ベルデ大決戦
* * *
…移動を続けた〈怪獣〉は、やがて開けた公園のような場所に出た。
昨日コウヤがリリス、アリシアと一緒に散策に出かけた、あの広場だ。
その広場を〈怪獣〉は睥睨する。
そこにコウヤもたどり着いた。
怪獣の反対側、広場の南口である。
「リリス!」
コウヤはあの怪獣を睨む。
房の固まりに花弁のような殻が左右にくっついた〈怪獣〉の大きさは、手前の木と比べる限り、本体が目測三十メートル程。
そして殻の間から触手が持ち上がると…
「どわっとと!」
機体を横に機動させ、飛んできた触手を回避する。
どういう原理だか分からないが限度なく延びるらしい〈怪獣〉の触手は、二百メートルほどある広場の反対側のここまで飛んでくるほどだった。
避ける場もないという事実に冷や汗が落ちるコウヤ。
金属板を尖ったもので引っかいたような不快な鳴き声を発しながら、〈怪獣〉は臨戦態勢に移る。
「しゅ、シュワッチ!」
それに併せてコウヤも〈シロガネ〉を構えさせてみるが、その姿は怪獣のきぐるみに立ち向かう子供のようで、いくら何でもサイズの差というのがある。
小さい頃の夢はウルトラマンになることだったとはいえ、いくら何でもこれはあんまりだとコウヤは思った。
触手をバシバシとしながら〈怪獣〉がうなり声を上げる。
「こうなりゃこっちも触手勝負だ!」
言って、クリーパーショットを照準、近づくために怪獣の手前の公衆トイレの建物にその射出先をセットした。…次の瞬間、
…〈怪獣〉は口から光線を吐き出した!
「うおおおおぉおっ?!」
しかし同時に飛んでいったクリーパーショットがあらぬ方向に着弾し、引っ張られたそのおかげですんでで避けることは出来た。
そして着地を終え、自分が元いた場所へと振り返ると、
ーー光線が当たった地面はマグマのように赤く泡立っていた。
「…ひいい」
思わず呻くコウヤ。
《フン、苦戦しているようだな小僧。まあそれも当然か》
不審者改めゴールドフィールドからの通信である。
あのメカは完膚無きまで破壊したつもりだったが、通信装備は生きていたらしい。
「御託はいいから弱点か何かを教えてくれよっ」
《弱点などはない!》
呼応するように〈怪獣〉が叫びを上げる。
《あれの核となっているあの実験体をどうにかできるのなら話は違うだろうがな、貴様がアジトで邪魔してくれたおかげで制御キーを入れ損ねた。そのせいで、あれは完全に暴走状態に入っている! 故に貴様が勝つことは不可能、あの存在を私が制御することも不可能なのだ! ふわはははは!!》
…取りあえず不審者の顔を閻魔帳に念入りに書き込むとして、リリスがあの〈怪獣〉の核になっているという今の会話で、コウヤは何かヒントのようなものを掴みかけていた。
ーーあの時、あの廃工場で奴はリリスに何をしようとしていたかと言ったか、その時のリリスの状態は?
直感が正しければ、これは勝機だ。それを確かめるべく、シロガネの視界を最大望遠…。コウヤの視覚に〈怪獣〉の頭部付近の映像が流し込まれる。そして、
「ビンゴ!」
見覚えのある、リリスの体を包む琥珀色の膜。
廃工場でみたのはあの〈怪獣〉の額だったのだ。
リリスの場所さえ分かれば半分勝ったようなものである。
《きっ貴様、あの実験体を殺すのかっ!》
慌てたオッサンがようやくそれらしいことを口走った。
「誰がよっ」
弱点はリリスがいる頭なのだ。
「待ってろよ…」
核を失った怪獣がどうなるかは分からなかったが、目的はリリスを取り返すこと。後のことは知ったことか。
クリーパーショットを再照準、目標は頭部付近。
相手も再び光線か触手を繰り出す準備に入ったらしい。
そして瞬間、コウヤの〈シロガネ〉がクリーパーショットを射出するのと、〈怪獣〉が光線と触手を両方放ったのは全く同時であった。
「……!!」
光の奔流が迫る中クリーパーが着弾した感触。一気に巻き上げて、飛翔させる。
直後膨大な熱量が機体をかすめていき、狙いを外れた触手が追おうとする中、上空まで跳ね上がった〈シロガネ〉を、その瞬間丸空きとなっていた頭部にめがけて一気に落下させる。
体を襲う衝撃、滑り落ちる機体を手足を使い静止させたのは、その頭部の、まさにリリスがいる目の前だった。
「取り付けた…!!」
やるべきことは一つだけ。通信からオッサンの怒鳴り声だか絶叫が聞こえる中、クリーパーをさらに巻き上げ、怪獣を掴む両腕を自由にさせた。
「ーーうおおおおっ!!」
雄叫び、琥珀色の膜に〈シロガネ〉の片手を突き入れる。
〈怪獣〉が凄まじい叫び声とともに暴れるが、もはや構うものではない。
最後にもう一方の手で膜を破り去り、その手の先のものを、慎重に、優しく、そして…
ずるりとした感触とともに、リリスの体を抜き出すことが出来た。
「やった!」
直後、〈怪獣〉の断末魔が夕暮れの広場に響きわたる。
強大な古代の〈怪獣〉。その正体はスライムだったらしい。
リリスの膨大な魔力により〈怪獣〉の体を作っていたスライム達は、魔力から解放されるや否やボコボコと分解を始め、その場で溶け込むように地面と同化し、逃げていった。
後に残されたのは、静寂に包まれ何もなくなった公園と一体のヴァリアント、そして手の上の少女だけ。
「やった…のか?」
何はともあれ、勝ったのだ。
* * *




