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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
黒牙と騎士、譲れぬもの

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第25話  崩れる均衡

いつも読んでいただきありがとうございます。

重い息が漏れる。

バルカスの足が止まらない。

動かなければ――死ぬ。

目の前。

 

ノクス。

ただ、そこにいる。

それだけで。

バルカスは動けない。 

「……くそっ」

剣を握る手に力が入る。

 

踏み込む。

自分から行くしかない。

振るう。

手は抜けない!全力で。

だが――

 

空を切る。

いない。

「っ――!?」

横。

気配。

反応する。

遅い。

牙が来る。

肩。

とっさに腕で防ぐ。

鈍い音。

衝撃。

押されて地面を滑る。

「ぐっ……!」

 

立て直す。

だが、追撃が来ない。

ノクスは動かない。

ただ見ている。

試しているように。

 

バルカスの背筋に冷たいものが走る。

(遊ばれてる……)

歯を食いしばる。

もう一度。

踏み込む。

 

フェイント。

上段。

振り下ろす――直前で変える。

横へ。

低く。

狙いは足。

だが――

 

止まる。

剣が止められている。

ノクスの前足。

わずかに触れているだけ。

それだけで――動かない。

「……なっ」

次の瞬間。

 

視界がぶれる。

衝撃。

腹部。

何かが突き刺さる。

「っ――!!」

息が詰まる。

声が出ない。

体が浮く。

吹き飛ぶ。

木に叩きつけられる。

転がる。

 

ようやく、息が漏れる。

「……がっ……!」

腹が……熱い!。

視線を落とす。

脇腹。

切れている!

そこまで深くないが。

血が溢れる。

「……く、そ……」

手で押さえる。

多少抑えられる。

が……流れる。

だが――

立つ。

膝が震える。

それでも、立つ。

 

ノクスは動かない。

距離を詰めない。

ただ、見ている。

「……来いよ……!」

叫ぶ。

自分を奮い立たせるように。

恐怖を押し殺すように。

ノクスは見ている。

 

ノクスが1歩踏み出す。

それだけで。

バルカスの体が硬直する。

(来る……!)

構える。

剣を前に。

だが――その瞬間。 

別の音。

金属とぶつかる音。

視線が揺れる。

ほんの一瞬。

目の前から、ノクスが消える。

「――っ!?」

背後。

気付いた時には。

牙が、目の前!

首!

狙われている。

死。確定……


その瞬間――

バルカスは、歯を食いしばる。

体を捻る……動く。

無理やり間に合わせる。

完全ではない。

直撃を避ける。

牙が、掠める。

肩が浅く裂ける。

血が吹く!

だが、生きている。

距離を取る。

転がるように。

息を荒げる。

「……はぁ……っ……!」

限界が近い。

分かっている。

勝てない。強い!

だが――

退かない!退けない!

視線の先。

ノクス。

変わらない。

ただ、見ている。

圧倒的な存在。

その時。

風が揺れる。

ほんの一瞬。

ノクスの視線が動く。

別の戦場。

それを。

バルカスは見逃さない。

「……っ!」

最後の力。

踏み込む。

今の全てを乗せる!

剣を振る。

叫びと共に。

だが――

 

届かない。

ノクスは動いている。

その先へ…

空を切る。

そして……

無音の一撃。

再び。

脇腹。

傷口。

深く入る!

「がっ――!!」

血が噴き出す。

体が崩れる。

膝をつく。

剣が落ちる。

もう、立てない。

視界が揺れる。

それでも――

顔を上げる。

ノクスを見る。

「……まだ……だ!……」

掠れた声。

ノクスは見ている。

ただ。

1歩、近付く!

終わらせる……

25話も読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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