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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
侵す者、守る黒牙

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第35話  譲れぬ理由

いつも読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願い致します。

金属音が、森に響く。

火花が散る。

ケンジの体が弾かれる。

踏ん張る。

だが――押される。

「……っ!」

足が滑る。

体勢が崩れる。

そこへ。

 

ヴァルクの刃。

速い。重い。

迷いがない。

 

ケンジは短剣でなんとか受ける。

だが。

完全には殺しきれない。

衝撃が腕を通り抜ける。

骨が軋む。

 

「軽いな」

ヴァルクの声。

変わらず、冷めている。

その目に――熱はない。

 

ただ処理するように、振るうだけ。

再び、刃が来る。

 

水平に一閃

ケンジは低く潜る。

足元へ。

踏み込み。

逆手で切り上げる。

ヴァルクの脇を狙う。

だが。

 

読まれている。

受け止められる。

そのまま押し返される。

距離を取らされる。

呼吸が荒い。

汗が滲む。

視界が揺れる。

 

「……悪くはない」

ヴァルクが呟く。

だが。

続く言葉は冷たい。

「だが、それだけだ」

その時。

 

ヴァルクの足が止まる。

わずかに首を傾ける。

そして。

口を開く。

 

「……なぜ、狼を守る」

唐突な問い。

戦いの最中。

だが――本気の声。

ケンジが眉をひそめる。

 

「……は?」


ヴァルクは視線を外さない。

 

「なぜだ、と聞いている」

「なぜ、そこまでして獣を守る」


ケンジは一瞬だけ黙る。

呼吸を整える。

血を吐き捨てる。

そして。

口を開く。

 

「……逆に聞く」

 

低く。

はっきりと。

 

「なんで殺す?」


ヴァルクの目が、わずかに動く。

 

「……仇だ」

短く。

それだけ。

ケンジは鼻で笑う。

 

「それ、この森の奴らか?」

一瞬。

空気が止まる。

ヴァルク

「……違う」

ケンジ

「だろ」

その一言で。

何かが崩れる。

だが、止まらない。

ケンジは続ける。

 

「じゃあなんだよ」

「関係ねぇ奴らまで全部殺すのか?」

ヴァルクの眉が歪む。

沈黙。

答えない。

いや――答えられない。

ケンジが1歩踏み出す。

距離を詰める。

視線をぶつける。

 

「もしさ…」

「人間にやられてたらどうすんだよ」

「人間、全部殺すのか?」

ヴァルクの目が揺れる。

ほんの一瞬。

確かに。

言葉が、止まる。

「……っ」

沈黙。

そして。

歪む。

怒りに。

「……貴様には分からん」

低く。

押し殺した声。

 

「獣に、尊厳などない」

その言葉に。

 

ケンジの表情が変わる。

1歩、踏み込む。

「は?」

短く。

だが、重い。

「どの口で言ってんだよ!」

さらに1歩。

 

「関係ねぇもん巻き込んで殺してる奴が!!」

「人間の方が、よっぽど尊厳ねぇだろ!!」

空気が張り詰める。

 

森が、息を止める。

ヴァルクの顔が歪む。

怒り。

明確な。

初めての感情。

 

「……黙れ」

低い声。

だが、抑えきれていない。

 

「貴様ごときが――!!」

踏み込む。

先ほどまでとは違う。

速さ。重さ……

 

殺意。

 

ケンジが反応する。

だが――

間に合わない。

刃が迫る。

首筋へ。

その瞬間。

 

横から影。

黒。

ノワール。

 

爪が腕に当たる、

軌道が逸れる。

 

ケンジの頬をかすめるだけで済む。

血が一筋、流れる。

距離が開く。

ヴァルクが後ろへ下がる。

視線が移る。

ノワールへ。

そして。

再び、ケンジへ。

 

「……なるほど」

声が変わる。

さっきまでとは違う。

わずかに――楽しむ色。

 

「1人ではない…か」

ケンジが息を整える。

ノワールが横に並ぶ。

低く唸る。

だが、飛びかからない。

待つ。

タイミングを。

ケンジが口元を拭う。

血を拭う。

そして。

 

小さく笑う。

 

「最初からな」

ヴァルクが剣を構え直す。

今度は。

完全に。

“戦うための構え”

もう、つまらなそうな顔はない。

 

「……いいだろう」

低く。

静かに。

 

「まとめて来い」


森の奥で。

 

ノクスが、わずかに顔を上げる。

気配が変わったことを、感じ取る。

 

戦いが――

 

1段、深くなった。

35話読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願い致します。

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