第33話 侵す者、守る黒牙
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森は、息を潜めていた。
風は止み。
葉は揺れず。
音すら、消えている。
まるで――
来るべき“侵入者”を、待ち構えるように。
その静寂を。
踏み砕く音があった。
重い足音。
複数。
足並みも揃い。
確実に、近付く。
森の外。
境界。
影が差し込む。
人の気配。
鉄の匂い。
血の記憶を連れて。
カイロスが足を踏み入れる。
1歩、それだけで。
空気が歪む。
森が、拒絶する。
だが――
止まらない。
「……ここか」
興味のない声。
だが、その目は鋭い。
見えている。
気配。
潜むもの全て。
その背後。
兵たちが続く。
恐れながらも。
抗えずに。
さらに。
ヴァルク。
静かに歩く。
剣に手を添えたまま。
目は前だけを見る。
もう迷いはない。
ただ――
終わらせるために。
その瞬間。
森の奥。
気配が動く。
静かに。
だが確実に。
ノクスが立ち上がる。
黄金の瞳。
細くなる。
ノワールも動く。
群れの精鋭たちが、音もなく散る。
配置につく。
狩りではない。
迎撃。
縄張りを侵された牙の動き。
その中央。
ケンジが立つ。
黒のコート。
風もないのに、わずかに揺れる。
フードの奥。
目は、静かに燃えている。
隣に。
アルビス。
同じ方向を見ている。
言葉はない。
だが――
通じている。
ここが、決戦だと。
「……来たな」
ケンジが呟く。
短剣に手をかける。
まだ抜かない。
だが、そこにある。
確かな重み。
覚悟。
森の境界。
ついに、両者が視認する。
距離。
数十歩。
誰も動かない。
風もない。
音もない。
ただ――
視線だけが、交差する。
カイロスが、わずかに口元を歪める。
「……ほう」
興味。
初めての感情。
その視線は。
ケンジへ。
そして――
アルビスへ。
さらに。
ノクスとノワールへ。
「面白い」
それだけ。
だが。
その一言で。
空気が変わる。
殺意が満ちる。
ヴァルクが1歩、前へ出る。
剣を前に構える。
音が響く。
静寂を切り裂く。
その切っ先が――
アルビスへ向く。
しかしーー
ケンジが遮る、
「……来い」
低く。
短く。
ケンジの口元が、わずかに歪む。
恐れはない。
あるのは――
覚悟だけ。
「……アルビスの前に俺が居る!」
短剣を抜く。
構える。
黒の中に、刃が光る。
その瞬間。
ノクスが、低く唸る。
ノワールも続く。
群れが応える。
森全体が、震える。
それは――
宣戦。
カイロスが手を上げる。
兵たちが動く。
一斉に。
踏み込む。
地面が鳴る。
森が軋む。
空気が裂ける。
同時に。
ケンジが踏み込む。
アルビスが消える。
ノクスが駆ける。
ノワールが影となる。
牙が。
刃が。
交差する。
侵す者と――
守る黒牙が。
ついに、激突する……
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