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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
侵す者、守る黒牙

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第38   届いた遠吠え

いつも読んでいただきありがとうございます。

風が、揺れている。

森の外れ。

簡素な野営地。

 

焚き火の火が、静かに揺らめく。

バルカスは座っていた。

肩と腹の傷はまだ深い。

布は赤く滲んでいる。

それでも、動こうとはしない。

ただ前を見ている。

何かを待つように。

「団長……遅ぇな」

低く呟く。

誰に言ったわけでもない。

返事もない。


少し離れた木のそば。

セレナが立っている。

腕を組み、目を閉じている。

表情は変わらない。

だが――

わずかに、呼吸が浅い。

「……ヴァルク様は」

小さく。

それだけを落とす。


バルカスが顔を上げる。

一瞬だけ、視線を向ける。

そして――

逸らす。

「……団長が遅れるなんざ、ねぇよ」

そう言いながら。

 

声には、確信がない。

沈黙。

焚き火の音だけが、残る。

その時。

風が、変わる。

森の奥から。

 

届く。

遠吠え。

長く。

深く。

 

森全体を震わせるような声。

セレナの目が開く。

 

バルカスの手が、わずかに止まる。

「……これは……」

 

バルカスの声が、揺れる。

セレナは答えない。

ただ。

森の奥を見つめる。

そして――

ほんのわずかに。

唇が動く。


「……終わったのね」

風が、火を揺らす。

火の粉が舞う。

 

まるで、何かを弔うように。


――森の中。

別の場所。

静寂。

 

まだ戦いは終わっていない場所。

アルビスは立っていた。

動かない。

視線の先。


カイロス。

距離はある。

だが、互いに目を逸らさない。

1歩踏み出せば――始まる。

そんな緊張。

誰も動かない。

 

風すら、止まったような感覚。

その均衡を。

壊したのは――

 

周囲だった。

残っていた兵の1人が、叫ぶ。

恐怖を振り払うように。

剣を振り上げる。

近くの狼へ突っ込む。

それが引き金だった。


低い唸り。

影が走る。

精鋭たちが動く。

一瞬の小競り合い。

短い衝突。

だが――確実に、静寂は崩れる。

カイロスが、小さく息を吐く。

 

「……興が削がれるな」

1歩。前に出る。

ゆっくりと。

焦りはない。

ただ歩く。

アルビスの目が、わずかに細くなる。

同時に。

 

“感じる”

何かが、終わった。

さっきまであった気配が。

 

消えている。

そして――

 

遠吠えの残響。

理解する。

 

言葉はいらない。

1歩。踏み出す。

カイロスとは違う方向へ。

迷いなく。


カイロスがその動きを見る。

だが、止めない。

ただ、興味を向ける。

 

「……そちらか」

アルビスは答えない。

ただ、進む。

静かに。

だが、確実に。

森の奥。

 

血の匂いが、強くなる。

踏みしめる土が、柔らかい。

戦いの跡。

やがて。

その場所に辿り着く。

そこに――

 

ケンジがいる。

横たわっている。

 

動かない……もう……


ノワールが、側にいる。

離れない。

守るように。

伏せている。

ノクスは、少し離れた場所に立っている。

静かに。

動かずに。

アルビスの足が、止まる。

何も言わない。

 

言えない。

ただ。

1歩だけ。

近付く。

風が吹く。

髪が揺れる。

その目に映るのは。

 

変わらない現実。

その時。

背後から足音。


カイロス。

ゆっくりと。

同じ場所へ辿り着く。

血の匂いの中を。

何も感じないように。

「……なるほど」

 

ケンジを見る。

ただの結果として。

ノワールが顔を上げる。

低く唸る。

牙を見せる。

だが――離れない。

ノクスの視線が動く。

 

カイロスへ。

 

静かな敵意。

アルビスが前に出る。

ケンジを背に。立つ。


「……それ以上、近付くな」

低く。静かに。


カイロスが止まる。

わずかに、笑う。

「……いい顔だ」

風が吹く。

 

森が揺れる。

3つの影が並ぶ。

 

1人と、2頭。

 

その背後に。

 

守られたものを置いて。

戦いは、まだ終わっていない。

だが――

 

もう、戻れない……

38話も読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願い致します。

ラスト近いですが、よろしくお願い致します。

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