14話 削られる体
14話になります、読んで貰えたら光栄です。
日が落ちかけていた。
空き地に戻る頃には、ケンジの腕は上がらなくなっていた。
水の入った器を置く。
何度目かも分からない。
肩で息をする。
「……はぁ……はぁ…っ」
足が震える。
その場に座り込みそうになる。
だが――
倒れない。
倒れれば、そのまま終わる気がした。
アルビスがそれを見る。
表情は変わらない。
「遅い」
一言。
ケンジは苦笑する余裕もない。
「……無茶言うな……」
息を整えようとする。
だが整わない。
肺が焼けるようだ。
その時。
「立て」
即座に命令。
ケンジは顔を上げる。
「……は?」
アルビスは繰り返す。
「立て」
短く。
拒否は許さない声。
ケンジは歯を食いしばる。
膝に力を入れる。
震える。
それでも――立つ。
アルビスが顎で地面を示す。
そこには、細い枝が数本落ちていた。
「拾え」
ケンジはそれを見て、
しゃがむ。
拾う。
軽い。
武器にもならないような枝。
アルビスが言う。
「振れ」
ケンジは眉をひそめる。
「……は?」
アルビスは1歩も動かない。
ただ見ている。
「考えろ」
またそれだ。
ケンジは小さく息を吐く。
枝を見る。
握る。
軽すぎる。
だが――
振る。
ブン、と空を切る音。
遅い。
自分でも分かる。
もう1度振る。
腕が重い。
3度目。
力が抜ける。
その瞬間――
横から風。
ノクス。
一瞬で間合いに入る。
牙が走る。
ケンジは反射で体を捻る。
避ける。
だが――
遅い。
腕をかすめる。
浅い傷。
血が滲む。
「っ……!」
ケンジは距離を取る。
息が荒い。
ノクスは止まる。
また同じ距離。
目は冷たい。
アルビスが言う。
「遅い」
さっきと同じ言葉。
だが意味が違う。
ケンジは理解する。
「……そういうことかよ」
水汲み。
立つこと。
そして今。
全部繋がっている
息が乱れていれば避けられない。
腕が上がらなければ振れない。
判断が遅ければ――死ぬ。
ケンジは構える。
枝を握る。
足を開く。
「……来いよ」
小さく言う。
ノクスの耳が動く。
次の瞬間。
消える。
速い。
ケンジは目で追う。
無理だ。
見えない。
だが――
来る方向を読む。
体を動かす。
ギリギリで避ける。
風が頬を裂く。
「……っ!」
止まらない。
もう1度来る。
今度は逆。
反応が遅れる。
肩に衝撃。
吹き飛ばされる。
地面に転がる。
息が詰まる。
「がっ……!」
立てない。
体が動かない。
ノクスが近づく。
ゆっくりと。
完全に仕留める距離。
牙が見える。
殺意。
ケンジは歯を食いしばる。
(……まだだ)
手をつく。
無理やり体を起こす。
ふらつく。
それでも、立つ。
ノクスの目がわずかに細くなる。
評価ではない。
ただの観察。
ケンジは枝を構える。
震えている。
それでも――構える。
アルビスが初めて口を開く。
「止め」
一言。
ノクスの動きが止まる。
完全ではない。
アルビスを睨むように見る!
低く唸る!
だが、踏み込まない。
ケンジはその場に崩れる。
膝をつく。
呼吸が壊れている。
体が限界を超えている。
アルビスが近づく。
見下ろす。
「3日だ」
ケンジは顔を上げる。
「……何がだ」
アルビスは答える。
「3日で動け」
短い。
だが意味は重い。
ケンジは目を細める。
「……無理だろ」
アルビスは即答する。
「なら死ね」
静かに。
事実だけを言う。
沈黙。
ケンジは息を吐く。
笑う。
かすかに。
「……分かりやすいな」
顔を上げる。
アルビスを見る。
「やるしかねぇか」
アルビスは何も言わない。
ただ見ている。
その目は――
ほんのわずかにだけ、
最初よりも評価が変わっていた。
14話読んでいただきありがとうございます。
お付き合いよろしくお願い致します。




