不審者再び
* * *
「クリーパーショット?」
「そうだ」
コウヤはトーマスに連れられ、ハンガーの中の〈シロガネ〉の前。
「一旦外してたんだがようやく手入れが終わってな、返しておこうと思ったんだ」
「へーえ」
指し示された〈シロガネ〉の肩口の先には短いパイプと横にした植木鉢を合体させたような、奇怪なオブジェが付いていた。
そう言えば見つけたときになんか肩に付いていたなーとは思ったが、なにがしかの道具だとは思ってもいなかった。
「先端が物に張り付く特殊なツルを射出して、機体を高いところに移動させたりつり下げる事が出来る。まあ、この鉱山では使うかどうかだな」
年期物は高く売れるぞとトーマス。
そしてツルと聞いて、〈シロガネ〉を見つけたときツルまみれになっていたのはそれが原因だったのかとコウヤは思った。
* * *
その日の仕事が終わった後、コウヤはアリシアとリリスに連れられて丘の上の広場まで遊びに来ていた。
早速露店でジェラートを頼むアリシアと、それを見ながら木陰のベンチに座った二人。
…昼下がりの空の下。木陰がそよぐ中しばしの沈黙が流れる。
「すっかりお前ら友達になったんだなー」
「まだ」
言って、リリスは、
「…まだ、そういうのじゃ、ないのかも」
「そうなのか?」
そこに買ってきたアリシアが戻ってきた。
「はい、これがリリスちゃんの分。これはコウヤの分」
「おおっサンキュー!」
「リリスちゃんも一緒に食べよ?」
「ん」
そう答えたリリスの横顔は嬉しそうで
「嬉しそうじゃん」
「…ん」
ちなみにジェラートの味はチョコ味であった。
* * *
そのさらに翌日の夕方。
休憩中、アリシアから緊急の電話が掛かってきたのはその時だった。
「…リリスが連れ去られた!?」
アリシア曰く、一緒に下校中の所を襲われて、アリシアを庇う形でリリス一人が連れ去られたのだという。
「場所は分かるのか」
《小鳥さんに頼んで後はつけさせたの。詳しい場所は後で伝えるけど、町の南にある廃工場跡。召喚術士の面目躍如だね!》
「それじゃあな、俺も今すぐ行くから、今から警察に電話してくれ。頼んだぞ!」
電話を切り、沈黙が降りる。
内心、コウヤも頭がパニックになっていた。
そこにトーマスが入ってきた。
「トーマスさん。俺は…」
「さぼった分は給料から引いて置くからな」
「! ありがとうございます!」
一躍、コウヤは休憩室から飛び出していった。
* * *
〈シロガネ〉に乗り、向かうは教えられた廃工場跡。
工場に着くまでは十分ほどかかって、そして工場の前。扉を蹴破り内部に進入。ーー工具やら資材やらが雑然と置かれた中には何も見あたらない。
辺りを伺いながら歩を進めた…その時。
《聞こえるか侵入者、ここは私のアジトだ。速やかに立ち去れ!》
仕掛けられているらしいスピーカーで声が流れる。…先日の不審者の声だ。
「ここにいるのは分かっている。リリスを返してもらう!」
《りーりーすぅー? ハン、あれにはそんな名前が付いていたのか。とにかく知った事か。帰れ帰れ》
「てめえは何なんだ。何で俺やリリスを狙った!」
《俺を? …ほーほーあの時の少年かあ。お前を狙ったのはあれをおびき出すための餌として使うつもりで、最初からあれだけが目的だったのだよ》
「んなっ…とにかく返せ! あいつは俺とアリシアの友達なんだ」
《友達? 物の価値が分からん子供め》
言われて、コウヤはカチンと来る。
《来るべき戦いに備え、紛い物の竜ではない龍種と同等、いやそれ以上の生命体を生み出す研究…。あれはその最古にして最新の成果なのだよ!》
不審者はそう言ったが、コウヤにはさっぱり意味が分からなかった。
が、兎に角不穏な内容だというのは分かった。
《…それが何がどうして、こんな辺鄙な片田舎で学生なんぞやってるのかは知らないがぁ、…とにかく、これは秘密結社の矜持に掛けて、あの忌々しい奴らを出し抜く、私にとってのチャンスだったのだ!》
アリシアが聞いたら怒り出しそうなことを言い出しつつ、不審者の独白は続いた。
《そしてっ、この私ゴールドフィールドが正しく扱えば、あれは人類の盾になるのだ。大正義なのだよ少年。その邪魔立ては誰にもさせんぞ》
「…言い分はそれまでかあっ?」
ゆらありと、怒りがコウヤから立ち上る。
「ーーさっきっからあれだのなんだの、只じゃ済まさあ!!」
我慢の限界だった。
自分でも驚くくらいの怒鳴り声で啖呵を切った後、声の元を探して周囲の資材を蹴り上げたりした。
「出てこい! さもなきゃこの掘っ建てぶち壊すぞ!!」
《これ以上暴れられるとかなわん…良かろう。相手になってやる》
破壊音とともに工場の奥の壁が崩れ、影の中、目のように取り付けられたライトが点灯する。
《強襲メカ26号、はっっっしん!!!》
現れたのは、潰れた円筒状の胴体に三角錐の頭と蛇腹の手足が付いた不格好なロボットだった。
「邪魔なんだよっ!」
《フハハ、〈パラディン〉が相手だとは恐悦至極ぅ!》
叫ぶゴールドフィールドはコクピットの中なのにリモコンを使って操縦している。
《喰らえ、パワーアーム!》
「おおっと、食らうものかい!」
ロボットの腕の蛇腹が延びて繰り出されたパンチを、コウヤの〈シロガネ〉は軽々と避けた…が、
《どうかな?》
延びきった腕がそこで曲がり、さらに延びて勢い付いたまま、コウヤの乗る〈シロガネ〉の背部コクピットを打撃した。
「どわああぁっ!」
けっこうな衝撃がコクピット内を襲い、思わず絶叫を上げるコウヤ。
そしてグーから開かれた手が〈シロガネ〉を掴み、延びた蛇腹を巻き付かせてその動きを封じた。
《はっはー! ヴァリアント如きがこの私の発明たる強襲メカにかなうものかよ!!》
「てめえなんぞに、…負けるかあっ!」
気合い一閃、そこでコウヤは凶悪な表情になって叫ぶ。
「うおおおおおっ!」
腕に力を込め、そして力任せに蛇腹を引きちぎった。
《何っ、計算以上のパワーだとっ! これは興味深…》
「そらあっ!!」
《ぐおっ!》
コウヤは最後、ロボットのボディーにつま先で鋭い蹴りを入れ、転がったそれがバラバラと自壊して決着は付いた。
ーー辺りを捜索する。
すると崩された壁の向こう、そこに裸の状態のリリスが銀の縁の赤いベッドに寝かされていた。
コウヤはあの不審者の死刑を決定しつつ、機体を傍に進めさせる。
「油断させてからどうにかするつもりだった…不覚」
「どうにかするってか…待ってろ、今助ける」
リリスが寝かされている赤いベッドは生物的で、よく見るとそれが血管の集合体で脈打っているという事にコウヤは気が付かなかった。
そしてリリスに手を伸ばした…瞬間。
ーーリリスの身体がベッドから現れた琥珀色の半透明の膜に包まれた。
「…んなっ」
・・
地響きと共に工場の床が割れ、地下階からその本体が浮き上がると、
・・・
リリスは大空高く、飛翔した。
* * *
空中に浮き上がったその奇妙な塊は高度を増しながら徐々に大きくなり、ある程度の大きさになった所で頭が生えて〈怪獣〉になった。
人々が家や建物から出たり、歩みを止めてそれを見上げる中、〈怪獣〉が大きな耳障りな鳴き声を上げて威嚇を始める。
そして〈怪獣〉の身体からツルのような触手が出ると、それを眼下の建物に向かい叩きつけ始めたのだ。
残骸となった地面に着地した〈怪獣〉はさらにその荒ぶりを広げ、その攻撃は手当たり次第の物となった。
ーー誰もあの〈怪獣〉を止める手だてはなかった。
そこに、通報を受けたトリエステ軍警察のヴァリアント隊が到着。
勇躍、二両のポーターキャリアから軽戦ヴァリアントであるスコルピオンが出撃するが…
「あっ、やられた!」
回避する間もなく、立ち上がった一機に房から高速で放たれた触手の一本が直撃。
背後のキャリアも巻き込んで吹き飛ばされ、建物へと叩きつけられてしまい、もう一機も同様に瞬殺された。
戦う前に全滅してしまったのだ。
最後の希望を絶たれた人々の顔が絶望に染まり、いままで火事場の見物と洒落込んでいた者達も悲鳴とともに一斉に逃げ出した。
勝ち誇るように吼え挙げる〈怪獣〉。
そんな中、避難する群衆をかき分けるように一体のヴァリアントが、その場所へと向かっていく。
「リリスーッ!」
小田桐コウヤにとって、絶望的な決戦が始まろうとしていた。
* * *




