5話 当主との面会
カラカラと鳴る音に耳を傾けながら、馬車に揺られること数十分。
街から離れ、ぼんやりと外を眺めていた。家こそポツポツとあるが、殆どは畑か野原、って感じだ。
「妹様!着きますよ!」
御者の声と共に、リリスは笑顔になり、窓を開ける。
今の季節にしては涼しげな風が流れ込む中、サングラスを支えつつ、窓から顔を出してみる。
「っ! おお…!」
「あの屋敷が、私の住む家になります!」
白い壁と柱で作られた、如何にもなデザイン。結界やその他能力の気配もする。
「そういや、ミムのサングラスとか、私達の指輪って大丈夫なの?」
ソラが聞くと、リリスは頷いて、
「はい!許可は取ってあります!…そもそも、その指輪は、あなた方の生命線でもあるはずですから」
「っ!」
リリスは顔を少し下げて、音量も落とす。
「私の〈鑑定〉では、他人の年齢や弱点もわかる。その中には当然、"隠している本当の自分"が弱点である場合だってありますからね」
〈鑑定〉も便利だが、人の隠しておきたいものを嫌でも見てしまう、という点では、本人も苦しんでいそうだな。
私はリリスの肩に手を置いて、
「でも、リリスは例え見てしまっても、言わないでしょ?私達は信頼してるから」
言うと、リリスの顔は上がり、
「はい!誰にも言いませんので、大丈夫です!」
肩に置いた手を握られ、言われる。
それに、思わず「ふふっ」と笑ってしまう。
我ながら、良い友人を持ったものだ。
☆
「着きました!ようこそ、我が家へ!」
「はぇ〜っ…」
デカ過ぎて、言葉が出ない。
パーティーでも出来そうな吹き抜けの広間に、階段が両脇にある。
リリスはそれを指差し、
「あそこから上に上がります。2階部分は、客間や仕事場、私達の個人部屋になります」
辺境伯ってすごい(小並感)。
天井についているシャンデリアとか、周りの彫刻とか、気になるものが多過ぎて、話があんまり入って来ない…。
リリスは呆気に取られる私達を見て、
「ふふっ。皆さん、驚いてくれて何よりです!では、早速なんですが…」
「? 何かするの?」
ソラが聞くと、リリスはまた顔が沈み、
「魔物討伐の前に、一度父様と顔を合わせていただきたく…その……父様からの頼みでして…」
「はい…?」
え〜っとつまり?現当主様と会えと? 一般人が?
ソラが身を乗り出し、
「まっ、そうよね。外じゃなくて中で狩るんだし、どんな奴か見ておきたいわよね。いいわよ、会うくらい」
ソラはもう…肝が座り過ぎだよ…。
あの時も、最初に能力でなんとかしてみるって言ったのソラだったし…。
まあでも、危険度チェックみたいなものだもんね。
「わかった。行こうか」
カイトも頷くと、リリスは私達の前に来て、
「では、ご案内いたします!」
☆
「ここです」
綺麗な彫刻の彫られた、木製のドア。
リリスが3回ノックをすると、中からくぐもった男性の声が返ってきた。
リリスは、
「お父様。昨日言っていた、3人が来ました」
すると、中から、「入ってくれ」と返ってきた。
リリスはこちらを向いて、ウィンクをした後、扉を開けた。
「いらっしゃい。よく来たね」
濃い紫色の髪をして、茶色い瞳の、優しげな男性が出迎える。
男性が椅子から立ち上がり、
「俺は領主、ジェイン・リストロムだ。そこに座ってくれ。リリスもだ」
「はい!父様!」
ソファーに腰掛け、右側に私とリリス、左側にソラとカイトが座る。
前側にあった椅子にジェインさんが座り、
「まず。リリスと仲良くしてくれてありがとうな」
「…へっ?!」
驚いた。リリスの事について言及されるなんて…。
私は手を横に振って、
「いやいや!私達は何もしてません!」
事実、何もしてないのである。
友人になりたいと言って来たのはリリスだし、私達は一切関わるつもりもなかった。
しかし、ジェインさんは笑顔を浮かべ、
「昔から、〈鑑定〉という能力のせいで、姉や兄に迷惑をかけてばかりだと、自分を嘆いていたんだ。そんなリリスが、心強い友達ができたと言ってくれた時のあの嬉しさは!心が軽くなるのを感じたよ!」
リリスの顔が真っ赤に染まり、下を向く。
能力による差別も王都となれば増えていく。そんな中で、〈鑑定〉という戦えない能力を持つリリスは、私達よりもずっと苦労してきたんだろう。そしてそれは、家族もだ。
ジェインさんは優しい笑みを浮かべながら、私の方を向いて、
「これからは、うちの領地内で魔物を狩るんだろう?リリスの姉の、カリアを説明役として派遣する。頼んだよ」
「はい!ありがとうございます!」
これからは、ずっと狩りか。
正体だけは見られないよう、手加減して狩るとしよう。




