第19話 恐怖の報告
いつも読んでいただきありがとうございます。
私の中で折り返ししてるか後半突入位になっています。今後もよろしくお願い致します。
走っていた。
息が持たない。
足がもつれる。
それでも――止まれない。
「はっ……はっ……!」
男は森を抜けた。
転がるように。
地面に手をつく。
吐く。
胃の中はもう空なのに、それでも吐く。
震えが止まらない。
視線が定まらない。
「……なんだ……あれ……」
言葉が壊れている。
思い出す。
血。
牙。
目。
あの森。
「……無理だ……」
首を振る。
否定するように。
だが――消えない。
足音。
自分のじゃない音。
振り返る。
誰もいない。
なのに、
まだ見られている気がする。
「来るな……来るな……!」
叫ぶ。
声が震える。
涙が滲む。
その場から逃げるように、
再び走り出した。
扉が叩き開けられる。
「か、カイロス様!!」
男が転がり込む。
部屋の空気が止まる。
カイロスがゆっくりと顔を上げる。
その目は冷たい。
「……何だ」
低い声。
男は床に這いつくばる。
呼吸が乱れている。
まともに話せない。
「も、森が……!」
それしか出てこない。
カイロスの指が机を叩く。
苛立ち。
「報告しろ」
短く。
命令。
男は震えながら顔を上げる。
「ガルドが……バドも……」
言葉が途切れる。
思い出してしまう。
あの瞬間を。
「狼が……」
空気が重くなる。
「女も……」
カイロスの目が細くなる。
「……続けろ」
男は歯を鳴らしながら言う。
「バドが……やられて……」
喉が詰まる。
「一瞬で……」
震えが止まらない。
「俺は……逃げて……」
生き残ったのは、この男だけだ。
仲間は――転がっている。
腰が抜けた。
立てなかった。
ノクスとアルビスに見付かった。
目が合う。
動けない。
逃げる気力もない。
だが――
何も起きなかった。
冷たい視線だけが残る。
そして、興味を失ったように、視線が外れた。
カイロスに報告が終った時。
カイロスの背後。
重い気配。
フルプレートの男。
いつの間にか、すぐ後ろに立っていた。
男はびくりと体を震わせる。
(……なんだ、こいつ……)
恐怖が増える。
森とは別の恐怖。
カイロスはゆっくりと立ち上がる。
「……逃げたのか」
低い声。
男は慌てて頭を下げる。
「も、申し訳……!」
言い終わる前。
カイロスが鼻で笑う。
「いや、いい」
意外な言葉。
男が顔を上げる。
カイロスの口角が歪む。
「面白くなってきた」
その目には怒りが宿っている。
だが同時に――
興味。
「森に“何か”がいるな」
フルプレートの男が、わずかに首を傾ける。
初めての反応。
だが何も言わない。
カイロスが振り返る。
「金は出す」
短く言う。
「獣相手ならアイツだな」
「奴を呼べ」
その一言で、部下が動く。
慌ただしく部屋を出ていく。
男はまだ震えている。
カイロスが見下ろす。
「お前は運が良かったな」
静かに。
男は頷くことしかできない。
「……だが」
その一言で空気が変わる。
男の顔が凍る。
カイロスは笑う。
「二度目はない」
冷たい宣告。
男は何も言えない。
ただ震える。
数日後。
扉が開く。
重い足音。
入ってくる男が2人女が1人。
整った装備。
無駄のない動き。
目は冷静。
元副騎士団長――ヴァルク。
元部下のバルカス、
同じくセレナ、
カイロスは満足そうに笑う。
「来たか」
ヴァルクはカイロスの目を見る。
「依頼は?」
簡潔。
無駄がない。
カイロスは指で机を叩く。
「狼だ」
それだけで十分だった。
ヴァルクの目がわずかに細くなる。
「判った」
カイロスは言う。
「強いぞ」
「やれるか?」
笑みを浮かべる。
ヴァルクは短く息を吐く。
「誰に言っている!」
バルカスがすかさず、
「団長、相手は依頼人です」
「……失礼を」
カイロスが目を閉じながら、
「まぁいい」
フルプレートの男は、その後ろで微動だにしない。
呼吸すら感じない。
空気が重い。
カイロスが目を閉じたまま、
「狼を全部倒してこい」
命令。
ヴァルクは背を向ける。
「俺に指図するな」
そのまま部屋を出る。
残された空間。
カイロスは笑う。
低く。
「狼殺しのヴァルクか」
その視線は森の方向へ向いていた。
一一一まるで獲物を見るように。
19話も読んでいただきありがとうございます。
次から章が変わります。




