コロシアムに愛は輝くか 後編
そしてその日、ジェイドにリバリーの片隅にあるバーへ呼び出されたコウヤ。
「明日の試合に出るのか?」
「お前が勝とうが負けようが俺の借金がどうにかなるわけじゃないからな…それと条件を出された」
「条件?」
頷いて、ジェイドは切り出した。
「次の試合で勝てたらお前の借金をチャラにしてやる。ただし負けた場合は…だそうだ」
「…そうか」
「んで、ヴァリアントは持ってきているな?」
「あ? ああ」
「試合内容はお前とのタッグマッチでな、…今日は特訓だ!」
「ひいいっ!」
翌日が休日と言うこともあり、昼まで河原でシゴかれたコウヤだったのだ。
* * *
…当日である翌日。
夕方、起きてきたコウヤは支度を終えリバリーに向かおうとしたのだが、
「今日はここから出さないよ、コウヤを更正させるもん!」
扉の前で召還したガーディアンと共に箒で武装して立ちはだかり、そう宣言したアリシア。
…何かあらぬ誤解をされてる様だとコウヤは思ったのだが。
「あのーアリシアさん」
「い・やだもん。私は何も聞かされてないよ」
ツンとした顔のアリシア。
ーーこれは難敵であるとコウヤは判断したのであった。
…ならば、
「頼む、知り合いの一生が懸かってるかも知れないんだ!」
土下座をしてコウヤはそう言った。
ーーそれからたっぷり間が空いて、
「今日で最後になるの?」
「多分」
「…帰ったらちゃんと分かるように事情を説明すること。いい?」
拗ねた様にアリシアは言ったのだった。
「! ありがとっ!」
* * *
会場となるスタジアム。待ち合わせ場所にコウヤが到着してからしばらく後、ジェイドは遅れて現れた。
「遅いぞ!」
「悪い、年貢の納め時になるかもしれねーから心残りを済ませてきた」
帽子を深めに被ったジェイドはそう言って、なにやら憑き物が落ちたようなスッキリとした顔である。
「寄ってくんな見てくんな、ジェイド・ロゼールの復活試合だ!」
チケット売り達がそう声を張り上げる中、会場の入り口には大勢の客が詰めかけている。
「お前有名人なんだな」
「一応な」
その光景を見てそう言った二人。
「…選手用の入り口はあっちだ。行こう」
「ああ!」
そして二人は会場へと入っていったのである。
* * *
…選手控え室。
言い渡されたルールにコウヤは絶句していた。
ーー二十対二。
しかも全員上位ランカーであった。
「軍用ヴァリアントとのキルレシオなら妥当な数値だろう。どうかな?」
コロシアムの支配人はそう言って嗤った。
「いいのかよ!」
「…俺はな」
そう言ったジェイドは支配人を睨み、
「…こんな変則ルールを使ってまで俺を追いつめる理由、教えて貰おうか」
「それはですな、うちらのボスがお前のファンだからでやんす」
出てきた借金取りの小男が言う。
「…へ?」
「それも熱烈なファンでして、借金の形としてならお前本人を手に入れられるとのお考えで」
「ちょっと待て。お前達のボスってあれだろ、俺と同性だろ」
「そうなんやすが、ただ一言。嫁にしたい、と」
「…」
ジェイドは真っ青になった。
「コウヤ、絶対に負けられないぞ」
「うん?」
そして二人が案内された駐機場に準備されていた一体のヴァリアント。
…スポットライトが当たり、機体が照らし出される。
その各部の形状はコウヤの〈シロガネ〉と似ていた。
用意されたこのスティンガータイプ・ヴァリアントは、〈シロガネ〉の形式名…パラディンの、謂わば兄弟機と言える存在である。
どうやって現役の軍用機である当機を彼らが手に入れたのかは分からないが、ジェイドの紅い髪に合わせてか、その頭部の防護カバーは紅色に塗られている。
「…俺が軍で使ってた機種か」
「その通り。“紅髪のジェイド”に相応しい機体だと思わないかね?」
スティンガーの足下にいた怪しい風貌のメカニックが答える。
「…フン」
「…ジェイド」
「自分の心配をしろ。俺はやられないさ」
「…分かった」
そしてジェイドは〈スティンガー〉へと乗り込んでいった。
* * *
「こう来たときはああして…と」
乗り込んだ〈シロガネ〉のコクピット内。ヘッドギアを被りながら、コウヤは昨日経験したジェイドからの教えを振り返っていた。
昨日、半日掛けて一から戦闘技法を叩き込まれたコウヤ。
その内容は搭乗者への効果的なダメージの与え方など、実践的な物である。
そしてヘッドギアの顎当てを留め終わり、
「…やっちゃるっ」
コウヤの準備は終わった。
機体を立ち上がらせて開かれたゲートを潜り、沸き上がる歓声の中、グラウンドに立った二機。
ーー試合開始のブザー。
コウヤとジェイドは機体を前進させた。
《ジェイド、今日こそ引導を渡してやる!》
《へっ、修羅場がみたけりゃそうしてやるぜ》
そう言うジェイド機の装備は、盾は持たずに両手に長めの曲刀。
コウヤの装備はいつもの長剣とバックラーである。
…そして障害物の先、開けた場所。
《《《《《ジェイドーっ!!!!!!!》》》》》
ーー吼えた野郎達。
その向こうに現れた相手達の数に、コウヤは圧倒された。
「…ジェイド、何か作戦とかはないか?」
《ただ一つ。当たって砕けろ、だ!》
「なんだそりゃ!?」
…そうしている内に相手達が交戦距離に入った。
「…!」
すぅと一息吸って、コウヤは目前の相手へと精神を集中させる。
「うおおっ!!」
長剣とバックラー・シールドを構えて、コウヤは吶喊した。
…相手との間合いを見計らう。
そして緑色の機体との戦闘。まずは突っ込んだ勢いのまま、コウヤが先手を取った。
「てえええええいっ!!」
ーー小刻みに浮かすように突きを入れて動きを封じ、最後に威力の大きい一撃を与えること。
ジェイドから教わった通りに攻撃を与え、見事相手はその場に崩れ落ちた。
「ジェイドはっ」
そう言ってグラウンドを探すと、ジェイドは赤と黒、水色と黄色のツートンの二機と立ち合っている。
そして直後にあしらう様に繰り出されたジェイドの剣舞によって、二機は弾かれるように崩れたのだ。
ーー再び繰り広げられる剣戟。
…ジェイドは強い。
「負けてらんねえ!」
コウヤは地面に剣を突き立てて、バネのようにたわんだそれを軸に機体を跳躍。攻撃をかわすと共に、手近な一機に飛びかかり…
「せえい!!」
《ぬわっ?!》
ーー振りかぶられた剣を足で弾き飛ばし、全ての慣性と重量を乗せた剣の一撃を相手のコクピットブロックめがけて見舞った!
《ぎゃあ!》
鋼と装甲の黒マギダイトが打ち合って大鐘が鳴った様な轟音が響き…そして相手は崩れ落ちる。
「さあて、次はどいつだ!」
機体を着地させ、剣を構えてコウヤは言った。
…そして一拍の間、取り囲む相手達と睨み合う瞬間。
《こいつ、いつもとは動きが違う!》
《この強さは予定外だ》
《構うな、全員で掛かっちまえ!》
そうして囲んできた五機に回転切りで牽制し、
《きええええぃ!!》
「はあっ!」
繰り出されてきた突きをバックラーで削りながら、反撃の一撃をコウヤは入れた!
《あめえ!!》
しかしそうしている内に〈シロガネ〉の背後へとオレンジの一機が回り込み、コウヤの乗る背部コクピットへと剣を打ち込もうとする。
《貰ったあ!》
「っ!」
ーー迫る剣。
…だがコウヤは只ではやられない。
「せえりゃあっ!!」
《何っ》
剣を持った腕が伸ばされた事を確認したコウヤは獲物を離した右手でその腕を逆に掴むと、〈シロガネ〉のパワー任せに相手をブン投げたのだ!
《うわあああっ!?》
脳天から落下したオレンジ色の機体…搭乗者は無事では済まないだろう。
《パリツって奴か!》
《このガキぃっ!》
怨嗟の声を上げる相手達。
そこにジェイドの〈スティンガー〉が現れて、
《コウヤ、どうだ?》
「ジェイドか! こっちは三機っ」
《俺は七機だ…後半分だな》
背中合わせに剣を構えた〈スティンガー〉と〈シロガネ〉。
そして取り囲むように囲む相手達と〈二人〉は対峙した。
「数が多すぎる…!」
《やれなくはない!》
…降りる沈黙。
《ぜやあっ!》
先に仕掛けたのは水色と白の機体だった。
《《《《《うおおおおおおおっ!!!!!》》》》》
次にジェイドが剣を受け止めた瞬間、堰を切った様に押し寄せる相手達。
《「おおおっ!」》
ーー二人は突っ込んでいった。
* * *
試合が終わり、会場から出てきた人々でごった返す深夜の歩道橋下。
そこに疲れた様子のコウヤとジェイドもいた。
「…勝てたか」
「…ああ」
激闘の末、何とか勝てたのである。
「…世話になったな」
「何、こちらこそだよ」
「…」
「…」
「…ふふっ」
「…ははっ」
一頻り笑い合った後、ジェイドはコウヤに一通の封筒を差し出した。
「口で伝えるのは照れるからな、礼とか書いておいた。実は遅れた理由がだな…」
「開けてからの楽しみにするよ。…それじゃあな」
「ああ!」
そうして二人は、雑踏の中別れていった。
そして早朝。
帰ってきたコウヤが、猫の足跡亭の玄関前で寝ずに待っていたらしいアリシアに事情を説明した後、唐突に始まったそれ。
「ちーよーこーれーいーと、っと」
玄関までの六歩。
捕まえてみて! とアリシア。
コウヤは少しんーと悩み、
「とーうーきょうめとろゆうらくちょうせんいいだばしえき、っと。…十八文字も余っちまった」
「なにそれ!?」
反則! アウトー! と怒るアリシア。
それから少し間が空き、
ーーアリシアはくるりと一回転して、
「…コウヤ、私ねえ安心したよっ」
「ん?」
「嫌われたりとかそういうのじゃなくて良かったっ」
その表情はいつも通りの笑顔であった。
「でも次からはちゃんと相談してね!」
「…ああっ」
それを聞いて、アリシアはにひりと笑ったのである。
そして、コウヤの手に握られていた封筒。
その中の手紙に添えられていた写真には、旦那さんの傍で子供を抱えてすっかりお母さんの顔の、ウェディングドレス姿のジェイドが写っていたのだった。
〈了〉




