鏡からの来訪者
…物心付いた頃から欠かさずしている、朝の礼拝。
神聖で厳かな場の中、数日後に行われる大事な儀式の予行も兼ねたその日の礼拝は無事に終わろうとしていた。
最後に一枚の鏡の前に立ち、その鏡に祈った。
すると突然その鏡が輝きだし、そして…
* * *
所変わって、猫の足跡亭。
コウヤとアリシアは洗面台で朝の歯磨きをしていた。
「ねーむーいー…」
「今日から四連休だけど一日中寝てるわけにはいかないだろー」
一日を規則正しく! と言いながら、鏡に向かって磨き終えた歯をいーっとしてみるコウヤ。
そう、今日からアリシアは四連休であった。
「はーい」
「よろしい…なんか俺の言動がおばさんがかってきてるな。ん?」
光の粒子のような物が輝いたと思うと、突然、鏡から人が現れたのがその時である。
避ける暇もなく、その人影はコウヤに直撃した!
そして受け止める形で倒れ込んだコウヤ。
「お、親方。鏡から人が…がくっ」
「コウヤーっ!?」
朝から大わらわである。
* * *
色の薄い、灰がかった栗色の髪。
日に透けて金色にも見えるその髪を揺らしながら、そのお子さまは俯いていた。
ノエルという名前を聞き出したのだがそれまでで、後はずっと俯いたまま。
服装から男の子だと判断したが、その見た目は美少年。女の子なら超のつく美少女であろうとコウヤは思った。
「ここはトリエステのベルデの町だよっ! ねえねえ、あなたのお家はどこどこ?」
この時ばかりはアリシアのパワフルさが頼もしかった。
少しの間言いずらそうにした後、
「…レンヌヴィル」
そう言って、事情の説明を始めるお子さま。
「…うーん、妖精さんのいたずらで来たなら大使館まで行けば何とかしてくれるよ。ちょっと調べてくるね!」
聞き終わり、言って駆けだしていったアリシア。
「…あの」
「ん?」
「え、あう、さっきは…その、ごめんなさい」
「良いって事よ。こっち来てなーんか体が丈夫なんだよな」
こっち? と疑問符を浮かべるノエル。
そんな折り、ぐ〜っと、腹の虫が鳴く音が響いた。
「あ…」
自身のそれを聞いて、顔を真っ赤にしたノエル。
コウヤはにっと笑った。
「メシにしようぜ!」
* * *
「で、私がいない間二人でおいしい物を作って食べたの?」
「お前の分も作ってあるぞ」
「いっしょに食べたかったー!」
そう言い爆発するアリシア。
ちなみに作った物はカルボナーラのパスタである。
お腹が満たされたことで、ノエルも明るい表情となっていた。
「まあともかく、レンヌヴィルの大使館の場所は分かったよ。レンヌヴィルとの国境の町、ベルニク!」
気を取り直して、棚から取り出した自分の分のパスタをちゅるりと食べながらアリシアが言う。
「国境なのに大使館があるのか?」
「トリエステはちっちゃいからね。一日半もあれば行けるところだよ。…そしてねー、せっかくの四連休だし、私もどっか出かけたいと思ってたの。だーかーらー」
連れてって! とアリシア。
…たっぷりと考えること五秒程。
「よし、いくか!」
「やたっ!」
「そうと決まればトーマスさんに言って休暇取らなくちゃ。アリシアは?」
「レイチェルさんに伝えて荷造りする!」
早くも夏の気配が漂う日であった。
* * *




