第27話 初めての牙
いつも読んでいただきありがとうございます。
静寂が戻る。
血の匂いだけが、残っている。
狼たちは散っていく。
戦いは、終わった。
ノワールもまた、背を向ける。
群れへ戻るために。
その瞬間――
「……は、はは……」
かすれた笑い声。
濁った声。
ケンジの視線が止まる。
アルビスもノクスもノワールも、
気にも止めない、
そこにいた。
倒れていたはずの男。
あの、生き残り。
顔は血に塗れ。
目だけが、濁って光っている。
「獣風情が……調子に乗りやがって……」
「俺は…騎士だぞ…」
「負けた……また?ははっははは」
立ち上がる。
ふらつきながら。
笑っている。
狂気。
「騎士様は逃げたってのに……お前ら、何様だ……?」
「なんなんだ…お前ら……」
「こんなこと…夢だ……」
剣を拾う。
震える手で。
それでも、握る。
視線が動く。
一番近いノワールへ。
背を向けた、その姿へ。
「バカにしやがって…」
「俺だって…俺だって!」
「ちょうどいい……1匹くらい、道連れにしてやる……」
低く、ぶつぶつと、
吐き捨てる。
ケンジの目が細くなる。
(……やめろ!)
声には出ない。
だが、足は動かない。
怖い……
一瞬……迷い。
その間に――
男が動く。
踏み込む。
全てを振り絞るように。
ノワールへ。
背後から。
振り下ろす。
その時。
ケンジだけが、見ていた、
気付いていた、
誰も気付いていない。
ノワールも。
アルビスも。
ノクスすら。
完全に油断、
間に合わない。
(……間に合え…!)
足が動く。
考えるより先に。
地面を蹴る。
距離を詰める。
間にあわない。
それでも――
必死に手を伸ばす。
短剣を突きだす。
止めるために。
守るために。
腕を、足を、体を伸ばす、
男の体へ。
横から。
深く。
「……え?」
間の抜けた声。
剣が止まる。
ノワールの背に、届く直前で。
男の体とケンジの体が横に飛ぶ、
そのまま、2人とも倒れる。
地面に。
音を立てて。
ケンジの手が震える。
短剣。
男の体に深く刺さってる、
男の血がケンジの手に流れ出ている、
温かい……現実。
「……あ……」
声が漏れる。
初めて。
自分の手で。
人を……
ノワールが振り向く。
静かに。
ケンジを見る。
ただ、見ている。
アルビスもまた。
視線を向ける。
ケンジの手。
震え……
呼吸もおかしい、
全てを見ている、
ケンジは動けない。
体が固まる。
頭が真っ白になる。
(……殺っ………た)
(……俺が)
否定も、肯定もできない。
ただ――
その時。
ノワールが近付く。
ゆっくりと。
そして。
ケンジの横に立つ。
体を寄せる。
軽く。
触れる、
それだけで、
現実が戻る。
呼吸が戻る。
「……っ」
ケンジが息を吐く。
震えが、少しだけ収まる。
ノワールは何もしない、
ただ、そこにいる。
それだけ。
アルビスが口を開く。
「……間違ってない」
短く。
それだけ。
責めない、
慰めない。
ただ、事実として。
ケンジは目を閉じる。
そして――
小さく頷く。
まだ、整理はできない。
だが。
1つだけ、分かる。
守った。
ノワールを。
その事実だけが、残る。
みんな生きている。
今後もよろしくお願い致します。
ここから戦いは少し無いです。




