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死亡フラグ回避に飽きたので、悪役令嬢らしく悪の組織をプロデュースすることにしました  作者: 高橋 淳


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やっと名誉回復が叶いました

セレスティーヌはそれまでの冷徹な表情から一転、驚きに目を見開いた可憐な令嬢の顔を作ってみせた。そして、跪くアルフォンスを潤んだ瞳で見つめ、感極まったような震える声で応じた。


「……アルフォンス殿下。まさか、このような場でお助けいただけるとは……。殿下から承ったあの特命、あまりに重責でわたくしのような謹慎中の身に果たせるか不安でなりませんでしたの」


彼女はそっと胸元に手を当て、安堵の溜息を漏らす。


「わたくしの不名誉を雪ぐ機会をくださるだけでなく、こうして窮地を救ってくださるなんて……。殿下の、そして軍のお役に立てて、これほど光栄なことはございませんわ。名誉挽回のチャンスをくださり、本当に、本当にありがとうございます」


その殊勝な態度と美しい微笑みに、会場の貴族たちは「やはり彼女は王家の犠牲になった健気な功労者だったのか」と、一気に同情と賞賛の眼差しを向ける。


アルフォンスは彼女の指先に恭しく口づけを落とすと、眩しいものを見るような眼差しで彼女を見上げた。


「……礼を言うのはこちらの方です、セレスティーヌ嬢。貴女の勇気ある行動がなければ、この国の闇は暴かれなかった。貴女は我が軍にとって最高に優秀な協力者だ」


その光景を、王弟は「ほう、そうきたか」と独り言ち、エドワード王太子は自分の立場が完全に逆転したことを悟って絶望に顔を歪めた。


「憲兵! 罪人たちを連れて行け。……セレスティーヌ嬢、そしてアルフォンス。後でじっくりと、この『国家への貢献』の詳細を聞かせてもらうよ」


王弟の号令とともに、国王夫妻と王太子、そして震える聖女が引きずられていく。

その背中を見送りながら、兄だけは、妹が被害者の顔をしながらもアルフォンスという最強の盾を手に入れ王家を完膚なきまでに叩き潰したその鮮やかな手腕に鳥肌が止まらなかった。


軍で共に働く同僚として、アルフォンスが口にした「特命」がこの場限りの真っ赤な嘘であることは明白だった。プライベートとは打って変わって職務に関しては潔癖なあの剣聖が、あからさまな私情で軍の権威を私物化し、妹の「悪」を正当化するために共犯者となることを選んだ。その瞳に宿る、妹の苛烈な手腕を面白がるような底知れない執着の色。兄には、最強の剣士が妹という猛毒に自ら当てられにいったようにしか見えなかった。


(……セレスティーヌ、お前は一体どこまで計算していたんだ)


騒乱の主役たちが引きずり出され、静まり返った広間には、もはや彼らを遮るものは何もなかった。しかしセレスティーヌはこれ以上の追撃はもちろん、勝ち誇った演説もすることはなかった。


「お父様、お母様。少し疲れましたわ。……帰りましょうか」


その一言で、ロシュフォール公爵家一同は潮が引くように鮮やかに会場を後にした。

家路につく馬車の中、窓の外を流れる王都の夜景を眺めるセレスティーヌの横顔は先ほどまでの冷徹な執行人のものではなく憑き物が落ちたような静かなものだった。


隣に座る公爵夫妻は、娘の成し遂げた大金星に興奮を隠せない様子で語り合っている。一方で、向かいに座る兄は暗がりの中で妹の表情を盗み見た。漆黒のドレスに身を包んだ彼女は膝の上でそっと自分の手を見つめている。アルフォンスに口づけを落とされた、その指先を。


「……お兄様、そんなに怖い顔をなさらないで。わたくし、ただ名誉を守りたかっただけですわ」


ふとこちらを向いた彼女は、いつもの「お淑やかな妹」の顔で微笑んだ。だがその瞳の奥には、王家を破滅に追い込んだ冷徹な知略と剣聖をすら手懐けた傲慢な支配者の影が消えることなく揺らめいていた。

屋敷に到着し、重厚な扉が開く。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


出迎える使用人たちの列の先でセレスティーヌは一歩、馴染みのある我が家の床を踏みしめた。


「ええ、ただいま。……明日からは、少し忙しくなりそうですわね」


彼女が脱ぎ捨てた手袋の下、その指先は次なる盤面を動かす時を待ちわびるように、微かに熱を帯びていた。

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