第5話 月影の崖
4話まで読んで頂きありがとうございます。
5話も楽しんでもらえると嬉しいです。
森の奥を、アルビスは歩いていた。
腕の中には、黒い狼――ノワール。
その後ろを、灰色の狼――ノクスが静かに歩く。
夜の森は静かだった。
月が高く、木々の隙間から光が落ちている。
しばらく歩くと、森が途切れた。
その先にあるのは――崖。
月の光を受けて、岩肌が白く浮かび上がる。
アルビスは迷いなく崖を登る。
少し離れてノクスが続く、
一切警戒は解いてない、
急な斜面。
だが足取りは軽い。
やがて崖の上に出る。
少し遅れてノクスも崖の上に出る、
そこには、小さな石の家が建っていた。
古く、質素な家。
だが長い時間、この場所を守ってきた家だった。
アルビスは扉を開ける。
家の中に入り、ノワールを静かに寝かせた。
暖炉のそばだった。
アルビスは棚から布と薬草を取り出す。
ノクスが唸り声をあげる!
アルビスがノクスを見る、
それは冷たい視線ではない、
けして温かい眼差しではないが、
真っ直ぐノクスの目を見つめる、
ノクスは唸るのを止めた、
何か感じ取ったのだと思う、
アルビスはノワールの傷を確かめた。
深い傷がいくつもある。
だが、まだ命はある。
アルビスは静かに手当てを始めた。
外では、ノクスが家を睨んでいた。
中には入らない。
灰色の狼は座り、耳を立てている。
警戒は解いていない。
アルビスは何も言わない。
ただ淡々と手当てを続ける。
しばらくして、ノワールの呼吸が少し落ち着いた。
アルビスは立ち上がる。
部屋の奥へ歩く。
そこには、古い装備が並んでいた。
古いがちゃんと整備されている、
黒いフード付きのコート。
槍。
剣。
そして――2本の短剣。
すべてに同じ紋章が刻まれている。
三日月と翼。
守護者の紋章。
アルビスは短剣を見た。
一瞬優しい表情になった気がしたが、
すぐに前までの表情に戻った、
手に取ることなく、
静かに視線を外す。
そして再び暖炉のそばへ戻る。
ノワールは眠っていた。
外ではノクスが月を見ている。
アルビスは扉を開け、外へ出た。
赤い瞳が、灰色の狼を見る。
ノクスはすぐに牙を剥いた。
低い唸り声。
アルビスは動じない。
ただ一言だけ言う。
「好きにしろ。」
それだけ言うと、アルビスは家の中へ戻った。
扉が静かに閉まる。
崖の上に、風が吹いた。
灰色の狼はしばらく動かなかった。
だがやがて。
ノクスはゆっくりと家の前に伏せた。
月が静かに三人を照らしていた。
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