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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
黒翼に救われた者達

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第13話  生きるための動き

13話もよろしくお願い致します。

楽しんで貰えると嬉しいです。

水の音が近づく。

ケンジは木々の間を抜けた。

小さな流れ。

澄んだ水が静かに流れている。

しゃがみ込む。

手を伸ばす。

冷たい。

現実だと分かる温度。

少しだけ、そのまま水に触れていた。

(……ここで生きるのか)

呟きは、音にならない。

だが――

その時間は長くは続かなかった。

背後に気配。

反射的に振り向く。

ノクス。

少し離れた位置。

じっと見ている。

さっきと同じ距離。

それ以上、近付かない。

だが――

逃がさない距離。

確実に仕留められる距離、

ケンジはゆっくり立ち上がる。

視線を外さない。

「……見張りか?」

ノクスは答えない。

ただ、目だけが動く。

わずかな動きも見逃さないように。

ケンジは苦笑する。

「信用ゼロだな」

当然だ。

自分でもそう思う。

少しだけ考える。

ここでどうするか。

逃げるか?

無理だ。

この距離。

この森。

そして――あの狼。

(……無駄だな)

結論は早い。

ケンジはしゃがみ直す。

水をすくう。

飲む。

冷たい水が喉を通る。

生きている感覚。

「……うまいな」

小さく呟く。

ノクスは動かない。

ただ見ている。

ケンジは周囲を見る。

容器はない。

手で運ぶのは無理だ。

「……どうすんだこれ」

その時。

背後から足音。

振り向く。

アルビス。

いつの間にかそこにいた。

気配を感じなかった。

ケンジは眉を上げる。

「ビックリした!いつからそこに?」

アルビスは無視する。

手に何かを持っている。

小さな木の器。

それを放る。

ケンジに向かって。

反射で受け取る。

「……用意いいな」

アルビスは短く言う。

「考えろ」

それだけ。

ケンジは一瞬黙る。

そして笑う。

「……なるほどな」

渡すだけじゃない。

“自分で気付け”ってことか

ケンジは器を水に浸す。

汲む。

慎重に持ち上げる。

こぼさないように。

立ち上がる。

その瞬間。

足元が滑る。

「っ!」

バランスを崩す。

体が傾く。

水がこぼれる。

――その時。

影が動いた。

ノクス。

一瞬で間合いに入る。

牙。

喉元。

狙いは正確。

殺せる距離。

ケンジの目が見開く。

(終わっ――)

だが。

止まる。

牙は触れない。

ほんの数センチ手前で。

ノクスは動きを止めていた。

低く唸る。

威嚇。

警告。

ケンジは動かない。

動けない。

数秒。

静止。

ノクスはゆっくりと距離を取る。

一歩。

また一歩。

そして元の位置へ戻る。

何もなかったかのように。

だが――

目だけは変わらない。

ケンジは息を吐く。

「……マジかよ」

喉に手を当てる。

生きている。

間違いなく、今――

殺されてもおかしくなかった。

アルビスが言う。

「落とすな」

冷静に。

ケンジは苦笑する。

「いや今のはそっちの問題だろ……」

だが分かっている。

違う。

"全部“試されてる”

ケンジは器を見る。

ほとんど空だ。

「……もう一回か」

しゃがむ。

水を汲む。

今度は慎重に。

ゆっくりと立ち上がる。

一歩。

また一歩。

ノクスは見ている。

ずっと。

ケンジは歩く。

背中を見せながら。

それでも、止まらない。

戻る。

空き地へ。

器の水を地面に置く。

少しこぼれたが、残っている。

アルビスがそれを見る。

何も言わない。

だが――

わずかに頷く。

それだけ。

ケンジは息を吐く。

「……これ、毎日か?」

アルビスは答える。

「生きるならな」

短い。

だが十分だ。

ケンジは笑う。

「……厳しい世界だな」

アルビスは言う。

「普通だ」

その言葉に、嘘はない。

ケンジは空を見る。

木々の隙間。

変わらない光。

だが――

昨日とは違う。

「……分かったよ」

小さく言う。

誰にでもなく。

自分に。

「やるしかないか」

その足で、また水の方へ向かう。

それは修行じゃない。

鍛錬でもない。

ただ生きるための行動

だが――

それが、結果として

“強くなる道”生きる術だった。

13話も読んでいただきありがとうございます。

王道展開だとは思いますが、お付き合いください。

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