第28話 ぬくもりの中で
いつも読んでいただきありがとうございます。
森の奥。
静まり返っていた。
さっきまでの血の匂いも、少しずつ薄れていく。
ケンジは、木の根元に座っていた。
短剣を握ったまま。
手は……もう震えていない。
だが。
重い。
「……」
視線が落ちる。
目に飛び込んでくる赤。
こびりついた血。
自分のものじゃない。
それが、分かる。
胸の奥が、ざわつく。
(……俺がやった…)
消えない感触。
頭から離れない。
その時。
ふわり、と。
何かが触れる。
「……?」
顔を上げる。
小さな狼。
子供。
じっと見ている。
警戒も、恐怖もない。
ただ、興味。
そして――
そっと、
ケンジの手に、鼻を寄せる。
血の匂いが残る手に。
「……っ」
ケンジの肩が揺れる。
嫌がらない。
避けない。
ただ、受け入れている。
もう1匹。
さらに1匹。
気付けば、周りに集まっている。
子供たち。
その奥で。
親の狼たちが見ている。
止めない。
警戒してない。
ただ――許している。
ケンジはゆっくりと手を開く。
短剣を置く。
地面に。
そして。
震えが止まった手で。
そっと、撫でる。
柔らかい毛並み。
温かい体温。
小さな命。
「……あったかいな……」
小さく、呟く。
子狼が尻尾を振る。
もう1匹が、膝に乗る。
重み。
確かな存在。
ケンジの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
胸のざわつきが、ほどけていく。
(可愛い)
(……守ったんだ)
さっきの光景が浮かぶ。
振り下ろされる刃。
ノワールの背中。
そして――
自分の一撃。
「……」
目を閉じる。
もう、否定しない。
怖さは消えない。
でも。
それだけじゃない。
守るために。
必要だった。
それも、分かっている。
ゆっくりと目を開ける。
目の前。
子狼たち。
無防備に寄ってくる。
信じている。
それだけで。
ケンジの胸に、何かが灯る。
「……守るよ!」
小さく。
誰に聞かせるでもなく。
ただ、口にする。
決意。
その時。
背後から気配。
アルビス。
静かに立っている。
何も言わない。
ただ、その様子を見ている。
ケンジは振り向く。
少しだけ、笑う。
「……大丈夫だ」
強がりじゃない。
アルビスはわずかに目を細める。
「そうか」
それだけ。
ノワールも近くにいる。
ケンジの横。
変わらず、静かに。
寄り添うように。
その存在だけで、十分だった。
ノクスは少し離れた場所。
森の奥を見ている。
もう、戦いはないと知っているように。
その夜。
森は穏やかだった。
火はない。
だが、寒くはない。
狼たちの中。
寄り添うように、ケンジは横になる。
子狼が隣に来る。
体を預けてくる。
温かい。
目を閉じる。
浮かぶのは、血ではない。
さっきの温もり。
小さな命。
守る理由。
それが、はっきりと形になる。
ケンジは、静かに眠りについた。
少し戦いはお休みです。




