鉱山七不思議の話
「コウヤっコウヤっコウヤぁっ!」
「なんだよー」
休日の昼下がり。一階のホールでのんびりしていたコウヤに、アリシアが駆け寄ってきた。
「これっこれをみてっ!」
そう言ってばらり、と広げて示してくれたのは、大きな薄手の模造紙に手書きの記事の切り抜きが張り付けられた…
「学級新聞?」
「そうなの!!」
元の世界ではこういうのに馴染みが無かった為、少し新鮮なコウヤである。
「次の回が私たちの班に任されたんだっ!」
「私たちの班、ってーとリリスとノエルもか、それでどしたんだ」
「ふっふーん」
アリシアはかぶりを振ってから、
「記事の主筆は私に任されたんだけどねえ、それでねえっ…私は鉱山の七不思議を突き止める事を決めました!」
どどーんっと、効果音が聞こえたコウヤである。
「鉱山の七不思議ぃ?」
「そうそう!」
ふふーん、と何故か自慢げにしているアリシア。
「私の研究によればねえ、ベルデの鉱山には七つの不思議な出来事が確認されているのだねっ」
「何となく予想ついたぞ、それを取材しに行きたいってんだろ?」
「当ったり〜っ!! リリスちゃんとノエルちゃんも一緒なの!」
「んで俺にも協力して欲しい、と…それで? その日はいつなんだ」
もしやして、を含みながらのコウヤの問いに、
「……実はもうすぐ来る事になってたり…なーんてー」
案の定、である。
「…はああ、まあいいさ。けど今度からは前もって言ってくれるんだぞ」
ため息を吐きながらコウヤは承諾した。
「いいの!? やったーっ!!!」
「全く…」
…まあそんなアリシアの様子を見れば、断る気など鼻から湧かなかったのだが?
* * *
そんなこんなでベルデ鉱山。
「発見! 謎の古代地下遺跡!」
「道が埋まっててあそこには行けないぞ」
「戦慄! 巨大すぎるマギダイト!!」
「そこかしこで飽きる程採れるぜ」
「驚愕! 声を聞くと幸運になれるバーのマスター!!!」
「あの人は滅多に喋らないだけだろー」
「怪奇! 洞窟の奥に潜むゼリーマン!!!!」
「スラ美元気にやってっかなー」
「恐怖! ベルデ鉱山のドラゴン!!!!!」
「それは只のトカゲだ」
「ドラゴン見たいっ!!」
「話聞いてたのかっ?!」
既に三人とコウヤは〈シロガネ〉に乗り込んでいて、後は起動するのみであった。
…一応前もって、七不思議とはなんぞや、と言うのを聞いた訳だが、返ってきたのはそんな内容であって、
「見ーたーいーっ!!!」
「ボクも見たーいっ!」
「…私もっ」
「お、お前らなあ…」
はあ、とため息を再び。観念して機体を立ち上がらせたコウヤであった。
…こうなりゃ直に現物を見てがっかりしてもらうしか無い。
聞かん坊の駄々には逆らわないのがコウヤだ。
「なんでも良いけど、がっかりすんなよ」
「がっかりなんかしないもん!」
「うん!」…ん」
「はいはい…」
…そして歩く事五分。
「…」
目前にはトカゲが!
「「すっごーい!!!」」…おおっ」
…お子さま達の反応である。
スラ美捜索の際に聞いていた情報でトカゲの分布も把握していたコウヤなので、坑道からしばらく入った後の洞窟で早速出会うことが出来た。
腐っても爬虫類。イグアナみたいで貫禄もあるし、でかくて迫力もあるので確かに子供には人気が出るだろう…とコウヤは思ったのだが。
「触ってみたーいっ!!」
「ねえねえコウヤっ」
「…んっ」
「はいはいよっと」
要望通り、〈シロガネ〉を着座させてコクピットハッチを開放。表に出れるようにしたコウヤだ。
〈シロガネ〉の背後から駆け出した皆は一目散にトカゲへと歩み寄ると、
「…」
「「「おおおーっ!!!!」」」
息づかいも感じられる程の間近で見るトカゲに、すっかり興奮した様子の三人。
いつもはおませなアリシア達三人もこの時ばかりは年齢相応の反応だし、
何がそう珍しいのかねえ…とも思いかけたが、…そう言えば自分も初めて見た時はこんな反応をしてたっけ。
「「「わあああっ…」」」
「…」
…そしてなんというか、幼い娘を初めて動物園に連れて行った父親のような感慨がコウヤの胸には満ちていた。
「…ふうむ」
釣られて、機体から出たコウヤもトカゲを見てみる。
ーー俗名:サラマンダーオオトカゲ。このアルスフィール全域に広く生息している、そう珍しくもない生物。…初めてこのトカゲを知った時に、感動のままに図鑑を読みあさって詰め込んだ知識の一片だ。
平均して巨大であるが、目前の個体は大きさや各部の特徴から見て、おそらくメスだろう。
近寄るアリシア達にも動ずる事無く泰然と佇んでいて…今チロリと舌を出した。ともかく性格は温和しい。
尻尾の先まで含めると寝かせたヴァリアント二台分という全長のトカゲであるが、こんななりで草食性である。
「ドラゴン! ドラゴンじゃないのっ!?」
「ドラゴンじゃなくてトカゲだぞー」
ほうら羽根が生えてないだろー、えー、などとやり取りしながら、
そしてトカゲをのぞき込むと…トカゲの優しそうな瞳が自分達を見つめる。
ぶっちゃけるとトカゲは無害なのであるが、好奇心が強くて人を恐れないので人間のすぐ近くまで来てしまい、そのくせ図体があるので、広さに限りのある坑道では邪魔になるし…と言う理由で捕獲の優先対象になっているのだ。
火を吹くと言うのも厄介の極みと言える。
トカゲ同士のコミュニケーションで互いに火を吹き合ったりするので、同じつもりで人間にも(悪意無く)吹いてしまうのだろう、とは最新の研究結果である。
「あごの下撫でると喉ならすぞ」
「「やってみる!」」
そうしてアリシアとノエルの二人が近寄って、思い思いの手つきで撫でていると…次の瞬間、
「わあっ?!」
トカゲが大きく舌を出して、ぺろり、とアリシアの顔を舐めたのだ。
「きゃははっ、すっごいよトカゲさんっ!」
「ぼっボクもされたいーっ!!」
「手のひら出してみろよ。多分やってくれるぜ」
「うん!」
そして言われた通りノエルが手のひらを突き出すと、
「…」
ぺろん、っと、
「わあはっ!くすぐったいよおっ!!」
「このトカゲサービス良いな。よし俺もやってみよ…」
言い掛けたコウヤにトカゲが振り向いて、炎をぼおーっっ、と見舞ったのがその時だ!
「……」
息吹程度の軽い物だったが、上半身が煤まみれになって炭の様になったコウヤ。
「「あはははははははは!!!」」
それを見て笑い転げるアリシアとノエルだった。
「ぺっ、ぺっ、…なんでさーっ!?」
「…トカゲに嫌われてる?」
「あっ」
そう言われて、そう言えばこないだ捕獲作戦に従事したばかりだった事を思い出す。
…このトカゲの親戚や兄弟もあの中にいたのだろうか。
「…」
「…」
トカゲの瞳を覗いて見るも、まあ何も答えないのは当然か。
瞬きを二回されたが、それにメッセージはあるのだろうか?
…そしてそんな時、
「あっ、トカゲさん!」
「おっ」
トカゲはターンして転進すると、洞窟の奥へとずしゃずしゃと歩き出した。
「ついてってみようよ!」
「うん!」…んっ」
「よし、それじゃあシロガネに乗ってくれ!」
そうして乗り込んだ四人は、一路トカゲの後を付いていったのだ。
「なにがあるのかなあ?」
「ひょっとするとお宝を教えてくれるのかも!」
「…素敵」
「まあまあ待てって、直に分かるさ」
そして、言いながら付いていくこと数分…
「…おっ?」
「「あっ」」
「…おお」
ーー大きく開けているその場所は明かりに満ちていた。
「すげえ…」
天井付近に幾つか開いている大きな穴が外界と通じている様なので、そこから光が入ってきているのだろう。
そしてトカゲ。広間の中心の、丸形に光が降りるその場所へと歩いて行くと、そこで動きを止めて…
「ああっ!!」…あっ」
ーーアリシア達も気づいた。
ほんの僅か、台の様に盛り上がったその岩場の上には、子供のトカゲが五匹いたのである。
「お母さんトカゲだったのか!」
「ほえーっ」
そしてトカゲは子供達を包むようにとぐろを巻いて…そしてうずくまった。
「これを見せてくれたんだ…!」
「ねえねえ、もっと近くにいこうよっ」
「やめとこうぜ、近寄ったら怯えさせる」
「むーっ!」
「…」
まあそんなコウヤは一人望遠を使ってじっくり見ることが出来たのだが。
「おおっかわいー!」
「ええーっ!? コウヤだけずーるーいー!!」
「ううーっ!!!」
「…んんん」
が、
…………ーーーー
「「「「?」」」」
広間に落ちる光に影のような物が掛かった後、
…………‥ーーーーー…!
「何あれっ!?」
壮絶な鳴き声に顔を上げた皆が見たものは、天井の一番大きな穴に、その翼竜の姿が現れた瞬間だった!
「…本物のドラゴン?!」
驚くリリス。
「ワイバーン!」
ノエルは叫ぶ。
そして次の瞬間、地上に降り立ったワイバーン。
眼下のそれを見るその姿は、〈シロガネ〉も、親トカゲも気にする素振りを見せずに目前の美味しそうな餌ーー仔トカゲーーに舌なめずりするのが見て取れる様だった。
「あっ!」
しかし見過ごす親トカゲでは無い。遂に襲いかかったワイバーンに、トカゲは果敢に立ち向かう…が、
「ああっ!」「トカゲさん!!」
爪や牙も遙かに巨大で鋭いワイバーンの攻撃に、たちまちトカゲはボロボロになっていった。
「コウヤっ!」
「いわれんでもっ」
返したコウヤ。機体を機動させて、トカゲとワイバーンの間に自機を割り込ませた。そして…
「おおっ!!!」
…………‥ーーーーー!!!
吼えたコウヤに、吼え返すワイバーン。
だが睨み合う瞬間も無く、次の刹那には、ワイバーンはその牙で猛然と襲ってきたのだ!!
「「わああっ!!?」」…!」
「くっ」
咄嗟に構えた、〈シロガネ〉の右の手に噛みついたワイバーン。
…その気迫はアリシアとノエルをたじろがせ、コウヤも苦悶した。
……〈龍〉と言う存在がルクドニアから消えた後、コウヤの居た世界のアフリカに相当するカレドニア大陸で発見されて、人工的に繁殖された品種である〈ワイバーン〉。
龍ですら慄く存在であるヴァリアントに、一つも恐れず食いかかってくる程の凶暴性が何よりもの特徴だ。
ーーそして今、それは存分に発揮されている。
〈シロガネ〉の手を噛みついたままのワイバーン。
力を入れた途端その歯がぱきぱきと割れていくのが見えたが、ワイバーンは尚も怯まず噛み込んで、
「ぐわっ!」
「「「きゃあっ!!」」」
そのまま首をスイングすると同時に、〈シロガネ〉の腕を振り放った!
……………‥ーーーーーー!!!!
勝ち誇るように吼え上げたワイバーンである。
「…へっ!」
ーーだが、
「そーなっちまえば、後はこっちのもんだあっ!!!!!」
雄叫びと共に一歩踏み込んだコウヤ。…そして、
「てやぁっ!」
ーー……!?……ーー
ワイバーンのその顔に、アーマーブレイザーの一撃を浴びせたのだ!
ーーーー………!!!!!……‥ーーーー
…その一撃に驚いたらしく、ワイバーンは逃げる様に飛び去っていった。
「お、終わったの…?」
「…ああ」
「ふ、ふえーっ…」
「……ふぅ」
ほっと、力が抜けたコウヤ達。
そして、
「! トカゲさんはっ!?」
思い出したアリシア、
コウヤにハッチを開けさせると、次の瞬間には飛び出してトカゲの元へと走ったのだ。
「…トカゲさん、だいじょうぶ?」
「…」
アリシアの心配に、トカゲは安心させるようにその瞳を薄くした。
* * *
「クラスのみんなには大好評だったけど、先生からは怒られちゃったっ」
「先生トカゲ嫌いだもんね…」
「…ん」
何日かしての、猫の足跡亭。
この日もいつも通りに皆は集まっていた。
「ふてくされるなよ、あのトカゲと仲良くなる事が出来たんだから」
「まあそうだけどさーあっ」
トカゲであったがすっかり懐いたらしく、コウヤが鉱山で勤務している時も遠くからじっ、と見てくる様になった。
あの日の事は、喋ってしまうとまた捕獲されてしまう為、鉱山の皆には内緒と言う事にしている。
……もっとも、少し気付かれているようだが。
「お前達もまた鉱山に遊びに来いよ。きっと歓迎してくれるぜ?」
「「「…! うん!!!」」」
三人は笑顔になったのだ。
「…ん?」
ふとコウヤ。
…そういえば不思議の六番目と七番目はなんなのだったろうか。
〈了〉




