第40話 黒翼の兆し
いつも読んでいただきありがとうございます。
風が、止まる。
一瞬。
森が息を呑む。
アルビスの呼吸が、変わる。
浅かったものが。
ゆっくりと、深くなる。
揺れていたものが。
静まる。
目が、変わる。
迷いが消える。
カイロスが、それを見る。
わずかに目を細める。
「……来るか」
次の瞬間。
地面が爆はぜる。
速い。
さっきまでとは、違う。
1歩が、深い。
一撃が、重い。
アルビスの刃が走る。
直線。
迷いのない軌道。
急所。
確実に、殺すための動き。
カイロスが受ける。
だが――
押される。
「……っ」
初めて。
わずかに、足が滑る。
アルビスは止まらない。
2撃、3撃。連続。
角度を変え。
間を潰し。
逃げ道を削る。
カイロスが流す。
だが。
完全には捌ききれない。
袖が裂ける。
血が滲む。
「……なるほど」
低く呟く。
声に、わずかな熱。
アルビスの動きはさらに速くなる。
踏み込み。
間合いを詰める。
距離を潰す。
逃がさない。
一閃。
カイロスの頬が裂ける。
血が走る。
だが。次の瞬間。
カイロスの剣が滑る。
アルビスのわずかな隙。
それを逃さない。
突き。一直線。
急所へ。
アルビスが捻る。
ギリギリで外す。
脇腹が裂ける。
血が飛ぶ。
それでも――止まらない。
踏み込む。
さらに踏み込む。
「……いいな」
カイロスが言う。
息は乱れていない。
だが、確実に“押されている”
アルビスの刃が走る。
今度は低く。足を狙う。
カイロスが跳ぶ。
その着地に。
すでに次の一撃。
読ませない。
止まらない。
流れを渡さない。
ノワールがそれを見る。
揺れていた瞳が。
少しだけ、戻る。
だが――動かない。
まだ、踏み出せない。
ノクスも見ている。
静かに。だが。
反応は遅い。
完全ではない。
それでも。
2頭とも理解している。
今は――アルビスの戦いだと。
アルビスがさらに踏み込む。
刃が交差する。
火花が散る。
衝撃が響く。
カイロスの足が、下がる。
1歩。2歩。
確実に、押している。
だが。
倒れない。
崩れない。
致命は、入らない。
すべて。
紙一重で避ける。
流す。逸らす。
「……惜しい」
カイロスが言う。
わずかに笑う。
「届いている」
「だが――浅い」
アルビスの目が細くなる。
理解している。
このままでは――終わらない。
一瞬。
動きが止まる。
ほんのわずか。呼吸。
距離詰める
カイロスが踏み込む。
今度は、攻める。
一閃。
重い。速い。
アルビスが受ける。
弾く。
だが――
押される。
地面がえぐれる。
そのまま。
連撃。
一気に畳みかける。
殺しに来る動き。
アルビスが後退する。
だが。
視線は逸らさない。
(……ここだ)
覚悟が、決まる。
踏み込む。
正面。一直線。
迷いなく。
カイロスの目が、わずかに見開く。
だが。
すぐに理解する。
迎え撃つ。
「……いい判断だ」
剣を振り上げる。
確実に仕留める軌道。
勝てると――判断する。
その瞬間。
アルビスの背。
わずかに――揺らぐ。
黒。
影のような…
黒い……
一瞬だけ。
“滲むような”
軌道が、変わる。
ほんの僅か。
だが、致命的に軌道が変わる、
カイロスの剣が、空を切る。
「……ッ!?」
初めての、明確な驚き。
アルビスの体が、内側へ滑り込む。
間合いの内側。
ゼロ距離。
刃が走る。
首元へ。一直線。
だが。
カイロスも、反応する。
完全には間に合わない。
それでも。
体を捻る。
斬撃が走る。
血が飛ぶ。
深い。
だが――
落ちない。
致命には、至らない。
2人が、すれ違う。
背中合わせに。
距離が開く。
静寂。
血が、地面に落ちる音だけ。
カイロスが、ゆっくりと首元に触れる。
血が流れている。
確実に、深い一撃。
「……今のは……」
小さく呟く。
そして。
口元が歪む。
「……それか」
振り返る。
アルビスを見る。
その目に――初めて。
明確な興味と警戒。
アルビスは、振り返らない。
ただ。
構え直す。
静かに。
風が、吹く。
黒い何かが。
一瞬だけ。
また、揺れる。
まだ、完全ではない。
だが――確実に。
何かが目覚めている。
40話読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願い致します。




