第9話 牙の答え
8話まで読んでいただきありがとうございます。
ここからまた展開が変わります。
森は静かだった。
異世界人は走っていた。
いや――もう走れていない。
足がもつれる。
呼吸が壊れている。
背中から血が流れ続けている。
(……もう)
限界だった。
足が止まる。
膝から崩れる。
地面に手をつく。
冷たい土の感触。
(……ここまでか)
その時。
「ゲームは終わりか?」
後ろから声。
ガルド。
ゆっくりと歩いてくる。
余裕の足取り。
「まぁまぁ楽しませて貰えたぜ」
異世界人の後ろで止まる。
剣を持ったまま。
「終わりだな」
ガルドが楽しそうに笑う、
異世界人は動けない。
振り返ることもできない。
ただ、呼吸だけが荒く響く。
ガルドが剣を持ち上げる。
「今度こそ、な」
その瞬間――
風が止んだ。
森が、静かになる。
ガルドの動きが一瞬だけ止まる。
「……?」
違和感。
異世界人も感じる。
空気が変わった。
何かいる。
すぐ近くに。
判らない。
重い存在。
低い――唸り声。
ガルドの目が細くなる。
「……チッ、獣か」
だが、その顔に余裕は残っている。
「ちょうどいい」
剣を構え直す。
「まとめて殺してやる」
「毛皮もいただきだ」
その時。
影が、動いた。
ガルドの視界の端。
黒い何かが走る。
速い。
異常な速さ。
「なっ――!」
ガルドが反応するより先に、
横をかすめる。
風だけが残る。
一瞬遅れて、服が裂ける音。
「……!」
「なん…だ」
ガルドが距離を取る。
目が動く。
追う。
だが――捕まえられない。
黒い影が、木々の間を滑るように動く。
止まらない。
見えない。
ノワール。
静かな殺意。
攻撃は当たらない。
だが、確実に削る。
ガルドが舌打ちする。
「チョロチョロと……!」
「速いだけだろ!」
剣を振るう。
だが空を切る。
また後ろ。
また横。
また消える。
完全に翻弄されている。
異世界人はそれを見ている。
ぼやけた視界で。
(……なんだ)
ただの狼じゃない。
分かる。
動きが違う。
ガルドが苛立つ。
「正面から来いよ!」
その叫び。
その瞬間。
隙が生まれる。
ノワールが一瞬だけ止まる。
わざとだ。
視線を引きつける。
ガルドの意識が、そっちに向く。
完全に。
その時――
背後。
気配。
遅い。
気付いた時には――
もう、いた。
灰色の影。
低く、重い殺気。
ノクス。
迷いはない。
一直線。
ガルドが振り向く。
だが間に合わない。
「――っ!」
牙が、喉に届く。
噛み切る。
骨の音。
肉の裂ける音。
血が噴き出す。
ガルドの目が見開かれる。
「ッ…!ッ!」
声にならない声。
剣が手から落ちる。
ノクスは離さない。
さらに力を込める。
完全に……断つ!
ガルドの体が崩れる。
地面に落ちる。
動かない。
森に、静寂が戻る。
ノクスがゆっくりと顔を上げる。
血が滴る。
その目は、まだ荒い。
獣のまま。
ノワールが隣に立つ。
静かに。
呼吸も乱れていない。
対照的な二匹。
異世界人は、動けない。
ただ見ている。
2匹の狼を。
理解が追いつかない。
だが一つだけ分かる。
ガルドは死んだ……
その瞬間。
低く唸る声、
ノクスが唸る、
異世界人は最後の力を振り絞り、
声を発する、
「いいよ……食え……」
低く唸り声は聞こえている、
しかし、異世界人の視界は、
暗くなっていく、
何も見えない、聞こえない……
9話読んでいただきありがとうございます。
いつも読んでいただきありがとうございます。
楽しんで貰えてたら幸いです。




