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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
侵す者、守る黒牙

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第34話  静かなる削り合い

いつも読んでいただきありがとうございます。


森は、動いていた。

だが― 

静かだった。

叫びはない。

怒号もない。

あるのは、削られていく気配だけ。


最前線。

ケンジとヴァルク。

距離、数歩。

互いに構えたまま、動かない。

風もない。

時間が止まったような空気。

 

その中で――

ヴァルクが、わずかに息を吐く。

「……来ないのか」

興味のない声。

 

ケンジは動かない。

視線だけを固定する。

「そっちこそ」

短く返す。

挑発でもない。

ただの事実。

 

ヴァルクの目が、わずかに細くなる。

踏み込む。

一瞬。

地面がはじける。

速い。

だが――

一直線。

 

ケンジは後ろへ流れる。

刃を受けるのではなく、逸らす。

火花。

金属音。

そのまま距離を取る。

「……ふん」

ヴァルクが鼻で笑う。

つまらなそうに。

「軽いな」

評価ではない。

切り捨てるように。

 

ケンジは言い返さない。

ただ、構える。

短剣。

角度を変える。

間合いを測る。

呼吸を読む。

 

ヴァルクが再び動く。

今度は変化をつける。

下段斜め。

踏み込みと同時に切り上げ。

 

ケンジは1歩踏み込む。

逃げない。

内側へ。

刃を滑らせる。

短剣が肩をかすめる。

浅い。

だが――

初めて触れた。

 

ヴァルクの動きが、一瞬止まる。

ほんの僅か。

それだけ。

すぐに引く。

距離を取る。

「……なるほど」

「獣か……」

声が変わる。

ほんの少しだけ。

興味。

 

次の瞬間。

視線がそれる。

 

ケンジではない。

その先。

アルビスへ。

少し離れた場所。

 

アルビスとカイロス。

動かない。

互いに、見ている。

距離はある。

だが――

その間に、見えない圧がある。

踏み込めば、終わる。

均衡。

 

カイロスは動かない。

腕を組み。

ただ観察している。

「……なるほど」

小さく呟く。

その視線は。

アルビスへ。

「お前か…」

名を問わない。

報告から理解している。

 

アルビスも動かない。

目を逸らさない。

「…………」

何も語らない。


カイロスの口元が、わずかに歪む。

だが――

動かない。

「まだだ」

一言、その意味。

 

“今はその時ではない”

その間も。

戦いは進む。

森の中。

 

ノクスが駆ける。

影のように。

音もなく。

 

兵の背後へ回る。

気付かせない。

そのまま喉元へ――


一撃。

声を上げる間もなく、崩れる。

ノクスは止まらない。

すぐ影に消える。

 

次の影へ。

ノワールは逆。

あえて姿を見せる。

1匹で前に出る。

 

カイロス兵が追う。 

数人……深追いする。

 

森の奥へ。

誘い込まれる。

その瞬間。

左右から影。

精鋭たち。

連携、逃げ場はない。

短時間……終わる。

血が土に吸われる。

音は残らない。


別の場所。

1匹の狼がわざと傷を受ける。

浅い…致命傷を避けている。

だが、痛々しく見せる。

 

兵が笑いならが追う。

狩れると確信して……

だが。

 

その足が止まる。

地面。

罠ではない。

だが、足場が悪い。

一瞬の隙。

背後から、牙。

体が地面に沈む。


確実に。

静かに。

数が、減っていく。

気付かぬうちに。

確実に。

削られていく。


再び、最前線。

ケンジとヴァルク。

 

呼吸が荒くなるのは――

ケンジだけ。

ヴァルクは変わらない。

乱れない。

「……悪くない」

だが、その声は。

まだ、冷めている。

「だが」

1歩踏み込む。

今度は速い。

さっきよりも。

重い。

 

ケンジが受ける。

短剣を横にし、逆の腕を短剣の支えにして、 

だが――

力で押される。

体勢が崩れる。

一瞬の隙。

そこへ。

刃が迫る。

(……やられる)

間に合わない。

その時。

 

体を捻る。

無理やり逸らす。

刃が、脇腹を裂く。

 

血が飛ぶ。

だが――

致命ではない。

転がる。

距離を取る。

息を吐く。

呼吸は荒い。

 

ヴァルクが見下ろす。

つまらなそうに。

「……まだだな」

「獣にもなれきれないのか」 

その言葉。

だが。

その目の奥。

ほんの僅かに。

変化があった。


遠く。

カイロスがそれを見る。

口元が、わずかに上がる。

「……削れてきたな」

 

どちらが。

とは言わない。

だが――

 

戦いは確実に進んでいる。

森はまだ、静かだった。

だが。

その静けさは――

嵐の前ではない。

 

すでに始まっている“戦争”の中の静けさだった。

34話も読んでいただきありがとうございます。今後も宜しくお願いしました。

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