第42話 白の名を持つもの
いつも読んでいただきありがとうございます。
風が、止んでいる。
森は静かだった。
あまりにも――静かすぎる。
カイロスの亡骸が、横たわっている。
そのすぐ近く。
アルビスは立っていた。
剣を下ろしたまま。
呼吸はまだ荒い。
だが――目は死んでいない。
ノワールはケンジの傍にいる。
動かない…離れない…
鼻先で触れる。
確かめるように。
ノクスは、別の方向を見ていた。
森の奥。
何もないはずの場所。
だが――
確かに“何か”が来る。
「……来る」
アルビスが小さく言う。
その瞬間。
空気が落ちる。
重い…息が詰まる…
立っているだけで、押し潰されそうになる。
足音。ゆっくりと。
1歩ずつ。
姿が現れる。
白。髪も。肌も。衣も。
すべてが白。
だが、その中で。
瞳だけが異様に浮いている。
人の形はしてる、だが…
違う。
そいつは、カイロスの亡骸の前で止まる。
見下ろす。
興味は――薄い。
「……遅かったか」
静かな声。
だが、重い。
アルビスが前に出る。
ケンジを背に。
視線を逸らさない。
「……誰だ」
短く問う。
白い存在は、ゆっくりと顔を上げる。
アルビスを見る。
次に。
ノクス。ノワール。
そして――
ケンジ。
わずかに、目が細くなる。
「……なるほど」
小さく呟く。
初めて。“興味”が乗る。
「それを繋いだのは……それか」
ケンジを見たまま言う。
ノワールが唸る。
今度は迷いがない。
だが、足が震えている。
本能が拒否している。
ノクスも同じ。
動かない。
だが、視線は逸らさない。
アルビスが1歩出る。
間に入るように。
「……答えろ」
低く。強く。
白い存在が、わずかに首を傾ける。
そして。
静かに口を開く。
「名か?」
1拍。間を置く。
まるで――どうでもいいことのように。
「……私は“魔族”と呼ばれた」
空気が、沈む。
言葉そのものが、重い。
「その中でも」
1歩、踏み出す。
地面が沈む。
「白に連なる者」
「侵す側の理だ」
アルビスの目が細くなる。
理解する。
これは――
今までとは違う存在。
「……侵す?」
問い返す。
魔族がわずかに笑う。
感情は薄い。
だが、確かに“上から”だ。
「そうだ」
「守る、などという行為は弱者のものだ」
「奪う側が、常に正しい」
ノワールの唸りが強くなる。
地面を爪でえぐる。
ノクスの尾が、わずかに揺れる。
低く。深く。
アルビスは動かない。
ただ、見ている。
「……なら」
小さく。
だが、確かに響く声。
「ここでお前は、止まる!」
魔族の目が細くなる。
わずかに。
ほんのわずかに。
興味が深まる。
「止まる?」
「それは――」
1歩、踏み出す。
圧が増す。
「お前が止めるのか?」
アルビスが構える。
迷いはない。
その時。
ノワールが動く。
ケンジを1度だけ見る。
そして――離れる。
ノクスも前に出る。
静かに。
だが確実に。
3つの影が並ぶ。
魔族がそれを見る。
そして。初めて。
はっきりと笑う。
「……面白い」
空気が震える。
圧がさらに増す。
「ならば見せてみろ」
「守る側が、どこまで抗えるか」
アルビスが1歩踏み出す。
ノクスが低く唸る。
ノワールが地を蹴る準備をする。
風が止まる。
次の瞬間…
世界が動く…
42話も読んでいただきありがとうございます。
ラスト前です、後少しお付き合いください。




