料理専門店・来々軒。
その店先のショーウィンドーにはいつもならおいてある食品サンプルの代わりに、今日はコウヤにとって見覚えのあるそれが堂々と飾られていたのだ。
「浴衣じゃん!」
そう歓喜の声を上げるコウヤ。
「…おお」
「ほえー」
「ユ、ユカァ…何とかは分からないけど、可愛らしいカーディガンだね」
「浴衣だよ浴衣。羽織るんじゃなくて着ちゃう奴」
言いながら店に近づいていくと、張られていた一枚の張り紙が目に飛び込んできた。
「ユカァタレンタル、だって」
「おおー!!」
この日は浴衣の体験レンタルをしているらしかった。
「男用があれば俺だけでも着たいけど、無いだろうしなー…」
「コウヤは気になるの?」
「ああ、俺の故郷の夏の定番なんだぜ」
…ピクリと反応した三人。
「ふふーん…?」
それを聞いたアリシアは他の二人とともにコウヤに向き返り、
「ねえっ」
「ん?」
「コウヤが見たいか見たくないか、言って!」
発せられたのはそんな一言。
「え、ええーっと…」
「はーやーくー」
「わぁかった! 見たい、見たいですハイ」
「むふ〜ふ、それじゃあ中で済まして来るから待っててね!」
「わ、分かった」
そう言って、暫く待つ事五分ほど。
「でっ、出来たよ!」
「おっ?」
そのアリシアの声に振り返り、
「…おお」
思わず感嘆の声を漏らすコウヤ。
ーー咲いた花のように鮮やかなそれは、
「…」
「なんかスースーする…」
「な、慣れればワンピースと同じだよ。慣れれば…」
…三人はよく似合っていたのだ。
「あらあ、よく似合ってますねえ」
「エキゾチックって奴だね!」
「ノエル様素敵です!!」
「…ぅぅ」
「え、えへへ…」
その言葉に照れるリリスとノエル。
そして三人はコウヤの方へ向いて、
「ど、どお?」
「ん?」
「に、似合う…かなあ」
少し自信なさげに言ったアリシア。
…コウヤは満面の笑顔で、
「もちろん!」
「「「!?」」」
「…ううう」
「…あ、あうー」
「に、にへえっ」
顔を真っ赤にしてそんな反応をした三人。
「? ?」
コウヤは頭を捻るばかりであった。
「青春でござるなあ」
「ござりますです…」
ニヨニヨ顔のリネンとターシャである。
「おっ?」
そんな所に通りかかった人影。
「トーマスさん!」
「おお、コウヤ!」
そしてトーマスは奥さんと娘さんを連れているようだった。
「その人奥さん? 美人ー!」
「娘もかわいいだろう…ほら、挨拶しなさい」
そう言われてペコリと会釈する小さな女の子。
前にトーマスと家族の話題になったとき、小学一年生であるとコウヤは聞かされていた。
「どうもこんばんわ。久しぶりだねっ」
「…」
アリシアに挨拶され、再びペコリ。
「娘は無口でね…」
「へえ…」
慈しむ目で娘を見るトーマス。
そしてトーマス達と別れ、コウヤ達は縁日の催されている広場へと向かったのだ。
* * *
「おお…」
屋台が建ち並ぶ中、人で溢れる広場はコウヤにとって〈怪獣〉の一件以来である。
そこかしこにまだその痕跡はあるものの、明るさに満ちたその縁日は日本のお祭りと変わらない活気があるとコウヤは思った。
「さあてどう遊ぶかな」
「まずはフラッペだよ!」
とりあえず目に付いた〈パラディン〉の顔を模したお面を二つ買いつつ、そういってコウヤの服の袖口を引っ張るアリシア。
…と、そこで、
「…」
「どうした? リリス」
同じように袖を引っ張ったリリスが指し示した先、そこには一軒の屋台が。
「おおん?」
屋台の奥には段になった置き場に景品が並んでいる。
…おもちゃの魔力銃を使った射的である。
「あれやりたいのか?」
「…ん」
「ようし」
コウヤは小銭の入った巾着を手にしながらリリスと共に向かっていき、
「おっちゃん、一回!」
「へいよ!」
そして渡されたのはピストルともライフルとも云えない変わった形の銃。
「魔力を篭めて使うんだ」
店のおっちゃんの説明である。
「俺じゃあどのみち出来ないか…リリス」
「ん」
そして銃を構えたリリスが景品の一つに狙いを定め…
「ん?」
直後響いた、やけに軽い破裂音。
景品は倒れず…店のおっちゃんも頭を捻った。
そんな折り風で店の奥の幕がはためくと、何やら小さな穴が空いていたのだ。
とりあえず渡された、景品である黒い狼のぬいぐるみも脳天から串刺しに穴が空いて綿が出てしまっている。
「か、貫通しとる」
「…んーっ」
コウヤに渡したかった物であるため、リリスは不満そうである。
「おーい!」
「おっ」
そこに集まって来たアリシア達。
皆の手には、いつの間にか買ったらしい綿飴が握られていたのだ。
「はい!」
「どーもっ」
二本握っていた内の一本をアリシアはコウヤに渡した。
「これで一緒だよっ」
「そうだな…」
綿飴をかじりつつそう返したコウヤ。
そうしていると風切り音と共に一筋の光点が打ち上がり…
「わあぁ…っ」
「おおっ」
ーー花火大会が始まったのである。
「綺麗だね!」
「ああ」
すっかり夜の色に染まった空に咲いた花火を見上げる二人と五人。
その後も次々と花火が打ち上がっていく中、アリシアはコウヤに顔を見合わせて、
「ねえっ」
「ん?」
「これからもよろしくね!」
「…おうっ」
花火の光に照らされながら、コウヤはそう返したのだ。
* * *
アリシア倍プッシュ回。




