キャンプの話
今日も猫の足跡亭である。
「キャンプ行くの!?」
「トーマスさんのオススメなんだとさ」
ある日の夕方。うずうずしながら食いついたアリシアと、荷造りしながらそう答えたコウヤ。
コウヤは鉱山の保有するレクリエーション施設の一つであるキャンプ場の利用を勧められたのだ。
「せっかくだからみんなで行こうかって感じなんだけども、…なんであんたも居るのか」
「フフーリ」
「あ、あはは…」
そう言ってコウヤが目線を向けた先にいたのは、オレンジジュースのグラスを持って得意げにするターシャと、苦笑いするノエル。
…今日はノエルの専属メイドであるターシャも来ていたのである。
「だって私だって遊びた…げふんげふん、私にはノエル様を守る責務があるのです!」
「今本音出掛けたよな…」
ターシャを半目で見つめるコウヤである。
「な、なんですか」
「まあいいけどさーっと」
「やったーっ!」
そう喜ぶターシャは年相応であった。
「まったく…」
* * *
そして当日。
「広ーい!!」
中々に広々としたキャンプ場に興奮するアリシア。
〈シロガネ〉に揺られること一時間半。山間の湖畔にあり、河原にも近いここは、森に囲まれてバーベキュースペースやロッジなどを備えた本格的なキャンプ場である。
「うわーいっ!!」
石がゴロゴロと転がっている地面の上、はしゃぐアリシアはすっ転びそうになりながらも駆けだしていった。
「ボクも遊ぶ!」
「ん」
ノエルとリリスもアリシアの後をついて行き、
「はしゃぎすぎるなよー」
コウヤはそう言いながら、早速〈シロガネ〉のトランクからテントなどを取り出し始めたのだった。
「コウヤさんコウヤさん」
「ん?」
呼びかけられたその声に目を向けると、そこには目を輝かせてうずうずしているターシャが一人。
「年長組はお仕事しような」
「そんなあーっ!?」
「ロッジは借りられなかったからな、まずはテント張りからだ!」
滅多にない体験にコウヤも燃えていたのである。
…場所は移って、河原の近く。
「ふっふっふ」
召喚したガーディアン×10に集めさせた木材で焚き火を起こしたアリシア。
…次に取ったその行動はというと、
「キャンプと言ったらこれだよ」
「わあーっ…」
「…おお」
紙袋から取り出したマシュマロをよく洗った小枝に刺し、それを焚き火にかざしながらそう言ったアリシアと、一連の流れを興味深げに見るノエルにリリス。
…待つこと十秒。
「出来たっ」
「「おおー」」
甘い香りの漂う中、焦げ目が付いてふわトロになった焼きマシュマロの完成である。
「それじゃあね…ジャンケン!」
「「最初はグーっ! ジャンケン」」
ポンと出されて、勝ったのはリリスであった。
「…ぶい」
「いいなー」
出したチョキを自慢げにしてみるリリス。
そしてマシュマロの刺さった小枝を受け取ったリリスはアリシアとノエルが見守る中、とろとろのマシュマロを口に入れ…
「どおどお? リリスちゃん!」
「…あふい」
しばらく熱そうにした後ゴクリと一飲み。
「…おいしいっ」
「でしょでしょ!」
喜ぶアリシアである。
「ぼっ、ボクもーっ!」
「待っててねー」
この日のアリシアは鍋奉行ならぬマシュマロ奉行であった。
「あーっ! 美味しそうなことしてますよコウヤさん!!」
「テントの準備が終わったらな」
「ううーっ!」
流すコウヤに唸るターシャ。
それを見て、コウヤはノエルがよく唸るのはターシャ譲りなのかと思ったのだった。
* * *
…夕暮れ時。
「さあて、出来たぞ!」
「おおー!!」
ターシャが喜ぶ中、グリルスペースを借りて作った晩ご飯は定番という事でカレーである。
「美味しそうです!」
「つまみ食い禁止だぞ」
傍らのテーブルにはランチシートを敷いた上に人数分の皿と山盛りのパンにクラッカーが置かれ、準備は万端であった。
「おーい! …って、うおっ!?」
そして顔を上げ、丁度帰ってきた三人に声を掛けたコウヤが驚いた物とは、
「えーっと」
「ど、どうしよう…」
「…」
リス、ウサギ、シカ、キツネ、小鳥にモモンガetc…
とにかく大勢の動物まみれになったノエルの姿であった。
「置いてきなさい!」
「だってついてきちゃうんだもん」
「あうう…」
「…」
コウヤにアリシアが返してノエルが目を回している中、リリスはノエルの肩に乗ったリスを興味深げにじっと見ていたりしていた。
「おおっ、今日も精霊様が荒ぶっておりますね!」
そこで喜んだターシャ。
「こ、これも精霊の加護って奴なのか」
「そのとーり! 人徳に溢れるノエル様はとにっかく精霊様達に愛されているのです」
「うむむ…ん?」
唸るコウヤ。と、そこで何かを思いついたようにフォークとスプーンを持って動物達へと向き返り、
「お前達を食べてやるぞ〜っ!」
『!?』
それに驚いた動物達は一斉に逃げていったのだった。
「酷いよーっ!」
「だってなあ」
「あ、ありがとう?」
怒るアリシアにとりあえず礼を言ったノエル。
「な事言ってないで、夕飯出来てるぞ?」
「えっ、そうなの!?」
「その前に手洗い!」
「「「はーい!!!」」」…ん!」
…そんなこんなで夕飯の時間は過ぎていき、
「次はねー、青の六!」
「よっしゃ上がり!」
「うそーっ?!」
その後ウノをしたりなんかして、この日の一日は終わりとなったのである。
* * *
翌日の翌朝。
…深い霧が出ている中、一人起き出てきたノエルは湖の畔にいた。
「…」
何か深い考えに耽っている様なノエルの傍、そこにコウヤも歩いてきた。
隣に立ち、ーーしばしの沈黙。
コウヤは立ちこめる霧にノエルを送り届けた時の記憶を重ね合わせて、
「…なんか、あの時を思い出すな」
「…うんっ」
…再びの沈黙。
ーー霧に包まれた湖畔はひんやりとしている。
「あのね?」
「ん?」
「レンヌヴィルはこういう所が多いから、似てるなーって思ってたの」
「そっか」
「夏には毎年行って、いっぱい姉様やメイド達と遊んでねー、とっても楽しかったっ」
「うんうん」
「それでね、こうしてコウヤやみんなと一緒に来れて、ボクはすごく嬉しいんだ。初めてのお友達と初めてのお出かけ!」
「うん」
「…お城に居るときは考えもしなかった事だもん。毎日がすっごく楽しくて、とても新鮮で…すごい事なんだよ?」
「…うん」
「…コウヤっ」
「ん?」
「ありがとっ!」
「…おう!」
…そんな二人を見守る様に佇む影が一つ。
(ノエル様の成長を見守れて、ターシャは幸せです!)
ターシャの前職は暗殺者。気づかれないように見守るその姿は、伊達に人生の殆どを修練に費やしてはいないのである。
そしてそこに、
「ふわぁあ…二人とも何やってるのさー?」
「あっ!」
「おお、アリシア!」
起きたアリシアもテントから歩いてきたのだ。
「別に、なーんも?」
「うん!」
「ホントに〜?」
そう言った二人に訝しむアリシア。
こうして二日目も始まり、昼にバーベキューをした後は一泊二日の予定であったので、その日の夕方には猫の足跡亭に帰ることの出来たみんなだったという。




