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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
黒翼に救われた者達

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第16話  限界の先の景色

読んでいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願い致します。

朝。

空気が張り詰めていた。

ケンジはすでに立っている。

呼吸は整っている。

昨日よりも。

だが――

体はボロボロだ。

傷は塞がりきっていない。

筋肉は悲鳴を上げている。

それでも。

立っている。

「……3日目だな」

小さく呟く。

その瞬間。

来る。

ノクス。

初動が違う。

昨日までとは、明確に。

速い。

重い。

鋭い。

ケンジは動く。

考える前に。

体が先に反応する。

避ける。

ギリギリ。

風が頬を裂く。

血が滲む。

だが止まらない。

次。

もう一撃。

下から。

読めた。

跳ぶ。

避ける。

着地。

崩れない。

踏みとどまる。

(……いける)

確信に近い感覚。

だが――

甘くない。

ノクスは止まらない。

連続。

左右。

上下。

角度を変える。

速度を上げる。

試しているのではない。

削りに来ている

ケンジは動く。

避ける。

間に合わない。

肩に入る。

衝撃。

だが倒れない。

足で踏ん張る。

体を回す。

距離をずらす。

次が来る。

見えない。

だが――

感じる。

気配。

音。

空気の流れ。

それで読む。

動く。

避ける。

完全じゃない。

それでも――

致命にはならない。

数分。

いや、もっとか。

時間の感覚が消える。

ただ、動き続ける。

息が荒くなる。

視界が揺れる。

足が重い。

それでも――止まらない。

ノクスが踏み込む。

今までで一番速い。

一番深い。

殺しに来ている。

ケンジは前に出る。

逃げない。

踏み込む。

すれ違う。

牙が頬を裂く。

だが――

当たらない。

そのまま、振る。

枝。

遅い。

だが――

当てにいく。

ノクスが避ける。

だが完全じゃない。

肩に触れる。

軽い。

それでも――

当たった。

一瞬の静止。

ノクスの動きが止まる。

ケンジも止まる。

互いに動かない。

空気が張り詰める。

そして。

ノクスは一歩引く。

ゆっくりと。

距離を取る。

同じ位置へ戻る。

だが――

もう違う。

完全に。

“無視できる存在”ではなくなった

ケンジはその場で膝をつく。

限界だ。

息が壊れている。

視界が白くなる。

倒れそうになる。

だが、手をついて耐える。

「……はぁ……っ……」

アルビスが近づく。

静かに。

その目で、ケンジを見る。

評価するように。

数秒。

そして――

「動けるな」

それだけ。

ケンジは笑う。

力なく。

「……ギリギリな」

アルビスは頷く。

「それでいい」

短い。

だが――

初めての“肯定”に近い言葉。

ケンジは目を細める。

「……合格か?」

アルビスは少しだけ間を置く。

そして言う。

「死なない程度にはな」

ケンジは苦笑する。

「厳しいな最後まで……」

アルビスは答えない。

視線を森に向ける。

風が変わる。

空気がわずかに重くなる。

ノワールも顔を上げる。

ノクスの耳が動く。

低く唸る。

ケンジもそれを感じる。

「……なんだ?」

アルビスが呟く。

「来るな」

短く。

だが確信している声。

ケンジは顔を上げる。

森の奥を見る。

何も見えない。

だが――

嫌な感覚。

肌が粟立つ。

アルビスが言う。

「準備しろ」

ケンジは立ち上がる。

足は震えている。

それでも立つ。

枝を握る。

武器にならないそれでも。

ノクスが前に出る。

ノワールも並ぶ。

2匹が揃う。

戦う形。

ケンジはそれを見る。

そして理解する。

終わりじゃない

ここからだ

森の奥で、

何かが動いた。

16話読んでいただきありがとうございます。

次回から少し戦いが戻って来ます、よろしくお願い致します。

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