コロシアムに愛は輝くか 中編
…馬車鉄道で十五分。ベルデの隣町、リバリーにあるリバリー・スタジアム。
川沿いにあるここは、二十四時間、常に何らかの興業が行われている賑やかなスタジアムである。
そして、この日の夜。スタジアムは“コロシアム”となっていた。
スタジアムの上。グラウンドの両端に立った〈白い機体〉と〈茶色の機体〉。
そのヴァリアントの手には長剣と、丸形の小さな盾を持っている。
ーースタンドを埋め尽くす観客達が思い思いの歓喜の声を上げる中、鳴り響いた試合開始のブザー。
まずコンテナ型の障害物を縫うように走行した二機は、やがて会場の中央に設けられている開けた場所で遭遇し、そこで剣を抜きはなって斬り合った。
ーー剣の打ち合い。
スポットライトが照らす中、高速で繰り出された白い機体の連撃に茶色の機体が弾かれて、踏ん張ったそのヴァリアントの足がグラウンドの土砂を撒き上げて踏みとどまる。
そこにさらに一撃が繰り出されて、茶色の機体は振りかぶった剣で受け止めた。
その一連の状況をさらに煽るように照らすスポットライト。
…熱狂する観客達。
そしてその熱狂の片隅にある選手用のスタンドに、連れてこられたコウヤとジェイドはいた。
「あのー、トイレ行きたいんですけど」
そう言うコウヤの前に黒いスーツにサングラスの大男が立ちはだかる。
「…」
「こいつは無関係だぞ。解放してやってくれ」
「…」
「ダメだ、何も言わねえや」
「…もう少ししたらご主人様がやってくる。話はそれからだ」
「しゃ、喋った」
「喋りもするだろうさ…っと」
言い掛けたジェイド。
そして上がった歓声にコロシアムへと目を向けるコウヤ。
どうやら試合の内容は進んでいた様だ。
ーー茶色の機体が反撃を仕掛ける。
刹那、繰り出した長剣の突きが炸裂するーーが、相手への有効打とはならなかった様で、返す刀で押し返された。
緊迫と歓声の中対峙する二機。よく見ると互いの剣が当たった所には傷も何もない。
その秘密は、ヴァリアントの全身を構成する黒いマギダイトーーその脱色と着色は容易であるーーの絶対の防御力。
大魔導師の殲滅級魔法でも傷一つ付かないその装甲は、いかなる攻撃をも通さないのだ。
…ただ一つ、衝撃を除いては。
「なあ、どうやって決着はつけるんだ?」
「ヴァリアント乗りは死ねないからな。相手が気絶するまで攻撃を加えるか、武器を使い物にならなくさせて降伏させるか、その後にコロシアムの外周にある壕に突き落とす…それだけだな」
「…けっこうバイオレンスなんだな」
「そうだぞ」
そうして目を離している隙に茶色の機体が剣を弾き飛ばされ、降伏して遂に試合は終了。
沸き上がる歓声の中、白い機体が誇らしげにポーズを取ったりしている。
…そこで選手席の扉が開かれ、現れたのは小柄な老人であった。
「私がこのスタジアムの支配人だ。ランブルゲームの元締めもしてるがね」
「…あんたがか」
「俺たちをここに連れてきた理由は何だ!」
「君には用は無い。あるのはそこのジェイド・ロゼールただ一人だ」
「…」
「その子はなかなかどうして悪い子でね、うちの興業の稼ぎ頭だったのに、ある日試合が終わると消えていた! …それから探して、辺鄙な鉱山に向かったという情報を得て迎えに行ったのだよ。どうして逃げようとしたのかは知らないがね」
「…」
「借金は体で払ってもらうことになっている。ランブルゲームで返せない場合は相応の事をやって貰わねばならなくなる」
「…」
「…家族に手を出されたく無いだろう?」
「っ!」
「さあ、これから試合だ。皆待ちわびている…ジェイド・ロゼールの試合をな!」
「……」
「…代わりになるか分からないけど」
コウヤは言い掛けて、
「今日は俺に一回やらせてくれ」
「おい!」
「俺が勝ったらジェイドはこのまま家に帰らせる事。その位の条件は出してもいいだろ?」
「…はっはっは! 度胸のある坊やだ。いいだろうさその条件で」
但し稼がせてくれよ! そう言い残して支配人は去っていった。
「…お前」
「いいのさ、やってやる!」
コウヤの決意である。
* * *
そして次の試合。スポットライトに照らされて、コウヤの〈シロガネ〉がグラウンドに立った。
そして反対側の端に立つ、白い機体。
対戦相手は先ほどの勝者である白い機体ーーファルシオンのメーカー非公認チューンナップ・バージョンで、軍用の機体とも遜色ない性能を持つーーだった。
賭けられたブックは圧倒的に白い機体の方が多い。
そして、ブザーが鳴り試合開始。
「…っ」
機体を進ませる…コンテナで作られた障害物の先、開けた場所での会敵。
「うおおっ!」
現れた白い機体に対し、機体を構えさせるコウヤ。
興業主からの支給品である、両の手で構えた長剣、左の前腕にジョイントで取り付けられた長方形のバックラー・シールドが今の〈シロガネ〉の全装備だ。
《行儀が良すぎるぜ、お坊ちゃん!》
「うるせえ!」
自身のその構えを見た相手のヴァリアント乗りのからかいに怒鳴り声で返すコウヤ。
…余裕が無いのである。
《パラディンだろうが乗ってるのが子供じゃあなあ!》
「ぐぅっ!」
放たれた攻撃に、戦い方が分からないコウヤは受け身を取るしかない。
(ーーどうする?)
《そらあっ!》
「ううっ」
尚も続く攻撃に、構えた剣を当て続けるのがやっとである。
(正攻法じゃ勝てない!)
…そして直後、
《ほおらあっ!!》
「がああああっ!?」
白い機体の突きが胴に当たり、〈シロガネ〉は叩きつけられるように地面へと崩れ落ちた。
《どうした、オネンネか?》
白い機体の搭乗者はそう言って〈シロガネ〉を剣でつついてみたり蹴ったりした。
…が、反応がない。
《骨が無い奴だぜ》
嘆息した様子で、足を持つと面倒そうにずるずると〈シロガネ〉を引きずっていったのだ。
そしてグラウンドの縁。そこに掘られた壕へと〈シロガネ〉が落とされようとしたその瞬間、
…その瞬間をコウヤは待っていたのである。
「っ!」
閉じていた目を開け、足を掴むその手を蹴り飛ばしたコウヤは、白い機体の下半身を〈シロガネ〉の両足で挟み上げ…
「てやあああっ!!」
《何っ!?》
それを軸点に、振り子のように〈シロガネ〉の上体を振って、白い機体の背後へと機体を寄せ上げ半回転。ーー両足を解放。
そして一方の体勢が崩れ、〈シロガネ〉の機体が宙に浮いた瞬間。…大きく足を縮ませた後、白い機体の背部へとコウヤのドロップキックが炸裂!
蹴られた白い機体はそのまま壕の中へと転落。…逆に壕の中へ落としてしまったのである。
観客は何もかも、唖然として見ているしか無かったのだ。
…そして沈黙の後、割れんばかりの大歓声。
機体を立ち上がらせ、自身にスポットライトが当たるその光景を見たコウヤ。
「か、勝った!」
…コウヤは勝ったのである。
* * *
「どうだ坊や、稼がせてあげよう」
「ひ、人助けだもんな、うん」
支配人から提示されたギャラに目が眩むコウヤ。
…かなりの大金である。
「言っとくが、勝てた場合と負けた場合とは貰える額が違うからな」
「常勝無敗の紅髪ジェイドが言うかね?」
「言わせて貰うさ。それと借金は絶対にするなよ」
「了解っ」
こうしてジェイドの身柄の安全と引き替えに、それから一週間ほど、アリシアやノエルの遊びの誘いも断り続け、コウヤはランブル・ゲーム漬けになってしまったのである。
…ちなみにその後は連戦連敗だった。




