第43話 届かぬ領域
いつも読んでいただきありがとうございます。
踏み込んだ瞬間。
地面が沈む。
違和感。
重い。
体が、いつも通りに動かない。
アルビスが歯を食いしばる。
それでも、前へ。
踏み込む。
同時に。
ノワールが走る。
ノクスが影のように回る。
3方向。
完璧な連携。
今までなら――届く形。
だが。
魔族は動かない。
ただ、そこに立つ。
それだけで。
空気が歪む。
アルビスの刃が届く。
確かに。
だが――
“浅い”
弾かれる。
軽く。
まるで、意味がないかのように。
ノワールの牙。
横から食い込む。
だが――
止まる。
皮膚を裂けない。
ノクスの一撃。
死角。
確実に入ったはず。
だが。
避けられる。
最小限の動きで。
「……遅い」
魔族の声。
感情はない。
ただの評価。
次の瞬間。
消える。
「……ッ!?」
アルビスの視界から消える。
気配が飛ぶ。
背後。
振り向く。
間に合わない。
衝撃。
体が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
肺の空気が抜ける。
「……ぐっ……!」
ノワールが吠える。
突っ込む。
だが――
空を切る。
横。
魔族はすでに別の位置。
ノクスが反応する。
だが、遅れる。
一瞬。
その一瞬で。
蹴り。
ノクスの体が弾かれる。
木に叩きつけられる。
鈍い音。
静かに、着地する魔族。
何事もなかったように。
「……その程度か」
アルビスが立ち上がる。
足が震える。
それでも。
前を見る。
(……違う)
(今までの敵とは、完全に違う)
尋常な強さじゃない。
“領域”が違う。
ノワールが戻る。
息が荒い。
だが、目は折れていない。
ノクスも立ち上がる。
ゆっくりと。
だが、確実に。
再び。
3つの影が並ぶ。
「……まだ来るか」
魔族が言う。
わずかに興味。
アルビスが構える。
呼吸を整える。
無理やりでも。
揃える。
「……やるに決まってる」
踏み込む。
今度は、迷いなく。
ノワールが低く走る。
ノクスが影を走る。
再び連携。
今度こそ。
噛み合う――
はずだった。
魔族が動く。
ほんの僅か。
それだけで。
全てがズレる。
アルビスの刃が空を切る。
ノワールの牙が外れる。
ノクスの影が届かない。
「……浅い」
1歩。
踏み込まれる。
近い。
近すぎる。
アルビスの視界いっぱいに、白。
拳。
避けられない。
衝撃。
体が浮く。
意識が揺れる。
地面に叩きつけられる。
音が遠くなる。
ノワールの声。
遠い。
ノクスの気配。
遠い。
(……届かない)
初めて。
その言葉が、浮かぶ。
魔族が、見下ろす。
変わらない表情で。
「……守る側は、いつもそうだ」
淡々と。
ただ事実を告げるように。
「届かないものに、手を伸ばす」
アルビスが、地面に手をつく。
震える腕。
それでも――
立ち上がる。
血が落ちる。
止まらない。
それでも。
前を見る。
「……それでも」
声は小さい。
折れていない。
「届かせる!」
ノワールが並ぶ。
ノクスも並ぶ。
3つの影。
だが――
明らかに、押されている。
それでも。退かない!
風が吹く。
血の匂いが広がる。
まだ……
終わっていない。終わらせない!
43話も読んでいただきありがとうございます。
もう少しで終了になります。




