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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
牙に拾われた命

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第8話   逃げる理由

ガルドが笑ながら、

「ゴミ掃除は明日だ!」

「時間がないな!」

「明日だからな」

冷たく笑った、

明日になるまでに、

何とかしなければならない、

罠としか思えないが、

夜のうちに逃げるしかない、

一一夜一一

作業場は静まり返っている。

焚き火の火が、ゆらゆらと揺れていた。

奴隷たちは倒れ込むように眠っている。

誰も動かない。

動けない。

異世界人は目を開けていた。

眠っていない。

眠れるはずがなかった。

(……逃げる)

決めた言葉が、胸の奥で静かに燃えている。

ゆっくりと体を起こす。

音を殺す。

呼吸を抑える。

見張りは二人。

焚き火のそばで酒を飲んでいる。

笑っている。

油断しきっている。

(……今しかない)

立ち上がる。

一歩。

また一歩。

地面を踏む。

音は小さい。

だが、心臓がうるさい。

進む。

影の外へ。

あと少しで――

「……おい!」

声。

止まる。

背筋が凍る。

ゆっくり振り返る。

ガルドが立っていた。

暗闇の中でも分かる。

口元が歪んでいる。

「ゲームスタートか?」

剣を肩に担いだまま、近づいてくる。

逃げる。

そう思った瞬間には、体は動いていた。

異世界人は走る。

全力で。

だが――

遅い。

「遅ぇよ!」

すぐ後ろ。

気配が迫る。

振り返る暇もない。

その瞬間――

斬られた!

背中に衝撃。

次の瞬間、

焼けるような痛みが走る。

息が止まる。

足がもつれる。

地面に叩きつけられる。

「がっ……!」

声にならない声が漏れる。

熱い!

背中が熱い!

遅れて、血が流れる感覚が広がる。

ガルドの足音が近づく。

ゆっくりと。

楽しむように。

「終わりなのか?」

見下ろされる。

「もっと逃げて楽しませろよ」

「やっぱり男はつまらねぇな!」

異世界人は動けない。

指先すら震える。

呼吸が荒い。

視界が滲む。

(……終わりだ………)

頭の中で声がする。

諦めの声…

その時――

昼間の光景が浮かぶ。

倒れた奴隷。

無言で振り下ろされた剣。

吹き出した血、

動かなくなった体。

(……ああなる)

理解する。

はっきりと。

(このままじゃ、同じだ)

ガルドが剣を構える。

「ゴミは真っ二つだ」

楽しそうな声。

異世界人の拳が震える。

力はない。

立てる気がしない。

それでも。

歯を食いしばる。

地面に手をつく。

血で滑る。

それでも。

体を、持ち上げる。

「まだ遊べるのか?」

ガルドが眉をひそめる。

異世界人は立つ。

ふらつきながら。

今にも倒れそうな体で。

それでも、立つ。

顔を上げる。

ガルドを見る。

息は荒い。

視界は揺れている。

だが――目だけは死んでいない。

小さく、吐き出す。

「……来いよ」

一瞬。

ガルドの動きが止まる。

すぐに、笑う。

「いいねぇ」

「まだ遊ぼうぜ」

剣を構え直す。

異世界人は、その瞬間に動いた。

立ち上がるときに、

血の付いた付いた土を握っていた、

それをガルドの顔目掛けて投げた、

その後すぐ走る。

背中が裂けるように痛む。

血が流れる。

足が言うことを聞かない。

それでも。

走る。

「いいね!いいね!」

「ははっ! 走れ!走れ!」

後ろで笑い声。

足音が追ってくる。

だが止まらない。

止まれば死ぬ。

走る。

走る。

走る。

森が見える。

黒い影。

逃げ場。

飛び込む。

空気が変わる。

冷たい。

静か。

だが、後ろは違う。

ガルドは追ってくる。

距離は縮まる。

息が限界。

視界が揺れる。

足が崩れる。

それでも前へ。

(……まだ)

(まだだ)

一歩。

また一歩。

その一歩に、全てを込める。

血が地面に落ちる。

それでも進む。

生きるために。

逃げるために。

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