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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
牙に拾われた命

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第10話  黒髪の守護者

10話まで来ました、ありがとうございます。

まだまだ序盤ですが、キリのよい話数になりました。

森は静かだった。

血の匂いだけが、わずかに残っている。

ガルドは動かない。

もはや物体である。

そのそばで――

ノクスはまだ牙を剥いていた。

低く唸る。

気は抜いていない。

ノワールはその横で静かに立っている。

周囲を見ている。

風の流れ。

気配。

すべてを読むように。

やがて、ノワールが視線を動かす。

倒れている人間へ。

動かない。

血の匂いが濃い。

ノクスが一歩近づく。

唸りが強くなる。

敵かどうか、まだ判断していない。

いや――

人間である時点で、敵だ。

牙を見せる。

喉を狙える距離まで近づく。

その時。

風が、揺れた。

ほんのわずかに。

ノワールの耳が動く。

ノクスも反応する。

同時に、顔を上げる。

何かがいる。

気配。

だが――

気付けなかった。

そこに。

すでに、いた。

黒髪の女。

音もなく。

気配もなく。

ただ、立っている。

ノクスの唸りが止まる。

一瞬だけ。

視線が向く。

女を見る。

その目が細くなる。

警戒。

だが――飛び掛からない。

本能が告げている。

危険だ。

ノワールは一歩だけ後ろに下がる。

理解している動き。

女は何も言わない。

ただ、2匹を見たあと――

視線を落とす。

異世界人へ。

ゆっくりと近づく。

ノクスが唸る。

だが、それ以上動けない。

女は気にしない。

異世界人のそばにしゃがむ。

傷を見る。

背中の裂傷。

深い。

放っておけば、死ぬ。

女は少しだけ目を細める。

そして――

液体をかけ、

緑色のドロドロしたものを傷口に塗る、

多分薬草みたいな物だろう、

死なない程度には、戻す。

ノクスが低く唸る。

理解できないものを見る目。

ノワールは黙って見ている。

女は手を離す。

出血が止まっている、

異世界人の呼吸は、かすかに戻っていた。

生きている。

女は立ち上がる。

そのまま、2匹を見る。

短い沈黙。

ノクスはまだ牙を見せている。

だが――

飛び掛からない。

女はそれを一瞬だけ見て、

興味を失ったように視線を外す。

そして、再び異世界人を見る。

目を開けた。

異世界の意識が戻る。

ぼやけた視界。

最初に見えたのは――

黒。

髪。

そして、女の顔。

近い。

「……誰だ」

掠れた声。

女は一瞬、沈黙する。

そして、短く言う。

「名は?」

質問で返す。

異世界人は少しだけ間を空け。

「……ケンジ……」

女はわずかに頷く。

その名を覚えるように。

そして言う。

「ここで死なれても困る」

感情のない声。

ケンジは眉をひそめる。

「……どういう……?」

女は答えない。

ただ立ち上がる。

背を向ける。

森の奥へ向かって歩き出す。

数歩進んで、止まる。

振り返らないまま――

「決めろ」

それだけ。

ケンジは少しだけ目を閉じる。

状況を整理する。

分からないことだらけだ。

だが――

ここにいても、何も変わらない。

ゆっくりと体を起こす。

痛みはある。

だが町には戻れない、

付いて行くしかない、

女を見る。

背中だけ。

それでも分かる。

逆らえない存在。

ケンジは小さく息を吐く。

「……町よりはマシか……」

立ち上がる。

ふらつきながら、一歩踏み出す。

その時。

ノクスが動く。

ケンジを見る。

鋭い目。

牙。

まだ敵だ。

距離を詰める。

低く唸る。

空気が張り詰める。

ケンジは止まる。

逃げない。

数秒の沈黙。

その時。

ケンジが言う、

両腕を広げて、

「やっぱり、食うか?」

「助けて貰った命だ、好きにしろ……」

足も声も震えている、

完全に死ぬ覚悟、

ノクスの動きが止まる。

完全ではない。

だが――踏み込まない。

ノワールが静かに歩き出す。

女の後を追う。

ノクスはしばらくケンジを睨み続ける。

そして――

ゆっくりと背を向ける。

ついていく。

ケンジはその後ろ姿を見る。

小さく呟く。

「……許された??」

答えはない。

ただ――

足を動かす。

森の奥へ。

黒髪の女の後を追って。

それが、運命を変える道だとも知らずに。

10話読んでいただきありがとうございます。

まだまだ長くなりますが、これからもよろしくお願い致します。

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