第17話 森に踏み入る者
いつも読んでいただきありがとうございます。
薄暗い部屋。
重たい空気が漂っている。
机の上には、乱雑に置かれた金袋。
その前に座る男。
カイロス。
指で机を叩く。
苛立ちが隠れていない。
「……遅ぇな」
低い声。
部屋の隅に立つ男が一歩前に出る。
バド。
顔には不機嫌が浮かんでいる。
「ガルドが戻らねぇ」
カイロスが言う。
短く。
だが重い。
「森に入ったままか?」
バドが答える。
「ああ……はい」
沈黙。
カイロスはゆっくりと視線を上げる。
その目は冷たい。
「迎えに行け」
命令。
一切の迷いもない。
バドは舌打ちする。
「……面倒くせぇな」
だが、逆らわない。
逆らえない。
カイロスの背後。
影のように立つ存在。
全身を覆う、重厚な鎧。
フルプレート。
顔は見えない。
商人。
だが――普通じゃない。
一言も喋らない。
ただ、そこにいるだけで空気が重い。
(……あいつが来てからだ)
バドは内心で吐き捨てる。
(話がデカくなりすぎてやがる)
ガルドが消えた程度で動く話じゃない。
だが――
あの鎧の男が来てから、
全てが変わった。
「何かある……」
カイロスが低く言う。
「森だ」
それだけで十分だった。
バドは鼻で笑う。
「ただの獣だろ」
カイロスは否定しない。
肯定もしない。
ただ言う。
「確かめて来い」
バドは肩を回す。
「分かったよ」
「何人か借ります」
カイロスは冷たくいい放つ、
「好きにしろ」
扉に向かう。
その時。
背後から、重い視線を感じる。
振り返らない。
振り返りたくない。
(……あの鎧、気味が悪い)
そう思いながら、部屋を出た。
森の前。
バドと数人が立っていた。
木々が並ぶ。
暗い。
奥が見えない。
「……チッ」
舌打ちする。
気に入らない。
森は嫌いだ。
視界が悪い。
気配が読みにくい。
何より――
「静かすぎる」
呟く。
普通の森じゃない。
本能が告げている。
だが――
引く理由にはならない。
「ガルドの野郎……」
剣を肩に担ぐ。
「死んでても笑えねぇぞ」
「行くぞ!」
そう言って、
1歩踏み込む。
森の中へ。
空気が変わる。
冷たい。
重い。
だが、進む。
躊躇はない。
それが、仕事だからだ。
その頃。
月影の崖。
風が止まっていた。
アルビスは立っている。
森の奥を見ている。
ノワールは静かにその横にいる。
ノクスは低く唸っている。
ケンジも感じていた。
嫌な気配。
近づいてくる。
人間……。
しかも――
1人じゃない気配。
「……来る」
アルビスが言う。
短く。
確信を持って。
ケンジは枝を握る。
まだ頼りない武器。
だが――
もう逃げない。
ノクスが前に出る。
牙を剥く。
完全な戦闘態勢。
ノワールも並ぶ。
静かに。
だが確実に。
アルビスは1歩前へ出る。
黒髪が揺れる。
風が戻る。
そして――
森の奥。
木々の影が揺れる。
誰かが、来る。
足音。
重く、確実な音。
止まらない。
まっすぐに。
この場所へ向かってくる。
ケンジは息を整える。
体は限界に近い。
それでも――
立つ。
アルビスの後ろで。
双狼の横で。
その目は、もう逃げていなかった。
森が、牙を剥く……
17話読んでいただきありがとうございます。
次から少し戦闘始まります。




