8話 特別な場所
夏休みもあと2週間を切った。
私達3人は、リリスの家を離れ、自分達の家に帰ってきていた。
リリスやカリアさんは残念そうにしつつ、また学園で、と声をかけてもらった。
街並みを坂の上から眺めて、
「いやー!久しぶりの街!いいねぇ!」
カイトはうんうんと頷き、
「だな!早速だが、どうするんだ?」
私は少し頭を捻り、
「まずは、村長のところに行こうよ。それから、秘密基地ね」
「お、りょーかーい」
ソラの、普段とは違うのんびりした返しを聞いて、私達は村長の住む家後足を運んだ。
☆
「…こんにちはー!」
やがて、一人暮らしがちょうど出来そうなログハウスに着いた。
私はベルを鳴らした後、声をかける。
しばらくすると、どたどたと音がして、扉が開く。
「はいはい!どちら様…って!ミム!ソラもカイトも帰ってきてたのね!」
「ええ、村長。お久しぶりです」
ソラが頭を下げる。
白髪混じりの髪に、優しげな金色の瞳。
この人は、先代のリストロム領主の妹なのだ。今はこうして、街の中で"村長"という役目についていて、私達のような孤児を積極的に引き取り、育てている。
一言で言うなら、とてつもなくいい人である。
「さっ、入ってちょうだい!お茶でもいれるわ」
「ありがとうございます」
荷物を指定された場所に置いて、リビングの椅子に腰掛ける。
相変わらず、綺麗に保たれている。
猫も多い。むしろ増えてる気がするのは私だけか…?
数分程して、紅茶が置かれる。
村長は近くの椅子に腰掛け、
「よく無事で帰ってきてくれたわね…!嬉しいわ!」
「村長…私達そんなヤワに見えます?」
「子供はいつだって、親からすれば弱く見えるのよ」
そんなもんなのか…?
首を傾げていると、村長はカイトの方を向き、
「カイト。剣術はどう?うまくいってるかしら?」
「っ! ああ!今は能力も制御できてるし、剣も上手くなったと自負してるぞ!」
「ミムと戦った場合は?」
村長が間髪入れずに聞く。
カイトは一瞬、向かい側にいる私を見た後、
「村長…俺がミムという絶対的存在に勝てると思ってるのか…?」
村長はケラケラ笑いながら、
「あら。まだミムに勝てないの?」
「いやぁ…能力OFFなら全然勝てるが…」
村長はその先の言葉は聞かなかった。ただ、私の方を見て、
「そう。制御できるとはいえ、やっぱり強過ぎるのね…」
とだけ、言った。
村長は私の能力を知って尚、怖がらなかった数少ない人。
リリスもだが、〈鑑定〉系統の能力は心が強い場合が多い。
この人は本当、優しいんだな。
しばらく無言でお茶を堪能した後、ソラが口を開く。
「村長。私ら、夏休み終わりまではここに居ようと思ってるの。いても大丈夫?」
恐る恐る…と言った聞き方をすると、村長は目を見開き、
「何言ってるの!あの家はずっと、あなた達の物よ!鍵はここにあるから、好きに出入りしなさいな」
「っ!ありがとう村長!」
ソラが珍しく感謝の意を見せた。
一番まともなソラが鍵を受け取り、亜空間にしまう。これは、【次元系統魔法 亜空間】という魔法だ。無詠唱の習得が当たり前な魔法として有名で、便利さもある、完璧なものだ。
「じゃあ村長!鍵ありがとうね!」
「えぇ。また来なさいな」
手を振りかえし、「にゃん」と鳴く猫を軽く撫でる。
そして私達は家へと歩みを進めた。
☆
「ふぃー!久々の家だぁ!」
「あ"〜…この後どうする?もう行くか?」
荷物を置いた私は、カイトの言葉に頷き、
「そうだね。ソラ、いい?」
聞くと、ソラはキッチンの諸々を確認しながら、
「なんで私に聞くの。いいわよ、行きましょう!」
ソラが一番最初に扉に手をかける。
続いてカイト、私が出て、扉を閉め鍵をかける。
そして、裏手にある森に入る。
本来なら魔物が出るぐらい暗いのだが、気配は一切ない。
暫く進み、木々が生えている空間で止まる。そこは、人間の目に見れば、普通の森の一部。でも、私達3人と、特殊な精霊や妖精には、違って見える。
「邪精霊。ここ守っててね」
召喚して言うと、彼女は
「はーい!ご主人様、楽しんできてください!」
ヒラヒラと手を振られた後、私達はその空間に向かって、右手を伸ばす。
そして、これでもかと、魔力をそこに注ぎ込む。
「…」
一瞬にして、瞼の先に光を感じた。
「…! 久々だな、ここも」
私達の眼下にあるのは、ぽっかりと空いた空間に、色とりどりの花が咲き誇り、右手側には小さな滝と泉のある、不思議な空間。
「まずはお祈りしないとね」
ソラの歩みを着いていき、底の見えないくらいに綺麗な泉の前で、膝をつく。
指輪を外してポケットにしまい、祈りを捧げる形を取る。
「…」
大量の魔力を泉に注ぐ。
それは魔法を使うでもなく、ただただ、泉の中に注ぎ込んでいく。
数分して、私達3人は形を解いた。と同時に、どさりと音がする。その方向を見ると、草むらに寝っ転がっているカイト。どうやら、眠っているらしい。
いつの間にか、ソラも、同じように目を瞑り、寝息を立てている。
「…」
やがて、私にも眠気が襲ってきた。
抵抗する気力なんてないので、素直にそれに身を任せ、草むらに転がる。即座に、私の体は眠りについた。




