お姉さまの頼みごと
* * *
日は明けて、翌日。
屋敷で再び会ったノエルは、立派な服を着た正装姿であった。
あまりの美人さに呆気にとられているコウヤに、ノエルは何かを口に出しかけては止めを繰り返し、そして、
「…怒ってる、よね」
「ん?」
「だって、ボクが女の子だって隠してたから、その…ーーごめんなさいっ! 君には嫌われたくなくてっ、そのっ」
「何言ってんだよ」
「ーーえっ」
神妙な顔持ちでコウヤは言い、それから長い間を掛けてノエルが両目に涙をいっぱい溜めてから、慌てたように、
「いやっ違うそう言う意味じゃなくてっ、ーー何言ってんだよ。怒ってなんかないよ」
そう言われたノエルはますます涙を溜めて、
「ううっ、コウヤーっ!」
「うわぁっと、抱きつくなって! ちょっとノエルっ」
「うわぁーん!」
「おーい!」
「いやー青春だねー」
そのやりとりを離れた所で観ていたアリシア。
最初からそのことに気付いていたらしいアリシアは泰然と構えていたのだが、
「…あれ?」
ちくっと何かが、アリシアの心を掠めた気がした。
* * *
「ど、どうも初めまして」
先方が会いたいという事で、案内された一室にいたのはノエルの姉であるエルオーネ皇女殿下その人であった。
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歳の位は十五程。元の自分と同じくらいであるが、こういったやんごとなきお方との接し方が分からないコウヤである。
全身から発せられる高貴オーラもあってガチガチに緊張していた。
「まあ楽にして良い。…ふふ、似てないと思ったか?」
「な、何のことでしょう!」
「私の髪と目は父譲りでね」
エルオーネの髪は見事な金、目は紅水晶のような紅色であった。
据わり所のない目をとりあえず泳がせてしまっていると、目に付いたのは、壁には立派な髭を蓄えた偉丈夫と、ノエルや目の前の少女が成長したらこうなるだろうと言うような綺麗な婦人の並んで飾られている肖像画だった。
「私達の父と母だよ。二人とも私が幼い頃、ノエルが生まれて間もない頃に馬車の事故で死んでしまってね」
ヘビーな話である。
「ーーああっ、こんな話がしたいんじゃなかった! …まあ、安心したよ。お前になら託せそうだ」
「な、なんの話でしょう」
「こちらの話だよ」
魅力的にふふっと笑った。
「ま、まあ話は変わるんだが、あの子には見識を深めさせたいと思っている。聞けば君は仲良くしてくれていたそうじゃないか。…どうだ?」
大事な話なのであるが、緊張のあまり話があまり頭にはいってこない。
「は、はい!」
それを了承と受け取り、
「そうか、承ってくれるか! いやあ、学校の問題と将来のムコの問題が一気に片づきそうで安心だよ。今日は吉日だな!」
「? ? ?」
あっはっはと豪快に笑うエルオーネと、最後まで話が飲み込めずじまいのコウヤだった。
* * *
「攻めが大事だぞ」
「ね、姉様!」
「なんだぁ?」
「しーらない」
ふてくされたようにアリシアが言う。
「じゃあ…それじゃあな」
「う、うん。またね」
また? と疑問符が出るコウヤ。
「…コウヤ」
「ん?」
振り返りざま、ノエルはぎゅーっと抱きついた。
「お、おい」
「…むー」
私もー! と言ってアリシアも反対側に抱きつく。
「お、お前ら、おおーい!」
おしくら饅頭状態になり苦しそうになるコウヤに、かまわず続ける二人。
「ふふっ」
それを見てエルオーネは微笑むのだった。
〈了〉




