7話 ソラの本気
〜ソラ視点〜
危なかった。後もう少し遅かったら本当にラシャードさんが〈調教〉されていた。
それくらい、あの状態は危険だ。
能力に意識がのまれたのか、サイコパスのような思考回路になり、他人の絶望顔を好んだり、自分の思い通りにしたいと思うようになる。
「ソラ。次はソラだよ」
ほんの少しだけ疲れた顔で、ミムは言う。その肩には、さっき調教したドラゴン。
ミムは、戦いの中で『自分が生きていると認識さえすれば良い』と言った。
正確には、"生きている"と認識した上で、対象を目で見るか、声を聞かせるか、相手の体や力に触れることで、自身の持つ魔力を流して調教している。
だから、それらを潰されるとミムは動けないのだが…まあ、そんな状況に置かれることが滅多にない為、ほぼ意味のないデメリットだ。
私は何歩か進んで、震えているアデリーさん達の所に行く。
絶望したその顔。…それが、一番私を興奮させる♡
「カイト、ミム。頼んだ」
「ああ」 「ちゃんと暴れてきてね」
私はミムがやったように、指輪を後ろの方に放り投げる。
ドクン、と心臓が跳ねる。
その顔が…私の心を踊らせる。
「何よ…ッアンタも、何か隠してたの?!」
「隠してる…?まあ、そうだね。覚醒してすぐ化け物呼ばわりされたら、そりゃあ隠すでしょ。だってバレたら、またそう呼ばれるかもしれないんだから」
私は歩いて行き、能力を使う。
「【石能 孔雀石・ダイヤモンド】」
2人の足首に、宝石の枷ができる。
「はっ…は?何よ…ただの、さっきのじゃ…」
アデリーは、そう言って枷に触れる。
能力を使って壊そうとしたんだろうが…それは、ぴくりとも動かなかった。ヒビすら入らず、そこにずっとある。
「あれ…ぁれっ…嘘ッ、なんで…?」
「それ、孔雀石じゃないもの。当たり前でしょ?」
「はあ…?」
私は足首の枷を指差し、
「それは、孔雀石とダイヤモンドの【混合宝珠】。ダイヤモンドの力は"外界効果完全削除"。これでアンタらの能力も封じたし、壊れることもないわ」
「何よそれッ…」
「ふふ…ああ…♡」
私は自分の手にダイヤモンドのナイフを作り、歩いていく。
「【混合宝珠 水晶・ダイヤモンド・金・黒曜石】
震える2人を囲むように、ダイヤと水晶の天井と周り、床が金と黒曜石で作られた箱。
私だけの"宝石箱"だ。
「2人ともいい顔するじゃん。その絶望顔が、私は大好きなんだよね♡」
「は…?」
「その箱の中なら、状態が変化しない。酸素もあるし、お腹も減らないし、老化しない。…私は飾りたいんだ。アンタらみたいな、絶望顔とか、怖いって感情を常に見せてくれる私だけの宝石を…ね?」
私はアデリーを閉じ込めている箱に触れ、ナイフを突きつける。
するりとナイフの刃は宝石を貫き、その首すれすれに来る。
「ヒッ…」
「あははっ…♡ その顔!ずっと見ていたい。飾りたい。その箱の中なら、ずうっと、その顔で居てくれるよね…?宝石っていう綺麗なものの中に、"絶望顔"っていうより綺麗なものがある!…なんて、美しい芸術だと思わない?♪」
箱をつうっと撫でながらそう言うと、アデリーは何も言わず、ぺたんと膝をついた。
私はそのまま、ナイフを突きつけようとした。
が、体の動きがぴたりと止まる。
「ソラ。そこまで。それ以上は危ない」
「暴走はそこまでだ、ソラ。一旦落ち着け」
カイトとミムの言葉の後、指輪が付けられる。
すうっ、と、あの思考が消えていった。
「…。暴走してたのね」
「してた。久々に見たね」
「はへっ…」
アデリーさんもまた、どさりと倒れた。
「なっ、なんとー!まさか、アデリー選手も倒れた!ここまでの大番狂わせは中々ありません!」
アナウンサーの声と同時に、宝石の箱が壊れる。
最早能力を使う気すら起きないであろうユルキさんを前にする。
「カイト。能力使う?」
「使いたいが…いいのか?」
ミムはこくりと頷き、
「どうせ、怖がってるだけで棄権の意思ないでしょ?能力解放しちゃいなよ」
「…そうか。なら…」
腰を抜かしたのは震えるだけのユルキさんを前にして、カイトは指輪を外して、私に渡した。




