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死亡フラグ回避に飽きたので、悪役令嬢らしく悪の組織をプロデュースすることにしました  作者: 高橋 淳


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断罪者への断罪

いつも応援してくださる皆様(特に前話までの間に反応をくださった方!)、本当にありがとうございます。

いただいたリアクションの一つひとつが、私にとっては宝物のような励みです。

見てくださる方がいる喜びを噛み締めながら、これからも大切に物語を紡いでいきたいと思います。残りわずかですが、ぜひ最後までお付き合いください!

「捕らえろ! その不敬な女を今すぐ捕らえろ!」


エドワード王太子の叫び声が広間に響き渡った。近衛兵たちが剣を抜き、セレスティーヌを包囲しようと一歩踏み出す。だが、彼女の背後に控えるロシュフォール公爵夫妻は動じない。それどころか、愛娘を汚物のように呼んだ王太子を、今すぐこの場で挽肉にしかねない冷徹な視線で射抜いていた。


「――兵を下げよ。私の検分が終わるまで、指一本触れることは許さん」


その場を制したのは、国王の弟であり、法を司る裁定者としての地位を確立している王弟だった。彼はエドワードの騒ぎ立てる声を完全に無視し、手元の書類を一枚一枚、事務的な手際で捲っていく。


「国王陛下、王妃殿下。この帳簿に記された数字、そして王印の不正な流用……もはや言い逃れはできません。王領鉱山の開発失敗という個人的な負債を、王立銀行の準備金から補填し、あろうことか禁忌の薬物を『聖水』として売り捌き、マネーロンダリングを行っていた。……これは国家に対する背信行為だ」


王弟は王たちを冷淡に切り捨てると、セレスティーヌへと向き直った。その瞳には恐怖など微塵もなく、むしろこの完璧な証拠を揃えた彼女の知略に対する、純粋な知的好奇心と確かな信頼が宿っている。


「……私の息子であるアルフォンスが、君を気にしていた理由が少し分かった気がするよ。これほど鮮やかな手腕、彼が放っておかないわけだ」

「殿下、それは何のお話かしら?」


セレスティーヌがとぼけて見せると、その背後で絶望に染まっていた国王が、縋るように叫び声を上げた。


「待て! 待つのだ弟よ! その証拠とやらは、その女が不正に盗み出したものではないか! 王立銀行への不法侵入、機密情報の窃盗……たとえ内容が真実だとしても、そのような犯罪によって得られた証拠に法的妥当性などあるものか!」


「そうですわ!」

王妃もまた、崩れた王冠を直す余裕もなく言葉を重ねる。


「謹慎中の身でありながら、公爵家の権力を傘に闇の組織を使い、王家の情報を盗み出すなど……それこそが反逆罪ですわ! 捕らえるべきはこの泥棒猫の方です!」

「……っ、そうです! エドワード様、私は何も知りませんわ!」


聖女もまた、涙を流しながら王太子の胸に顔を埋めた。


「彼女は私を陥れるために、毒物を聖水に混入させたんです! 謹慎中にそんな恐ろしい毒を作るなんて……彼女こそが魔女だわ!」


王太子が再び勢いづき、剣をセレスティーヌに向ける。


「聞いたか叔父上! 証拠の信憑性も入手経路も不透明だ! そもそも銀行の心臓部に侵入するなど、まともな令嬢のすることではない。こいつは悪の組織と通じている犯罪者だ!」


王弟は冷めた目で彼らを一瞥し、再びセレスティーヌを見た。


「……だそうだ。入手経路の正当性を問われれば、法的には分が悪い。どう説明するつもりかな、セレスティーヌ嬢」


周囲の貴族たちがざわめき、王族たちが勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべる。しかし、セレスティーヌは恐れるどころか、退屈そうに長い睫毛を伏せた。


「あら、皆様。必死すぎてお化粧が崩れていらっしゃいますわよ?」


余裕を見せてはいるものの、セレスティーヌの脳内は冷静に回転していた。

(……確かに、物理的に盗み出したのは『ナイトメア』の連中だものね。そこを突かれると少し面倒かしら。「道端に落ちていたので拾いました」で押し通すのは、流石に無理があるかしら……?)


彼女が扇子の陰で「次の一手」を吟味していた、その時だった。


「——その必要はありません。その調査は、軍務の一環として私が彼女に依頼したものです」


広間の大扉が勢いよく開け放たれ、一人の男が風を切るようにして颯爽と現れた。

腰に帯びた聖剣、白銀の甲冑。若くして『剣聖』の称号を冠する王弟の息子——王子アルフォンスだった。

彼は騒然とする広間の視線を一身に集めながら、真っ直ぐにセレスティーヌの隣へと歩み寄る。そして、まるで主君を守る騎士のように彼女の半歩前に立ち、国王とエドワードを冷徹に射貫いた。


「アルフォンス!? お前、何を言って……!」


エドワードが絶句する中、アルフォンスは父である王弟に向かって短く頷いた。

「父上。軍の極秘調査において、王立銀行内の資金の流れに不審な点が見つかりました。しかし、軍が動けば『ネズミ』に感づかれる。そこで私は、独自の卓越した情報網を持つロシュフォール公爵令嬢に、潜入調査と証拠の確保を特命として依頼したのです」

「特命、だと?」


王弟が面白そうに目を細める。


「はい。これは軍務です。彼女が手にした証拠は、王国の安全保障に関わる正当な捜査資料として、私が受理いたします」


あまりに堂々とした「後付けの正当化」に、会場は再び静まり返った。

セレスティーヌは隣に立つアルフォンスの横顔を、扇の陰からじっと見つめる。


(あら……。私、そんな依頼を受けた覚えはありませんけれど? でも、悪くないわ。軍がバックにつくなら、これ以上の『正当性』はないもの)


アルフォンスは、セレスティーヌの方を振り返った。その瞳には、かつての「お淑やかな令嬢」ではない、漆黒のドレスに身を包み、傲慢に微笑む彼女への、隠しきれない情熱と心酔が宿っていた。

アルフォンスは、そのまま流れるような動作でセレスティーヌの前で片膝を突いた。大広間の中心、全貴族の視線が突き刺さる中で、彼は彼女の細い指先を恭しく取り、熱を帯びた眼差しで見上げる。


「……私の目に狂いはなかった。貴女のような方にしか、この大仕事は成し遂げられなかったでしょう。……完璧ですよ、セレスティーヌ嬢」


その言葉に、会場中がひっくり返ったような騒ぎになった。

国王と王妃、そして王太子が憲兵に囲まれ今まさに権威が瓦解しようとしているその目の前で、王国最強の剣士が、漆黒のドレスを纏い悪役そのものの装いをした公爵令嬢に対し、プロポーズでもするかのように跪いたのだ。

セレスティーヌは、扇子の陰でわずかに口角を上げた。


(あら、この剣聖様、意外とノリが良いのね。軍務の依頼なんて真っ赤な嘘を吐いてまで、私の『悪』を正当化してくれるなんて。……面白いじゃない)

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