第11話 黒翼のもとへ
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朝になった。
森の中に、淡い光が差し込んでいる。
木々の隙間から、
ケンジは目を覚ました。
冷たい地面の感触。
体を起こす。
背中に痛みが走る。
「……っ!」
思わず顔をしかめる。
だが、動ける。
昨夜の傷。
確かに深かったはずだ。
それでも――
(……生きてる)
ゆっくりと息を吐く。
周りを見る。
見慣れない場所。
小さな空き地。
近くに、簡素な家があった。
石でできた、古い家。
だが、
手入れはされている。
壊れてはいない。
綺麗な感じ、
「起きたか」
声。
振り向く。
黒髪の女。
アルビス。
そこに立っていた。
変わらない、
静かな目。
感情の読めない顔。
ケンジは少しだけ目を細める。
「……ここは?」
短く問う。
アルビスは答える。
「月影の崖の上」
それだけ。
説明はない。
ケンジは苦笑する。
「説明少なすぎだろ……」
だが、それ以上は聞かない。
聞いても全部は答えない。
そんな気がした。
アルビスはケンジを一瞥する。
傷の様子を見ている。
「動けるな」
確認。
ケンジは肩をすくめる。
「一応……」
「助けていただきありがとうございます。」
アルビスは頷く。
それだけで興味を失ったように、視線を外す。
その時。
背後で気配。
殺気!
振り返る。
ノクス。
灰色の狼。
こちらを見ている。
牙は剥いていない。
だが――警戒は消えていない。
ジッと見ている。
ケンジも見返す。
無言のまま。
数秒。
張り詰めた空気。
その横に――
ノワールが現れる。
静かに。
ケンジとノクスの間に入るように。
争いを止める動き。
ケンジは息を吐く。
「……怖っ」
小さく呟く。
アルビスが答える。
「当然だ」
即答。
迷いなし。
ケンジは悩みながら
「どうすれば…」
視線を落とす。
自分の手を見る。
血の跡。
汚れ。
何も持っていない。
何もない。
その時。
アルビスが言う。
「ここに居る理由は1つだ」
ケンジが顔を上げる。
アルビスは続ける。
「生き延びたからだ」
淡々と。
それだけを言う。
ケンジは少しだけ目を見開く。
言葉の意味を考える。
「……はい…」
アルビスは頷く。
「それだけで十分だ」
短い沈黙。
ケンジは息を吐く。
少しだけ、笑う。
「厳しいな」
アルビスは何も言わない。
ただ見ている。
評価するように。
試すように。
その視線を、ケンジは受け止める。
逸らさない。
逃げない。
数秒後。
アルビスが視線を外す。
それが――1つの答えだった。
「中に入れ」
家の方を顎で示す。
命令に近い。
だが、拒絶ではない。
ケンジは少しだけ驚く。
「いいの?」
アルビスは振り返らない。
「外で死なれても困る」
昨日と同じ言葉。
だが――
少しだけ意味が違う。
ケンジは苦笑する。
「……ありがとう」
ゆっくりと歩き出す。
家の方へ。
背中に視線を感じる。
ノクスだ。
まだ見ている。
だが――襲ってはこない。
ノワールは静かにその横にいる。
ケンジは扉の前で一度だけ振り返る。
アルビスを見る。
黒髪が揺れる。
風に。
その姿を、しっかりと目に焼き付ける。
(……ここが)
小さく息を吐く。
(……始まりか)
扉に手をかける。
開ける。
中へ入る。
それが――
「使い捨て「ゴミ」の命」だった男が
初めて得た場所だった。
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