第12話 距離の一歩
11話まで読んでいただきありがとうございます。
鳥のさえずる声が聞こえる、
ケンジはゆっくりと目を開ける。
天井が見える。
石と古い木材
だが、崩れそうではない。
しっかりと組まれている。
体を起こす。
背中に鈍い痛み。
だが昨日よりは動く。
「……生きてるな」
小さく呟く。
部屋は簡素だった。
寝かされていたのは、布を重ねただけの簡易な寝床。
それでも――外よりは遥かにマシだ。
立ち上がる。
ふらつく。
だが倒れない。
一歩、踏み出す。
床が軋む音。
その音に、外の気配が動く。
扉を開ける。
光が差し込む。
眩しい。
思わず目を細める。
外には――
アルビスがいた。
家の前。
木に背を預けている。
目を閉じている。
休んでいるようにも見える。
だが、気を抜いてはいない。
そんな空気。
ケンジが出てきたのを感じて、目を開ける。
視線が合う。
数秒。
何も言わない。
先に口を開いたのはケンジだった。
「……世話になってる」
少しだけ、ぎこちない。
アルビスは短く答える。
「まだだ」
否定。
ケンジは眉をひそめる。
「まだ?」
アルビスは視線を逸らさない。
「役に立て」
それだけ。
ケンジは一瞬、黙る。
そして――
小さく笑う。
「頑張るよ」
理解した。
ここは“保護”じゃない。
“価値があるかを見る場所”
ケンジは頷く。
「やるだけやってみる!」
即答。
迷いはない。
アルビスはほんのわずかに目を細める。
その反応を見ている。
その時。
横から気配。
ノクス。
低く唸りながら近づいてくる。
距離は詰める。
だが飛びかからない。
試している。
ケンジは動かない。
逃げない。
視線を外さない。
数歩の距離。
ノクスが止まる。
鼻を鳴らす。
匂いを嗅ぐ。
異世界の匂い。
血の匂い。
人間の匂い。
不快そうに、少しだけ牙を見せる。
ケンジはそのまま言う。
「……嫌いか?」
ノクスは答えない。
だが、目が語る。
当然だ
ケンジは苦笑する。
「だよな」
その時。
ノワールが静かに間に入る。
また、同じ位置。
2者の間。
争いを止める位置。
ノクスがわずかに視線を動かす。
ノワールを見る。
そして――1歩だけ引く。
完全ではない。
だが、退く。
ケンジはその動きを見る。
「助かる」
小さく呟く。
ノワールは何も答えない。
ただ静かに立っている。
アルビスが口を開く。
「水を汲め」
唐突に。
ケンジは瞬きをする。
「……は?」
アルビスは顎で森の奥を示す。
「あそこに流れがある」
説明はそれだけ。
ケンジは一瞬ぽかんとする。
そして、笑う。
「判りました」
アルビスは無言。
否定もしない。
ケンジは肩を回す。
痛みが走る。
だが――動く。
「……分かったよ」
歩き出す。
森の奥へ。
背中に視線を感じる。
ノクス。
まだ見ている。
だが追ってはこない。
ノワールも動かない。
アルビスも。
ただ見ている。
ケンジは歩く。
ゆっくりと。
確かめるように。
足場。
空気。
音。
すべてが違う世界。
だが――
止まらない。
流れの音が聞こえる。
水。
近い。
ケンジは立ち止まる。
少しだけ空を見上げる。
木々の隙間から光が差す。
小さく息を吐く。
「……変なとこ来たな」
だが、その顔は
少しだけ――
昨日より軽かった。
再び歩き出す。
水の音の方へ。
それが、
「居場所」へ踏み出した
最初の一歩だった。
12話読んでいただきありがとうございます。
ちょっと戦いは無いですが、戦いはもう少しお待ち下さい。




