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黄砂に咲いた薔薇  作者: 二色サカ
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第三章ー不機嫌なお姫さま・4

お久しぶりです。遅くなって申し訳ありません。

新キャラが出ます。

入り組んだ通路を通って広い空間に辿り着いた。

ルスティカが最初にいた部屋が6つくらい入りそうだ。アカシアはここを食堂だと言った。その言葉に偽りなく長い机と丸い椅子が置かれていた。


椅子も机も低い。その分、座ると天井が高く見えて窮屈な感じはない。

天井はドーム状になっていて壁が淡く光っているので暗くない。


「あの光……なに?」

ぼんやりと緑色に光っているのがわかる。目を眇めながら聞く。

「あぁ、ヒカリゴケだな。煮炊きするからどうしても湿度高いんだ、ここ。いつの間にか自生したらしい」

「へぇ……あれがヒカリゴケなのね」

実物を見るのははじめてだ。

王宮にヒカリゴケのような地味なものを献上するものはいなかったのだ。


「そうそう。いまじゃあれが灯り代わり。便利なもんだよ」

ルスティカとアカシアが入ってきたのとは違う出口からやってきた女が傍らに立ち、盆を下した。


気風のいい話し方をする女は蛮族の特徴である褐色の肌に黒い髪、茜色の瞳を持ち、女性にしては身長が高い。

体格は大きくないが男受けする、凹凸がハッキリした体つきだ。なのに同性のルスティカが反感を覚えないのはこの女性に婀娜めいた雰囲気がないからだろう。

露出の多い服装だが異性に媚を売るものではない。鍛えられた、しなやかな筋肉の美しさに目が行く。まるで黒い豹のようだとルスティカは思った。いつかの宴の余興で父が呼んだサーカスの興行の目玉が黒豹と立派な鬣のライオンだった。


この女は武人なのだと武術に明るくないルスティカでも悟れる。そういう鋭さがあったのだ。


ルスティカの周囲にいた王宮のバシラをはじめとする女たちはみな美しく、儚げな風情の者が多かったのだと蛮族の女を見てはじめて気づいた。

彼女たちは言うなれば美しいだけだ。この女のように精気が漲っていない。


女は蠱惑的な、赤く厚ぼったい唇で弧を描いた。というのに快活な笑みに映るのは雰囲気と眼力の強さが所以だろう。


「冷めないうちに食べちゃいな。宮廷料理と違って食べ慣れないだろうがま、これも経験だと思うんだね」

「はぁ……」

サバサバした口調ととるかぞんざいな口調と取るか。親しみのある笑みを浮かべているのでルスティカを軽んじているのではなく頓着しない性格なのだろうと結論付けた。

むしろ自分の方が礼儀に反しているとルスティカは気付けなかった。女の早口に圧倒されていたのだ。

女と正面に座ったアカシアを窺うと二人とも大きく頷いた。そこでルスティカは改めて配膳された食事の中身を見た。


「これが――料理」

侮蔑ではなく純然たる驚きだった。これまで自分が王宮でとってきた食事と全く内容が違うのだ。

野菜と干し肉のスープと固そうなパン。――これだけだ。

「……これだけ?」

愕然とした表情で顔を上げたルスティカは2人に訊いた。

「あぁ。少ないだろ?」

「少ないなんてモンじゃないわ!果物とかないの?レモン水とか、チーズとか……。魚料理が何もないじゃない!」

いつもの食事との差を一つ一つ列挙して最後には絶叫した。感情の幅が急上昇して両手を机に叩き付けていた。一見、ルスティカの我儘な振る舞いに見えるが心中は違った。


(これが、ここでの食事なの?……これを、マレーナも食べてたの?)

胸に広がる苛つきに爪が食い込むほど拳を握り締める。


「そうだな、これが普通の食事だ。チーズが出せるのは週に一度だ。貴重な保存食だからな。この辺は酪農できないから乳製品は貴重なんだよ。新鮮な果物は祭りの時とかくらいだな。乾燥させたヤツならおやつで食べるけど。魚料理なんてとても無理だ。今までで一度だって食べたことないぜ」

激したルスティカに腹を立てることなくアカシアは一つ一つ説明した。

「――1度も?」

衝撃だった。ルスティカの顔から感情が抜け落ちてしまうくらい。

「あぁ。海があるのは正反対だからな。ここまで運ぶうちに腐っちまうだろうよ」

「でも!王宮には届くのにっ――!」

巻貝と王都はそう離れていないのになぜという気持ちがルスティカを駆り立てる。

「そもそも魚は陸路で運んでないんじゃないか?早馬飛ばせばいいってモンじゃねーし。多分、王室専用の空路があんだろ」

「それはっ――」

言いかけて、言葉が出なかった。否定も肯定もできない。――知らないのだ。ルスティカは、知らない。

自分の口に入るものであってもどんな経路を辿ってきたのか、知らない。知っているのは産地と味くらいだ。

説明できない自分の無知さに愕然となったルスティカは咄嗟に口を覆った。


「あー……とりあえず腹ごなししたらどうだ?俺も食べるし」

「自分の分は自分で用意しなよ、アカシア」

それまで一切口を挟まなかった美女が口を開いた。

「わかってるよ」

アカシアは歯を見せて笑うと「ちょっくら持ってくるわ」と言い置いて去って行く。

その背中をルスティカは何となく見送ってしまった。


「――食べないのかい?」

そのまま手を付けないルスティカに妖艶な女は言った。

「戻ってくるんでしょう?どうせだったら一緒に食べるわ」

「律儀だねえ。先に食べててもアイツは気にしないよ」

女はからからと笑った。唇の赤と真珠のような歯の白の対比が美しい。

「――そうかもしれないけど……」

反論する材料もないのでルスティカは口ごもる。

考えてみればおかしな話だ。昨晩が初対面で――不法侵入してきて勝手に自分をここまで攫ってきた男と朝食を摂りたいだなんて。


けれどここでアカシアのことを無視できないとルスティカは感じていた。それはたぶん――。

(彼が優しい……からだわ)

誘拐犯だというのにアカシアはルスティカに好意的に接している。蛮族だと貶しても彼は怒らなかった。――敵意むき出しのナジブという青年とは対照的に。


怒りはある。でも邪険にはできないとルスティカは思い始めていたのだ。

思案するルスティカに女は笑いかける。

「ま、仲良くやってくれるとあたしとしては助かるよ。可愛い息子だからね」

「――――えーっ!?」

落ちてきた言葉にそれまでの思考が一瞬で吹き飛んだ。

目を見開き、大声を出したルスティカは思わず立ち上がっていた。手が盆に当たって食器が鳴り、スープがこぼれたが気にならない。

呆然とするルスティカを見て女は――アカシアの母親は楽しそうに笑った。

「意外かい?」

「わからないわよ、だって……全然似てない!それにとても見えないわ」

親子だと知ったルスティカは二人の共通点を探そうと母親を見たが――見つからない。

むしろ本当に母親か?揶揄われているだけではないかと疑いたくなる。

細部まで見れば見るほど似ていない上にとてもアカシアのような年の息子がいるとは思えない。

恐らく20代のアカシアの母親ならばどう少なく見積もっても30代後半のはずなのだが――


(見えないわ、全然……)

肌は瑞々しく張りがある。顔にも腕にも皺や弛みは見当たらない。

「姉弟とか?」

その方がまだ説得力があると思った。

「そんなにかい?ま、確かにアカシアは父親似だけどさ」

アカシアの母親は苦笑した。


衝撃から立ち直れないルスティカは口を開けっ放しにしたままただただアカシアの母親を見上げていた。

数秒の沈黙が下りる。その空白の時間でアカシアの母親はふと気づいた。

「そうだ、そういえば名乗ってなかったね。あたしはウズマ。若いのからは姐さんって呼ばれてるけどアンタは好きに呼んでくれていいよ」

(姐さん――ピッタリね)

肝が据わっていて豪気な気質に見受けられるウズマによく似合っていると思った。

「……マレーナは、なんて呼んでいたの、あなたのこと」


きっと顔見知りのはずだと思った。彼女の口からはまだ一度も妹の名は出ていないけれど。

質問を受けて一瞬――本当に一瞬、ウズマは変な表情になった。

(え……?)

すぐさまウズマは消し去ったが強烈な違和感にルスティカは戸惑った。

彼女らしくない表情だったのだ。

短時間しか接していないルスティカが知る限りのウズマだが――彼女は気安く、親しみが持てる人物だった。今まで周りにいなかった性格の人間だが警戒心は抱かなかった。同じ女性だからではない、ウズマの気質がそうさせるのだ。


「あぁ――ウズマさんって呼んでたよ」

声もどこか硬いものに思えた。

(なんで――?)

胸に針が刺さった気がした。痛い。


「あー腹減ったー!って、あれ?ルスティカ食べてなかったのか?」


2人の間の空気が停滞し、冷えていったところでアカシアが戻ってきた。

瞬間、空気が目まぐるしく動き熱を持ち始める。

その変化にルスティカは目を瞬かせた。

「アンタが来るのを待っててくれたんだよ、バカ息子。女を待たせるなんてなってないね」

ウズマはくびれた腰に手をやりわざとらしく凄んだ。

「それは悪かったな、ルスティカ」

人懐っこい笑みを浮かべてアカシアは詫びた。

元より怒っていないルスティカはそれよりも盆の上の方が気になった。真向いに座ったアカシアとルスティカの食事の量の差が。

「――そんなに食べるの?」

呆気に取られて彼の盆を見た。

「欲しかったら取っていいぞ。また持ってくればいいからな!」

「……そうじゃないわ。食事はこれで足りるわよ。そうじゃなくて……」

「じゃー食べるかっ」

「えっ」

言い淀むルスティカにアカシアは頓着せず食事に手を付け始まる――というか凄い速さで掻き込んでいく。

「――」

「ルスティカも早く食べた方がいいぞ。色々やらされるから」

「は?」

「母さんは人使い荒いからなー」

「それは聞き捨てならないね、アカシア。食い扶持ぐらいは働いてもらわないと困るだろ?」

(食い扶持……働く……わたしが?)

信じられなくて手が動かないルスティカにウズマは眩しい笑みで言った。


「タダ飯はないからね。自分でできることは自分でするんだよ」

「――っどうしてわたしが働かなくっちゃいけないのよっ!好きでこんなとこっ……ぐっ」


頭が回ったルスティカはさっそく抗議しようと口を開いたが大きく開けたのがいけなかったらしくアカシアにパンを咥えさせられた。

「~~~っっ!!」

アカシアを睨み、くぐもった声で抗議する。

固いので噛み千切るのも飲み込むのも大変だ。何せ水分がない。

嚥下するまでは静かだった。

スープで潤したルスティカはさっそく怒鳴りつけた。


「何するのよっ!」

「あったかい内に食べた方がうまいからさ」

「パンだったじゃない!」

「あんまり口大きく開けたから、つい」

「つい~っ!?」

「入るかな~ってさ」

アカシアが笑いながらパンを手に取ったので警戒したルスティカはすぐさま口を閉じて睨み付ける。

「あなた、わたしを黙らせるには食べ物与えればいいと思ってない……?」

「…………バレたか」

誤魔化そうと思ったものの、ルスティカの視線に晒されてアカシアは断念した。

「あなたねっ、子どもじゃないのよっ!?」

「でもまだ大人とも言えないだろ?成人してないし」

「屁理屈こねないで!わたしは女性としての扱いの話をしてるのよ!」


2人のやり取りが目の前を通過していくのをウズマは澄まし顔で見ていた。息の合った会話にウズマは穏やかな笑みを浮かべた。


「ほらほらお2人さんさっさと食べちゃいな。食器洗いも追加するよ」

2人は顔を見合わせた後無言で食事を摂ることにした。





現実のヒカリゴケは強く発光しません。この世界独自です。あと生息地も違います、洞窟に生えますが日本だけ?みたいです。


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