温泉宿にて
* * *
翌日、〈シロガネ〉に乗り込んだコウヤ達はレイチェルに見送られながら猫の足跡亭を出発し、その日の夕方にはベルニクとの中間の町であるカテリニの町に着くことが出来た。今日はこの町で一泊し、翌日ベルニクに着くという予定であった。
コウヤの給料が中々いいため、結構な宿屋での宿泊である。
「あらいらっしゃい。三人でお出かけかい?」
出迎えて、そう言い微笑ましげに表情を弛ませた仲居さん。
「ーー両手に花だね坊や。どっちが本命だい?」
「ちがわい!!」
片っぽ男だし! と抗議するコウヤに対し、でも美人でしょ、と返す仲居さん。
こんな一幕を挟みつつのチェックインであった。
* * *
所変わって、大浴場。
コウヤは早速評判らしい風呂へノエルを連れやってきたのである。が…
「どーしたの?」
立ち上る湯気の中。無防備なその体に泡を付けて、心配そうに背けたコウヤの顔をのぞき込むノエル。
(お、男の裸に何ドキドキしてんだよ俺ぇっ)
そんなノエルからはいい匂いがする。
「…そーか、匂いが原因だな。うん」
「?」
「なんでもない。流しちゃおう」
「うん!」
ノエルに背中を向けさせ、シャワーでざーっと泡を流していく。
そうして浴場から先に出て、脱衣場で服を着るコウヤ。
…この温泉最大の楽しみがあるのである。
同じくそれが目的で出たらしいアリシアと共に、
腰に手を当て、ドリンクケースから出したそれをぐいっと一飲み。
「「…ぷはーっ!」」
コウヤはコーヒー牛乳派、アリシアはフルーツ牛乳派であった。
「あーうまかったうまかった」
「おいしかった! …ノエルちゃんは?」
「ちゃんっつーか、まだ中にいるよ」
「…ふーん」
数秒考えた後、アリシアは、
「ここ混浴だっけ?」
「?」
ま、いっかとアリシアは流した。
* * *
「話があるってなんだよ」
「そ、その…」
そして部屋に戻り、食事の後、そう切り出したノエル。
言いよどむノエルを置いといて窓の外を見ると、そこには時期外れの蛍が飛び交っていた。
「き、キミたちにはちゃんと話さないとって思って、…そのっ」
「いいんだよ、話せることから話せばいい」
「ーーうんっ、分かった」
すぅと一息深呼吸をして、ノエルは、
「…君たちに、話しておきたいことがあります」
そう言ってコウヤとアリシアの耳を寄せてごにょごにょと言い、
「ーー王子様!?」
驚愕とするコウヤ。
「ちょっと違うというか、ええっと、あ、あうう…」
「ともかくレンヌヴィルの偉い方ってのは分かったよ」
うーむと唸るアリシア。
当人の説明によると、ノエルはトリエステの隣国・レンヌヴィルの、その王家の人間なのだという。
「…それじゃあ俺たちはどうすればいい?」
「その、これまで通り接して欲しい、です」
コウヤの顔を伺うようにノエルはそう言った。
「了ー解。俺は分かったけどアリシアは?」
「私も分かったよ!」
確認して、コウヤは満足げに頷いた。
「それじゃあ親睦を深めるために…ウノ大会だ!」
そしてコウヤが買っておいたウノを取り出し、ーーそれから賑やかに時は過ぎていったのだ。
その勢いのまま一時間半ほどが過ぎ、ノエルとアリシアのお子さま組が眠そうに目をしょぼしょぼさせ始めていた。
コウヤも身体の影響からか瞼が重い。
「ーーんじゃこのへんで今日の所は寝るか。…明日は本番だぞ。それじゃあ」
「「「おやすみー!」」」
そういって灯りが消された。
* * *
「…寝つけん」
ベッドの上、暗闇の中目を開けるコウヤ。
とりあえず顔を横に向けてみると、アリシアは既に寝ているようですやすやと寝息を立てている。
そしてノエルは…
「おっ」
モゾモゾとコウヤのベッドに近づく人影…ノエルである。
「ごっ、ごめんなさい。一人だと寝れなくて…」
「いいよ。そらよっとっ」
大人用の為余裕のあるベッドの右半分を開けて、ノエルを招くコウヤ。
招かれたノエルがベッドの上で横になり、そして二人はふかふかの毛布を被った。
「…王子様か、初めて見たよ」
しばらくの沈黙の後、天井を見ながらコウヤは言った。
「あう、そ、その、ちょっと違うけど…それよりも、その、ボクを届けてくれるのにこんな」
ノエルは布団を顔の半分まで被り、
「いいじゃねえの、友達なんだから」
「友、達」
確かめるようにノエルは言った。
「そうそう」
「えへへ…友達…」
「そうだぜーって、ん?」
ノエルからはすやすやとした寝息が聞こえて来る。
…その言葉を最後にノエルは寝てしまった様だ。
「…」
ーー起きているのはコウヤだけになった。
「さてと、寝れるかな…」
そう言ってコウヤも目を閉じたのだった。
* * *
「で、どうして一緒になってるのかな」
翌朝、一緒のベッドに入っているコウヤとノエルを仁王立ちで睥睨しながらアリシアは言った。
「いいじゃん同性の友達なんだから」
「よっ、良くない!」
即答である。
「なんでさー!」
「あうう…」
抗議するコウヤと今更ながら真っ赤になるノエル。
…かくして旅行二日目は始まったのである。




