第15話 削られながらも進み得るもの
修行パートで退屈かもしれませんが、もう少しお付き合いください。
朝だった。
ケンジはすでに立っていた。
まだ日も高くない。
だが――体は重い。
全身が痛い。
腕も、足も、背中も。
昨日の傷も残っている。
それでも、立っている。
「……やるか」
小さく呟く。
その瞬間。
風が動く。
ノクス。
初動が昨日より速い。
考える暇はない。
来る!
ケンジは体を動かす。
横へ。
ギリギリで避ける。
風が頬をかすめる。
「……っ!」
止まらない。
すぐ2撃目。
逆方向。
昨日なら食らっていた。
だが――
体が先に動く。
避ける。
完全じゃない。
肩をかすめる。
それでも――
倒れない。
踏みとどまる。
ノクスが止まる。
一瞬だけ。
距離を取る。
ケンジは息を吐く。
「……少しは動けてる?」
ノクスは答えない。
だが、目がわずかに変わる。
警戒はそのまま。
だが――
完全な“的”ではなくなった。
次の瞬間。
また来る。
速い。
昨日より速い。
試している。
ケンジは歯を食いしばる。
見る。
読む。
動く。
1歩、遅れる。
衝撃。
腹に入る。
吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
息が詰まる。
だが、すぐに起き上がる。
倒れてる暇はない。
ノクスはもう次の動きに入っている。
ケンジは転がる。
回避。
土が舞う。
立ち上がる。
枝を構える。
震えている。
それでも、構える。
「……まだだ」
小さく言う。
ノクスが止まる。
その言葉を聞いたわけじゃない。
ただ、動きを見ている。
ケンジは踏み込む。
初めて、自分から。
振る。
遅い。
分かっている。
だが――
振る。
ノクスは避ける。
当然だ。
当たるはずがない。
だが、その瞬間。
距離が、少しだけ変わる。
ケンジの間合いに、一瞬だけ入る。
その一瞬を――
逃さない。
もう1度振る。
今度は速い。
ほんの少しだけ。
ノクスが首を振る。
かすめる。
毛が揺れる。
当たってはいない。
だが――
届いた。
ノクスの動きが止まる。
ほんの一瞬。
ケンジも止まる。
互いに動かない。
数秒。
そして。
ノクスは後ろに下がる。
距離を取る。
また、同じ位置へ。
だが――
さっきとは違う。
明確に。
警戒が1段上がった。
ケンジは息を吐く。
膝が笑う。
限界が近い。
その時。
アルビスの声。
「そこまでだ」
ノクスが動きを止める。
低く唸りながら、
ゆっくり下がる、
ケンジはその場に崩れる。
手をつく。
息が荒い。
「はぁ……はぁ…っ……」
アルビスが近づく。
見下ろす。
「2日目でそれなら、悪くない」
ケンジは顔を上げる。
「……褒めてんのか?」
アルビスは少しだけ間を置く。
「事実だ」
それだけ。
ケンジは苦笑する。
「ありがとう」
アルビスは無視する。
視線をノクスに向ける。
ノクスは何も言わない。
ただ立っている。
だが――
その目はケンジから外さない。
アルビスが言う。
「明日で終わりだ」
ケンジは目を細める。
「……3日目か」
アルビスは頷く。
「動けなければ終わり」
昨日と同じ言葉。
だが今は違う。
ケンジは笑う。
少しだけ。
「……やれる気がしてきた」
本音だった。
アルビスはそれを聞いて、
ほんのわずかにだけ目を細める。
否定はしない。
ノクスは静かに背を向ける。
だが――
一瞬だけ。
振り返る。
ケンジを見る。
その目はまだ冷たい。
低く唸る、
昨日よりほんのわずかだけ、
“殺す対象”から外れ始めているのかもしれない
15話読んでいただきありがとうございます。
これかもよろしくお願い致します。




