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月影の双狼と黒翼―誇り高き2匹の狼と、黒翼の守護者―  作者: アル治
黒牙と騎士、譲れぬもの

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第20話  嵐の前

新章に入ります、これからもよろしくお願い致します。

規則正しい音が響く。

金属と空気を裂く音。

ヴァルクの剣が振られている。

無駄がない。

速さも力も、均一。

ただ繰り返す。

何度も。

何度も。

止まらない。

 

少し離れた場所で、バルカスが息を吐く。

「……相変わらずだな」

「お気に入りの剣じゃないのに」

隣のセレナが、

「あれは特別だからね」

視線だけヴァルクに向いている。 

――その時。


足音。

乱れた足音。 

振り返る。

1人の男が走り込んでくる。

顔は青ざめ、呼吸は荒い。 

「はっ……はっ……!」 

言葉が出ない。

ただ、視線が泳ぐ。 

ヴァルクを見る。 

――逸らした。 

その瞬間、ヴァルクの剣が止まる。 

静寂。 

「……何だ」

低い声。 

男は慌てて膝をつく。

「ほ、報告を……! 森での件で……!」 

言葉が途切れる。

喉が震えている。 

「……」

ヴァルクは何も言わない。 

代わりに、バルカスが口を開く。

「まぁまぁ落ち着け。ゆっくり話せ」 

男は何度も頷く。

「は、はい……! 部隊は……壊滅……! 俺だけが……」 

その場の空気が、僅かに重くなる。 

「それと……カイロス様の命で……」

男は息を整えながら続ける。

「兵を……二十、三十……追加で……同行するようにと……」 

沈黙。 

ヴァルクは剣を肩に担ぐ。 

「判った」 

冷たくいい放つ、 

そして一歩、歩き出す。 

「……俺の邪魔するなよ」 

突っぱねる、 

男は息を呑む。

 

鎧の音が近づいてくる。 

整った足取り。

揃った呼吸。 

兵士達。

二十を超える数。 

統率された動き。 

――だが。 

男は、わずかに震えた。 

あの森を思い出す。

血。

牙。

目。 

「……っ」 

ヴァルクは振り返らない。 

ただ一言。 

「弱いな」 

それで終わりだった。


月影の森。 

息が上がる。

「はっ……!」

剣が振られる。

だが、遅い。

「遅い」

アルビスの声。

冷たい。 

次の瞬間。 

弾かれる。 

ケンジの体が後ろに流れる。

足がもつれる。 

「死ぬぞ」 

容赦がない。 

ケンジは歯を食いしばる。

立ち上がる。 

「……まだ……!」 

踏み込む。 

だが―― 

止められる。 

一瞬で距離を詰められる。 

刃が喉元で止まる。 

「終わり……」 

静かに。 

沈黙。

 

ケンジの肩が上下する。

息が荒い。 

悔しさが滲む。 

アルビスは少しだけ視線を落とす。 

「……でも」 

わずかに間。 

「悪くない」 

ケンジが顔を上げる。 

アルビスは腰に手をやる。 

短剣を1本、取り出す。 

光を受けて、静かに輝く。 

それを――渡す。 

ケンジが受け取る。 

手の中に収まる。 

「これは……お前のだ」 

短く。 

ケンジは見つめる。 

重さを確かめる。 

(……軽い?) 

握りやすい。

手に馴染む。 

アルビスは言う。 

「落とすなよ」 

それだけ。 

ケンジは頷く。

強く。 

「……ああ」 

風が吹く。 

森が静かになる。 

ノクスが顔を上げる。

空気が張り詰める。

狼たちが、一斉に視線を向ける。 


ノワールも視線を向ける。 

気配。 

遠く。 

だが、確実に。 

近付いている。 

狼達が動く。 

吠えない。 

ただ、並ぶ。 

静かに。 

牙を隠したまま。 

その奥で。 

アルビスが立つ。 

ケンジの隣に。 

短剣を握る手が、わずかに強くなる。

 

そして―― 

次の日。 

森の入り口。 

足音。 

重い足音。 

止まる。 

ヴァルクが立っている。 

その背後に兵。 

バルカス。 

セレナ。 

誰も喋らない。 

風が止まる。 

森の奥。 

気配。 

視線。 

まだ距離はある。 

だが―― 

逃げ場はない。

20話読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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