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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
黒牙と騎士、譲れぬもの

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第26話  守る牙

いつも読んでいただきありがとうございます。

空気が、裂ける。 

最初に動いたのは――ヴァルクだった。

踏み込み。

速い。

地面がえぐれる。

一瞬で間合いが埋まる。

剣が振られる。

重い。

速い。

そして――的確。

 

アルビスは動く。

最小限。

半歩。

それだけでかわす。 

風圧が頬を撫でる。

次の瞬間。

反撃。

剣が閃く。

低く。

鋭く。

ヴァルクが受ける。

金属音。

火花。

押し合い。

力は拮抗。

だが――

 

ヴァルクが笑う。

「やるな」

押し返す。

力で。

アルビスの体がわずかに流れる。

だが崩れない。

すぐに踏み直す。

距離を取る。

再び、構える。

音もなく。

目は逸らさない。

ヴァルクも同じ。

互いに理解している。

“ここで決まる”と。

再び激突。

剣と刃が交差する。

連撃。

速さが増す。

重さが乗る。

木々が揺れる。

地面がえぐれる。

周囲の空気すら震える。

アルビスは受けない。

流す。

そらす。

当たらない。

ヴァルクの刃は、かすりもしない。 

だが――

アルビスの攻撃も届かない。

紙一重。

互いに。

決定打がない。

均衡。

その中で。

ヴァルクが一瞬、深く踏み込む。

読みを外す。

角度を変える。

来る。

速い。

重い。

アルビスは反応する。

だが――

完全ではない。

肩。

浅く裂ける。

血が滲む。

「……っ」

一瞬の痛み。

だが、止まらない。

そのまま踏み込む。

距離を詰める。

懐へ。 

突き。

ヴァルクが受ける。

だが遅れる。

布が裂ける。

浅く入る。

互いに離れる。

呼吸はあがっていない。

互いに理解する。

“殺せる”

だが――

“簡単ではない”

その時。

風が変わる。

血の匂い。

濃くなる。

ヴァルクの目が、わずかに動く。

視線の先。

バルカス。

崩れている。

脇腹から、出血。

立てない。


さらに――

別方向。

セレナ。

肩。

首に近い場所。

血が流れている。

それでも立っている。 

だが、明らかに消耗している。

その瞬間。

 

ヴァルクの動きが止まる。

ほんの一瞬。

だが――

空気が変わる。

アルビスは踏み込まない。

見ている。

その変化を。

ヴァルクの脳裏で、

一瞬、甦る、血、 

倒れる影。

届かなかった手。

守れなかった。

過去。

「……ッ!」

初めての“感情”。

ヴァルクが剣を構え直す。

だが――

 

先ほどとは違う。

“殺す構え”ではない。

そして――

 

決断。

剣を……離す。

地面に落ちる。

重い音。

響く。 

アルビスの目が細くなる。

ヴァルクは振り返らない。

そのまま走る。

一直線に。

 

バルカスへ。

「……!」 

バルカスの目が見開く。

ヴァルクが肩を掴む。

無理やり引き起こす。

そして――

担ぐ。

迷いなく。

次に。

セレナ。

近付く。

セレナは一瞬、驚く。

だが何も言わない。

ヴァルクが腕を掴む。

引く。

「行くぞ」

短く。

それだけ。

セレナの視線が、わずかに揺れが、

従う。

3人。

背を向け走る。

速い。

 

鎧が邪魔になる。

ヴァルクは外す。

捨てる。

次々と。

重さを削る。

速度を上げる。

一切、振り返らない。

ただ――

守るために。

全てを捨てて。

走る森の中を。

 

静寂が戻る。

アルビスは追わない。

ただ見ている。

その背を。

ノクスも動かない。

終わっている。

ノワールもまた。

群れを制する。

追わせない。

ケンジは息を吐く。

短剣を握ったまま。

「……いいのか?」

小さく。

 

アルビスは答える。

「……」

視線はまだ先へ。

消えていく背中へ。

「また来る」

静かに。

確信のように。

森に残るのは。

 

血の匂い。

そして――

戦いの予感。

26話も読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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