霧の中の戦い!
* * *
軍人目当ての、道の外れで開かれていた曲芸師達の見せ物を見ていたコウヤ達。
ナイフ投げの技が成功し、おおっと感嘆のどよめきが見物人達からあがる。
「…はっ、こんなことをしている場合じゃなかった!」
宿を出たその日の昼にはベルニクにたどり着いたが、軍人さんが多くなんだか街は物々しい様子である。
何でも四年に一度の大演習の最中であり、この時期は合同で行っているトリエステ軍とレンヌヴィル軍の軍人さんで溢れかえるのだそうだ。
「基地の街でもあるからねー」
とはアリシアの談である。
その場から離れて、ちょっと位置感覚が分からなくなるような、道の両側に立ち並ぶ似たような赤煉瓦で出来た建物の数々を抜けて、一路地図に書かれた大使館へ向かうコウヤ達。
そしてたどり着いた大使館。受付で用件を話すと、なにやら胡乱気な顔をされながら出てきたのが眼鏡のおじさん。
「…君たちもかい?」
と、ため息混じりに話し出した。
「いやあ、ノエル様失踪後、情報を集めるために報奨金を出したのはいいのだけど、その報奨金目当ての偽物が多く来てしまってね…」
初めて聞く話である。
「私もノエル様を直に見たことがないから真贋つきかねるのだよ。まあ、今日の所は帰りなさい」
そう言われ、大使館から追い出されてしまった。
「…なんだそりゃー!」
「結局話を聞いてくれなかったね」
「ど、どうしよ」
うんうんと唸りながら頭を捻るコウヤ達。と、そこで目に付いたのはレンヌヴィルの者らしい、街を歩く一組の甲冑姿の騎士だった。
こうなりゃ当たって砕けろである。
「そこの騎士の方!」
呼び止め、ノエルを指し示す
「レンヌヴィルの王子、ノエル様をお連れしました!」
たっぷりと間が開いた後、
「…はーはーっはっはっはっひーっフフハハハハハ!!」
「笑いすぎだ!」
「笑いもするさ! っひー、…いろいろ聞いてきたが王子様とはな」
「ノエルは男だろ! 王子様じゃなくて何なんだよ!!」
その言葉に再び騎士は笑い転げた。
「ボウズ達もからかうのはやめて、お家に帰りなさい」
「むきー!」
相方のその言葉にコウヤも爆発した。
「はっは、いーかー? ウソを付くにも、お前達は一つ重大なミスをしている」
騎士はたっぷりと間を持たせ、
「なぜならばっノエル様は王じ」
「わーわーわー!」
突然ノエルは大声を上げ、驚いたコウヤをそのまま騎士から引き離すように路地裏へと連れ込んだ。
「いってて…全く、今のはどうしたんだよノエル」
「…あう」
そう尋ねると、あの、とか、その、とかと言い掛けては止めを繰り返し、
そのままもごもごと口ごもってから、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「…なんだったんだろ」
「さーねっ」
追いかけてきたアリシアは悪戯気に笑い、その場には不思議だけが残った。
* * *
…町外れの演習区域。
《こちら第五分隊、応答願う、こちら第五分隊!》
濃霧の中、孤立したヴァリアントの分隊が立ち往生していた。
《だめだ、ノイズばかりで応答に出ない》
《ここまで酷いのは、よほど強い魔力を発するものが近くにあるとかだが…》
《うわぁ!》
《どうした!》
霧の中、背後を見ると僚機が一機消えている
《…な、何が起きた》
《がぁ!》
《! おい!》
…そして最後に一機残された。
《な、なんなんだよー、!》
やがて目の前に現れた、緑色に光る双眸が一つ。
《わ、わぁー!》
ーー分隊は全滅した
* * *
「こうなりゃ直接、レンヌヴィルにノエルを送り届けようと思う!」
「おー!」
「おっ、おー!」
順にコウヤ、アリシア、ノエルである。
「所で送り届けるって何処に?」
「え、えーと、…王家のお城とか?」
「なにも考えてなかったんだね!?」
「だってよー」
「…ええと」
そう言い掛けて、ノエルが切り出した。
「ここから余り離れてない場所に王家の屋敷があります。この時期になると毎年姉様が訪れるから、そこに行けば必ず」
「姉様って、おまえお姉ちゃん居るのか?」
「う、うん」
「良かったら紹介してくれよ…ってアリシア痛い痛いつねるなぁっ!?」
ともかく一行は乗り込んだ〈シロガネ〉を立ち上がらせた。
ーーそして時は流れ、十数分後。
国境の傍の町外れ。
「たしかこの辺りに検問所がっと」
そう言いながら、コウヤは地図を片手に霧に満ちた森の中を走らせる。
「…こりゃひでえ、昼間なのに真っ暗だ」
「でも地図だとこの辺りだもんねえ」
「ま、前にまっすぐ」
「前?」
ノエルがそう言い、その言葉通り機体を向かわせると、確かに看板が見えた。
「おー! お前すげーじゃん!!」
「え、えへへ」
そうして進んでいき、霧の向こうに検問所が見えた瞬間…
《止まれ!》
呼び止めたのは、二体の重ヴァリアント、〈グスタフ〉の分隊であった。
《不審なパラディン、さては貴様が犯人か!》
「な、何のことだよ」
《とぼけるんじゃない!》
「うわっ!」
その言葉とともに剣を抜きはなった〈グスタフ〉。
《ーーその声、街であったボウズか! お前はとんでもない奴だったんだな!》
「あっ、あんときのおっさん!」
その言葉にズル、とずっこける。
《誰がオッサンか! …と、とにかく無駄な抵抗はせず、大人しく投降しろ!》
「だから何の話なんだよ!」
《お前が連続して演習中の我が軍の機体を襲撃している犯人だと言っているんだ!》
「な、なんだそりゃ!?」
コウヤは全く身に覚えがない
《言い訳は後で聞く、神妙に縄につけ!》
「うわぁっ!」
「きゃあ!」
抜き放たれた剣が振りかざされ、悲鳴と共に回避機動をとるコウヤ
距離を取り、再びの対峙。
「ちっくしょう、危ねーなー! こっちは子供三人乗ってるんだぞ!!」
《問答無用!》
剣を構え、見得を切る〈グスタフ〉。
「くそー!」
どのみち〈シロガネ〉は丸腰で立ち向かいようがない。
そんな時、かなりの濃霧がコウヤ達の周囲に立ちこめていった。
「うおおおっと!」
すかさず、霧の中に飛び込むコウヤ。
《どこへ行った!》
探すために僚機が散開し、その場に残り辺りを見回すもう一機の〈グスタフ〉。
…その背後に〈シロガネ〉はいた。
実はそれほど動いていなかったコウヤは、偶然にもその背後をとったのだ。
そして目前の相手にも気付かれていない様である。
(チャーンス!)
コウヤの頭に企みが浮かんだ。
* * *
《霧が深くて何がなんだか分からん…よし》
そう言うと、〈グスタフ〉は腰の兵装トランクから取り出した閃光手榴弾を投げ、
《そこか!》
炸裂、発生した影に向かい持ち替えたクロスボウを打ち込んだ。しかし…
《何っ》
矢が当たり、霧が裂けたその先にあったのは、〈シロガネ〉に両肩の付け根を後ろから抱えられ、拘束されていたもう一機の〈グスタフ〉。
命中したことで崩れ落ちるその腰からコウヤは剣を抜き取ると、それを町で観たナイフ投げの技のように、呆然として一瞬の隙が出来ていた〈グスタフ〉に向かい、投げつけた!
《ぐわぁっ!》
一瞬の出来事である。突然の反撃を喰らい、まともに受けた事で一撃で倒れる〈グスタフ〉。
「やーり!」
作戦が成功したことで機体を動かしながらガッツポーズをするコウヤ。
こうして塞ぐ物はなくなり、後は突破するのみであった。だが、
「っ!?」
何か強大なものに睨まれたような怖気が突然走り、通信にも異常なノイズが入る中振り向いた先に、
ーー現れたのはヴァリアントの倍はあろうかという巨大なシカであった。
「なんだよあのシカ!」
「あの子はっ」
《此奴が原因か! 守護幻獣、なんでこんな所に!》
シカは鼻息荒く、起きあがった〈グスタフ〉を軽々とはね飛ばしてしまった。
「つ、つええ」
思わず唖然とするコウヤ。
そしてシカは次はお前だと言わんばかりに、残った〈シロガネ〉を睨みつけた。
その時ノエルが動いて、
「コウヤ開けて、あの子を落ち着かせる!」
「ええっ!」
「お願い!」
「…〜っ!」
ノエルを信じて、ハッチを開放。
開かれた瞬間、シカのオーラというか気迫というのがビリビリと伝わってきて、思わずぶるりとするコウヤとアリシア。
…だがノエルはたじろがない。
そうして開かれたハッチの下半部にノエルが立つ。
「気を付けてね!」
「大丈夫、…大丈夫だから」
直後、シカが〈シロガネ〉に向かい突進を始めた。
「ノエル!」
「待って!」
動くとノエルが落ちる。
背中を見せた状態で、目を閉じて堪えるコウヤ。
そしてシカがすぐ背後まで接近し、ぶつからんとした…その時。
…ゆっくりとした歩みに変え、コクピットの目前、ノエルの前でピタリと止まると、一礼を示すようにこの巨大なシカは一鳴きした。
「…た、助かったのか」
へなへなと脱力するコウヤ。
「…えへへ」
シカが、差し出されたノエルの手をぺろっと舐める。
コウヤはその光景を見て、いつもふわふわとしたノエルがこの時ばかりは威厳や神秘に満ちて見えた。
ーーそしてこのシカの主、それが何を意味するか。
《…本物だ》
駆けつけてきたらしいレンヌヴィルの部隊の一人がぽつりと言う。
《こ、皇女殿下に敬礼!》
集まった〈グスタフ〉の一隊は最敬礼をした。
…ん?
「皇女殿下ぁ!?」
そのコウヤの言葉にノエルは、気付かれたくなかったことに気付かれてしまったように、ギクリとした様子で固まった。
* * *




