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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
黒牙と騎士、譲れぬもの

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第22話  削る牙

いつも読んでいただきありがとうございます。

森が、動く。 

最初に崩れたのは、人間側だった。 

「どこだ!!」 

叫びが響く。

だが、答えはない。

 

影が走る。 

一瞬。 

それだけで、兵士が倒れる。 

「ぐっ!」 

血が散る。 

「見えない……!」 

恐怖が広がる。 

狼たちは、姿を見せない。 

ただ、削る。 

一撃で仕留めない。 

逃がす。 

追わせる。 

そして――

 

また一人、落とす。 

「くそ……!」 

隊列が乱れる。 

指示が届かない。 

視線が散る。 

そこを、狙う。 

音もなく、牙が届く。 

「ぎゃああっ!!」 

悲鳴。 

その奥で。

 

ヴァルクは動かない。 

剣を肩に担いだまま。 

ただ見ている。 

「……なるほど」 

低く呟く。 

「群れで狩るか」

「しっかり鎧の隙間を狙って」 

理解する。 

バルカスが焦る。

「団長、このままでは……!」

 

「黙って見てろ」 

冷たく切り捨てる。 

「これは戦いじゃない」


一瞬、間。 

「狩りだ」 

その言葉に、兵士の顔色が変わる。 

自分たちが――獲物だと、気付く。


森の奥。 

ノワールが動いていた。 

静かに。 

確実に。 

視線は全体を捉えている。 

狼たちが動く。 

散り、寄り、消える。 

無駄がない。 

ノワールは吠えない。

 

だが―― 

1歩の位置。 

視線の動き。 

それだけで、群れが従う。 

完全な統率。

その後ろ。

 

ケンジは息を整えていた。 

短剣を握る。 

震えは――ある。 

だが、抑える。 

目の前。

 

ヴァルク。 

動かない。 

だが、圧がある。

(……行く!) 

踏み出す。 

地面を蹴る。 

一気に距離を詰める。 

「……!」

 

バルカス、セレナが叫ぶ。 

「団長――!」 

「ヴァルク様!」

その前……

ヴァルクが動く。 

速い。 

振り向きざま。 

剣が走る。 

ケンジは止まらない。

低い姿勢、 

避ける。 

紙一重。 

そのまま懐へ。 

短剣を振る。 

だが――

 

弾かれる。 

「甘い!」 

一言。

 

衝撃。 

腕が痺れる。 

距離を取られる。 

ケンジは歯を食いしばる。 

(……なんとか見えてる)  

もう1度。 

踏み込む。 

フェイント。 

低く。 

だが――

 

読まれている。 

剣が来る。 

速い。 

避けきれない。 

肩を掠める。 

血が飛ぶ。 

「っ……!」 

それでも止まらない。

 

「……いいな」 

ヴァルクが呟く。 

ほんのわずか。 

興味。 

だが、それだけ。 

「弱い!」 

1歩。 

踏み込む。 

終わる。 

その瞬間――

 

影? 

横から。 

速い。

 

ヴァルクが反応する。 

剣を振る。


ギリギリで避ける、

ノクス。 

すでに別の位置。 

音もなく、背後へ。 

牙が迫る。 

ヴァルクが身体を捻る。

 

間一髪。 

掠める。 

血が一筋。 

「……ほう」 

ヴァルクの目が細くなる。 

今度は、完全に興味。 

「お前か」 

低く。 

ノクスは答えない。 

ただ、立つ。 

静かに。 

圧だけを放つ。 

ケンジが息を整える。 

横に並ぶ。 

一瞬だけ。

 

ノクスが視線を向ける。 

それだけ。 

他には何もない。 

だが――

 

“退くな” 

そう言われた気がした。 

ケンジは短剣を握り直す。 

「……もちろん!」 

小さく。 

誰にも聞こえない声。

その奥。

 

アルビスは動かない。 

ただ見ている。 

全体を。 

戦場を。 

ノワールもまた。 

動かない。 

まだ。

 

その時ではない。 

削る。 

崩す。 

そして――

 

“決める” 

そのための、時間。

森の中で。 

命が減っていく。 

静かに。 

確実に1体また1体。 

そして――

 

戦場は、次の段階へ進む。

22話も読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願い致します。

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